私は今年すでに58歳になった。あっという間に還暦だ。最近ちょっと「終活」というか、色々な締めくくりの準備を意識するようになった。長年会っていない友人たちに連絡を取ったり、古い写真や手紙を整理したり。とは言ってもうちにはまだ舅89姑84、実家には母82がしぶとく居座っている。つまりまだ世代交代が出来ておらず、うちの夫は59歳のいい歳したおっさんのくせに、いつまでたっても「一人っ子おぼっちゃま」の極楽とんぼ的雰囲気を引きずっている。私は私で、事実上は一家の主婦のはずが、メインの台所には自分の好みの皿すらおけないし、二世帯住宅の庭には舅姑が私には何の相談もなくいきなりクレーンで運び込んだ樹齢170年ものの辛気臭いウバメがなぜかど真ん中にど〜〜んと植えられたままだ。つまり嫁の私は58歳の今でも「居候」なのだ。

 

まぁこの家自体、間取りなどは私がプランニングしたので、二階はほぼ自分の好きなようにした。ところが、住んでいる千葉県というこの場所が、土着(←確か放送禁止用語ではあるが、この単語以外、思い浮かばない)の千葉県人である舅姑の好みというか、都合を優先して買て移り住んだ場所なので、私たち夫婦と娘が将来もここに住むべきかどうかが、微妙なのだ。

 

そもそもこの家は子供ができなかった一人っ子の夫と私が、親から家をそっくり相続して住むことを前提に40才を目前に建てた。正直、建てたときにはあくまでも親たちが亡くなってから私たちが二人で住むつもりで、舅姑だけが移り住んだ。ところが、40歳の夏、管理職研修を受けている途中で、私は体の変調を感じ取った。何と結婚して18年目で突然妊娠したのだ!子供ができないから諦めて親と週末だけでも一緒に過ごすことが必要になるかなと覚悟して、半ば腰が引けた状態で、この家を建てていたからさぁ大変。

 

せっかく子供が生まれるなら、舅姑たちも一緒に暮らしたいかな、なんて気遣ったのが今思えば大きな間違い(笑)だったが、その時は「とりあえず」みたいな形で、妊娠中から舅姑との同居を始めた。ちょうど夫は海外に単身赴任を始めたばかりだったので、できたばかりの二世帯住宅で舅姑と妊娠中の嫁が同居を始めたのである。

 

一人娘が生まれてからはもっと大変だった。子供部屋がなかったし、二階の窓は大きく子供が落ちても無理はない造りだった。大急ぎで窓枠に柵をつけた。子供部屋には9畳の客間を当てることにした。

 

そして16年がたった。”大人四人で住む終の住処”として作った家には数々の齟齬が生じている。ティーンエイジャーの娘には流石に自分の部屋が必要になり、200万円かけて和室を洋室に作り変えた。クローゼットや机、本棚をデザインして照明も壁紙やカーテンも娘に好きなものを選ばせた。15年以上も、和室にカラーボックスを積み重ねて、適当な部屋にしていた罪滅ぼし、親としての責務だと思って貯金をはたいた。

 

まだ問題は残る。もともと親世帯が一階、私たち息子世帯が二階と設計したため、1階の方が広い。どうもおなじパターンで建てたお隣はかわいそうに、5人家族が上、ご主人を無くしたおばあちゃまが一人で広々した一階にお住まいだ。うちも上はそもそも二人で住む想定だったため、台所風呂トイレは共用ではないものの、小さい。特に台所はIH ヒーターが一つあるだけだった。大人3人+トイプーが暮らすにはきゅーきゅーなのである・・・。

 

最悪なのは世代交代が遅れている事だ。恐れ多くも家族構成が天皇陛下ご一家とそっくりなのだが、ご承知の通り、その天皇家も来年には夫と同い年の皇太子が即位される。が、うちの舅は天皇陛下より5つも年長なのに、引退が未定なのである。夫の「一人っ子おぼっちゃま」状態は一体、いつまで続くのか?

 

伊豆の山の上で一人暮らししている母は物理的にはもちろん、心理的にさほど邪魔にはならないのだが、舅姑とは血が繋がっていない。正直、邪魔とまで言わないけど(言ってるか?笑)精神的なストレスは大変なものだ。最近は老人二人だけでは生活できない「要介護1」なので、気をつけて監視していないと危なっかしい。すでに舅の糖尿食を含む全ての食材は私が発注している。

 

実は89の舅はついに自分ではインスリンが打てなくなった。姑が一生懸命、目盛りを数えて打っている。老老介護だ。なぜ嫁が打ってやらないのかって?毎朝毎朝8時半に嫁は家には居られませんよ。仕事あるし。高校生のお弁当を作り駅まで私が車で送っているのだ(そもそも舅姑が引退するための家なので駅から徒歩20分もかかるから娘はブーブー言っている)。それに元国家公務員の舅が単身赴任中の息子の嫁に毎朝お腹にインスリン打ってもらってまで生きたいと思っているのかどうか?

 

私は29年もNHKで働き、同期男性と同じかそれ以上の給料を稼いで来た。なのに、「自分たちの家」さえない。事実上、まだ自立できていない。気づいたらもう還暦間際。下手をすると私たちの方が先にくたばる。小さくてもいいから、別に一戸建てじゃなくていいから、自分たちの家を好きなように飾って、こじんまりとでいいから3人で暮らしたかったなぁと、最近、しみじみ思う。親にしたら一人息子に全部残してやろうと思ってくれているのかもしれないけれど、もう時代が違う。娘だって近い将来、大学に進学したら千葉に住む必要があるのか?むしろ都心、山手線か中央線沿いのマンションの方が、便利なのだ。でもこの家を建てたときに39%の資金を私たち夫婦が負担しているから、また別の家を建てるお金なんてないのよ。都心に移りたくても移れない。これがあと何年続くのだろう?考えたら暗くなる。

 

老婆心ながら言いますが、お若い皆さん。これからは人生100年時代、自分たちも長生きするけど、親もしっかり居座ります。ちゃんと人生設計を考えて、安易に親から何でももらおうと思ったら大間違い。親がどこにいてもどんなに大きな家でも、あなたの生活に必要かどうか?親の相続があってもなくても、自分で好きな場所に好きな人と好きなライフスタイルで住めるように、是非是非頑張って準備してください。終活は還暦からやっていたのでは遅い!若いうちから頭の片隅に親と自分の長〜〜い老後を意識して、万端に準備してくださいね。###