一般論として、

92歳と言えば「大往生」だろう。

 

ところが

先月亡くなったうちの舅、

「大往生」とは思えない。

 

葬儀屋さんが

「大往生ですから

お花は明るくしましょう」と言うので

舅の遺影の横には

ちょっと季節外れの

ひまわりが調達されてきた。

 

なんとなく、違和感があった。

 

自分のイメージとしては

真っ白の菊だった。

が、葬儀の後でお花は

参列者に持ち帰ってもらうので、

白い菊ばかりではつまらない。

だから豪華に色とりどりの花を

祭壇に飾ることにした。

 

先日、瀬戸内寂聴さんが亡くなり

「大往生」だなぁと思った。

昔、取材をさせていただいたことがあるが

周囲にはお弟子さんなのか

お手伝いさんなのか

スタッフが沢山いて、

瀬戸内さんは人に囲まれている感じだった。

 

舅はどうだったか。

舅は89歳の時に、5つ下の妻を

癌で亡くしている。

うちは二世帯住宅だが

夫婦がとても仲良しだったので、

最後まで二人で過ごし、

私が彼らに

添い寝するようなこともなかった。

 

思い返すと姑は

「眠れない」「身体中が痛い」と

ずっと繰り返していた。

が、家族全員、姑の体調の悪さが

まさか癌から来るものとは気付かず、

長い間、精神的なものだろうと

思っていたのだ。

 

なくなる2ヶ月前まで

入院する当日の朝まで

姑はきちんと朝ごはんを用意した。

 

最後まで夫に尽くした姑の努力は

皮肉なことに、

舅の生きる気力を奪ってしまったと思う。

 

舅は姑の四十九日で

喪主を立派に務めた明くる朝

大腿骨骨折で救急搬送されたのだが、

それから3年近く、

姑のいない家には戻らなかった。

物理的に、戻れなかったし、

嫁の私が、戻さなかった。

 

病院と介護付き有料老人ホームとを

2点 5 往復しただけで、

途中、自宅に一度、立ち寄ったものの、

舅は自分たちの部屋に入ろうともしなかった。

落ち着かなくてホームに帰りたがった。

 

姑のいない家は、

舅には「家」じゃなかったのだろう。

 

おまけに舅が老人ホームに

やっと慣れてきた半年後、

90歳の舅には過酷すぎた。

突然、「コロナ」がやってきたのだ。

週一回、車椅子で

散歩に連れ出していたのに、

出来なくなった・・・

面会も会議室の窓を開けて15分。

 

それまでは舅の部屋で

掃除したり、

着替えを手伝ったりしていたが、

夏冬物の入れ替えすら、

出来なくなった。

 

舅は人生最後の1年半、

外の空気をほとんど吸えなかったのだ。

 

一度、吐血して入院した時は

退院時のお迎えに行く夫(長男)まで

PCR検査を求められた。

3万もかかった。

まぁ検査は仕方がないとしても、

せっかく病院で元気になったのに、

外食もできないまま

またホームに戻った。

 

遊歩道に囲まれた

なかなか素敵な

介護付き有料老人ホームで

お食事なども美味しかったようで、

感謝はしているが、

コロナ禍の中で亡くなることを恐れて、

何人かの住人は

ご自宅に引き取られた様子だった。

 

うちは90歳の舅が

この先、どれくらい生きるのか

見当が付かなかったので

迷ったけれど、

ホームから自宅に引き取る決意は

ついに出来なかった。

 

7月に吐血で二週間入院。

かなり元気になってホームに戻り、

何事もなく、3ヶ月がすぎて

ちょっと安心していたら

続いて10月に2回目の吐血。

その時も一回目と同様、

元気に退院するとばかり思っていたので、

一泊2万5千円の個室でいいですか?と

病院で聞かれた時には

一体、この病院に

どれくらいいるのだろう?と

つい、勘定してしまったほどだ。

 

だからまさかふた晩で

亡くなってしまうとは。

 

病院によると、

苦しまなかったそうで、

私たちが呼び出されて

病院に駆けつけた時も

すでに心肺停止状態だった。

 

コロナで病室には

入れないかと思っていたら

もう最後だということが

医師には明白だったのだろう。

倒れた朝にも15分ほど、

面会をさせてくれて

私なりにお別れを言えた。

 

でも家族みんなで手をとって、

励ますとか、

ありがとうと伝えるとか、

最後のお別れは

出来なかったのである。

 

これを大往生と言うんだろうか?

一人で病室で亡くなることが?

 

もしもコロナがなかったら、

ホームにちょこちょこ通ったり

外食に連れ回したり、

車椅子に乗せて、

旅行もできたかも知れないのだ。

一緒に暮らして介護はできなかったが

せめて楽しい思いを

させられていたかも知れない。

それが残念でたまらない。

 

コロナはなんと言う

ひどい病気なんだろう。

 

そして最後まで

舅を家で大往生をさせることを

決断できなかった私は

ずっとこの

敗北感みたいな、

嫁として失格、みたいな

この苦々しい思いを

引きずって行くのかな。

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