このところ、台風が二つも来たので、

有料老人ホームで暮らしている舅の見舞いが

ちょっとおろそかになってしまった。

月二回は最低でも行っているのだが、

ちょっとした掃除とか、衣替えとか、

必要最低限の仕事をして

立ち去るので、あまり会話もない。

というか、舅の表情が失くなって来たので

会話らしい会話が成立しないのだ。

 

90歳のオツムを

活性化する方法はないんだろうか?

 

舅の顔を眺めながらふと考えていたら、

少ない白髪がそれなりに伸びて、

耳に1センチもかかっているのに気づいた。

そう言えば6月にホームに来てすぐに

訪問の理容師さんを頼んだのだが、

舅曰く、「乱暴だった」らしく、

舅はその後、二度と

散髪したいと言わなくなっていたのだ。

 

ホームの隣に、小さくて古い

いかにも「散髪屋」という感じの店が

あるのには気づいていたので、

私はすぐにホームを飛び出して見に行った。

 

いかにも昭和な店の中に、

70代?くらいの男性がひとり座っていた。

「あいていますか?すぐに連れて来ていいですか?」と

声をかけ、その男性がうなづくのを確認したら

私は大急ぎでホームに戻った。

職員に「隣の店に散髪に行きます」と告げると

すぐに体温と血圧を測ってくれて

外出OK が出た。

 

舅を車椅子に乗せ、

小雨も気にせず隣の理髪店へまっしぐら。

 

男性の奥様と見られる優しそうな女性が

待っていてくれて、

車椅子を見た途端に

「後ろ向きなら入りやすいですよ」と

言ってくれた。

 

その通りだった。

 

そして椅子の近くまで車椅子を寄せると

よっこらしょ、と舅がゆっくり移動した。

椅子に座ってケープを掛けてもらったら

舅はそれだけで気持ちよさそうに目をつぶった。

 

東京オリンピックの年にお店を始めたそうだ。

夫婦で55年ということになる。

お店はほとんど改装してなかったのだろう。

良く言えばレトロ、申し訳ないけれど

率直に言えばボロボロだ。

 

でも

「どんなスタイルにしましょう?」と

聞いてくれた。ほとんど髪がないのに(笑)。

バリカンで刈り上げるのではなく、

ハサミで切ってもらうことに。

 

ご主人がお金のやりとり担当、

奥様がカットなどをやっているようだった。

多分、ともに70代後半か?

うちも90だけど、

ご夫婦もかなりの年齢らしかった。

 

妻が突然失くなってしまったこと、

もう90歳であることを伝えると、

「うちは昭和3年のお客様(91)が

一番古いんですよ。

お店始めたときからのお客様です。

娘さんが連れて来てくれます。

ずっと来て欲しいんですけれど」と言って

残念ながら舅が最年長ではないことも知った。

 

そして「90歳ですか。

全然ボケていらっしゃらないですよ。

年取ると、忘れちゃうだけです。」と。

頑張って通ってください、という

暖かい励ましと捉えた。ほっこりした。

 

ずっと話をしたかったけれど、

25度まで気温が上がるという予報だったのに、

ガスストーブがついていて、暑いのなんの。

たった10分ほど座ってても汗ばんだ。

終わったらまた迎えに来ますからと言って

私はホーム前に停めていた車で待機した。

 

迎えに行ってみると、

たっぷり小一時間かけて

耳毛やら鼻毛やらまで切ってくれたようで、

舅はこざっぱりしていた。

本当に気持ちよさそうな顔。

 

整髪剤はどうしますか?と

また奥様が気を利かせてくれた。

 

若い頃はジェームス・ディーンと

呼ばれたほどのハンサムボーイ。

155センチほどの小男だったのに、

162センチあった姑が惚れたそうだ。

昔はオシャレだったけれど、

部屋の洗面台に置いた

ヘアリキッドはもうそのままだ。

 

久々に

ヘアリキッドをつけてもらった。

「この年代の男性は

ポマードがいいっていう方も多いんですよ」と奥様。

ポマードなんて、今は死語だ。

舅はそういう時代の人なんだね。

 

なんどもお礼を言って外に出た途端、

舅が「あぁ〜さっぱりした〜〜」と言った。

感情がこもったセリフを聞いたのは

実に何ヶ月ぶりだろう?

車椅子で自室まで帰るまで、

そして帰ってからも、

「気持ちよかった〜〜さっぱりした〜〜」と

なんども言っていた。

 

頭や顔をマッサージしてもらったせいか、

顔つきが違った。回路がつながった感じ。

反応が全然違う。というか、

反応がある!

 

こんなに喜んでくれるなら

もっと早く連れて行けばよかったし、

これからはちょくちょく連れて行こう!

これでわずか3500円なんて

安いもんだ。

準備して連れ出して終わるまで

2時間見ておかないとダメだけど、

なんとか時間を作ろう。

 

部屋に舅を落ち着かせて、

私はそそくさと荷物をまとめて

「じゃぁ〜また来ますね」と言った。

舅は久々の大きな声で

「ありがとう」と言ってくれた。

 

最近はすっかり元気がなかった舅を

まさに蘇らせてくれた

理容師さんご夫婦に感謝感激でした。

ありがとうございました。

また連れて行きますね!