私が乙女の頃、

「セクハラ」という言葉はまだなかった。

ウィキペディアによると、

sexual harrasment という言葉が

アメリカで誕生したのが70年代、

日本で「セクハラ」という

言葉と概念が誕生したのは

80年代なのだそうだ。

 

私は1984年に

NHK女性記者二期生として

23歳で入局している。

新人時代は、

現在TBSのコメンテーターを務めている

鎌田靖記者を始め、

大変に才能とガッツのある

先輩記者達に囲まれていた。

 

私は今思えば、

結構な帰国子女のお嬢ちゃんで、

根性などまるでなし。

ただ単に若くて可愛いだけの

記者だったのかもしれない。

当時の体重は42キロから46キロ程度。

たまたま同じ福岡出身の

梅谷武司キャップという上司に恵まれた。

豪快でダンディーで、

おそらく凄くモテた人なのだと思うけれど、

新人の私に対しては

「父親」に徹して本当に守ってくれた。

ご自分の娘さんより

頼りない存在だったのかも?と

今になって思う。

 

名古屋にいた当時は

とにかく仕事に必死で、

数々のセクハラに気づかなかった。

というか、「セクハラ」という

概念自体がなかったから、

若い女の子は

おじさん達に口説かれたり

触られたりしても当然という

雰囲気があったことは間違いない。

膝を撫でられるなんて、何度あったか?

 

それでもセクハラというのは不思議なもので、

好みの人から触られても

全く怒らないのに(笑)、

嫌いな人から触られたらさぁ大変。

全身に虫唾が走るとはこのことで、

触られたところを

切り落としたくなるくらいの嫌悪感に包まれる。

 

記者生活の中で

一番嫌だったセクハラが

他社のおじさん記者からのアプローチだった。

当時警察官でも触る人はいるにはいたけれど、

法律に詳しいせいか、

堂々と触る人はいなくて、

可愛いものだった。

ところがおじさん記者は

「見つからなければOK」ということを

おそらく経験上知っていたのだろう。

私は愛知県警で名古屋市内の

17の署(16区+水上署)のすべてを

担当していたのだが、

記者クラブでたまたま

その人と部屋に二人きりになると

必ず手を握ってきて、

「妻とは別れるから結婚しよう」と

しつこく言ってくるのだ。本当に辟易した。

 

当時私は23〜4歳だ。

他の記者達がいるときは

おくびにも出さないのに、

誰もいなくなると、私の手を握って離さない。

 

でも当時、セクハラという言葉はまだない。

 

男の人ってこういうものなのかな?と

男性経験もほとんどない私は

「困ったなぁ〜」と思うだけで、

どこに訴えるも何も、知識がなかった。

 

でもあまりにもしつこくて、

記者クラブで会うことを避けないと

仕事にならなくなってきたし、

そのおじさん記者に会うかと思うと

行きたくなくなってしまうのに耐えかねて

梅谷キャップに相談した。

 

キャップは驚愕し、

その記者が勤める大手新聞社に

「うちの記者の手を握るのはやめてくれ」と

言ってくれたらしい。

今なら週刊誌ものだったかも。

 

ピタッと終わった(笑笑笑)。

 

当時記者はタクシーで取材先を

回るのが常だった。

ここでも良からぬ噂を立てられた。

夜回りという取材は午前2時とか3時とか

本当に長い時間、

タクシーの運転手さんにお世話になる。

もちろん料金は

タクシー券で支払うのだが、

張り込みの時などは

缶コーヒーを自分の分と運転手さんの分買って

差し入れをすることにしていた。

 

ところが

どういうわけか、

缶コーヒーを差し入れただけで、

「大村記者にホテルに誘われた」とか

「大村記者がホテルから出来てたのを見た」とか

アホみたいな、デマを流された。

ホテルに行くなら、

まさか局指定の契約タクシーでは

行かないでしょ。

 

これまた梅谷キャップが猛然と怒り、

NHKと契約していたTタクシー社は

「大村を乗せてはいかん」ということになった。

私も半年くらい、他のタクシー会社を

指名して乗るようにしていた。

当時、T社はホットラインもある

局の専用車だったので、

別の会社を呼んで乗るのは正直、厄介だった。

でも半年くらいは

T社は出入り禁止にしてもらった。

 

細かなセクハラは本当にたくさんあった。

幸いにも警察官のセクハラは少なく、

消防士に関してはゼロでした。

だから消防士は無条件に今も大好き。

一番正義感が強い男性だと考えています💖。

 

ひどいのが地元名古屋の企業人。

女性を遊び相手としてしか

見ていなかったのかな。

保守的な地盤ということもあるのでしょうけれど

ある地元有名デパートの広報担当、

(時効でしょう)

宴会で横に座った私の足をさすりまくった上、

あなたは処女なの?どうなの?と聞いてきた。

人生で後にも先にも一番破廉恥な質問でした。

以来、そのデパートでは

買い物をしていません(笑)。

 

あれから30年以上も経って

なんで今更いうの?

とお怒りの諸兄。

今は笑い話として言っているのですよ。

こっちも良い大人です。

 

でも私よりもっとひどい

セクハラにあっている後輩達が

本当にたくさんいるのは事実です。

こんなところにまさかかけないような。

すべのセクハラを

女性側が明らかにできるわけじゃないです。

記者によってはネタと交換に付き合ってくれと

本気で迫られる人もいます。

 

その男性も自分の社会的地位をかけて

女性記者を口説いている場合もあるのです。

 

でも女性記者側にも

寝れば特ダネがもらえる、と

考えるひともいるのは事実でしょう。

冒頭で言ったように、

好意を持っている男性からのアプローチは

「セクハラ」というカテゴリーには

入らない場合も多いのです。

 

多分、セクハラの定義は

今も昔もとても線引きがあやふやで、

男性としては

犯罪扱いになるか?

恋愛の一部とみなされるか?

よくわからないと思います。

私にもよくわかりません。

 

ただ、若いくて魅力的な

働く女性の多くが

「セクハラ」を

経験しているのではないかと危惧します。

 

私も還暦近くなってようやく

”me too ”と言えるのです。

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