刑事ドラマなどで、

「夜討ち朝駆け」と言う言葉を

聞いた人も少なくないでしょう。

 

文字通り、夜も朝も

取材相手に接触することです。

「夜討ち」は、夜の取材です。

主に取材相手の自宅前で張り込むことです。

立ち回り先でもかまいません。

その取材相手に必ず会えそうな場所で

待ち伏せするのです。

 

新人時代、名古屋市内の17署を担当していた私は

主に、各警察署の課長クラスを狙えと言われました。

まず、ヤサ、自宅を割らなくては行けません。

が、これはずーっと先輩たちから引き継がれてきた

ヤサ帳、つまり住所録があり、

今、課長になっている人が若い巡査さん時代から

何かの機会に先輩たちが調べてくれた住所録があります。

積み重ねです。

昔はネットなんかありませんから、

雑談の間に、例えば熱田神宮が近い、とか

名古屋城のしゃちほこが見える、といった端緒を掴み、

電話番号帳で調べるわけですね。

 

昔は個人情報を保護せよとか、

厳しい事言わなかったし、

案外真面目に?堂々と?

電話帳に載せている人が多かったので、

しらみつぶしに調べると大概、住所はわかりました。

 

例えばある殺人事件の容疑者が見つかったか?

どこまで捜査が進展しているのか知りたいときは

一課長の自宅前で、帰宅を待つ訳です。

大きな事件の時は各社並んでしまって💧。

そうなるとスクープなんか取れませんが、

巧い記者は夜遅く課長にくっついて

家にあがらせてもらって

奥様にお酒とかごちそうになりながら

酔ったフリをしていろいろと聞き出し、

トイレに行った時に、一気にメモを取るのです。

というか、

そういう風にやれっ!、と先輩に教わりました。

 

ところが私はこの夜回りが駄目でした〜〜〜。

そもそも23〜4歳の若い女性ですよ、

深夜にあまり良く知らない警察官の家に上がり込んで

お酒を飲みながら酔ったフリをして?

いろいろと聞き出せるはずがありません・・・

大概、奥様に

「若い女性がこんな時間まで

お仕事をして可哀想に・・・」と言われて

帰されるのがオチでした。

 

おまけに当時はコンビニもない時代です。

コンビニは今でこそトイレはご自由に、とか

書いてあって、よく利用させてもらいますが、

当時はなかったんですよね。

 

トイレには随分困りました。

大概、地方の警察官って、田舎の大きな家に住んでいて、

住宅地図を見ても、番地がよくわからないような田舎で

家を探し出すのがまず大変。

やっと見つけても、待っても待っても帰って来ない。

冬の寒い日に

待っている間にトイレに行きたくなると最悪。

車の中で待っていると

「熱意がない、ラクをしている」と見られるから

車(ハイヤー)はちょっと離れたところに停めて、

自分はひとりで雪の中で傘さして立っとけ、ですもん。

最悪でしたよぉ・・・

 

寒いとトイレに行きたくなる。

行けないと思うと、もっと行きたくなる。

トイレがある喫茶かバーか何か

田舎道で探さないといけません。

運良く帰って来たとしても、

「何も話せる事はないよ、

家に帰んな〜」とか言われてしまう。

そうなるとそこからまた一時間以上かけて

キャップが待つ局まで報告に帰らなくてはならない・・・

何も聞き出せないまま・・

 

これの繰り返しで。

夜討ちは全く楽しくありませんでした。

当時はお酒もあまり飲めなくて。

たまに「よぉきたねぇ〜朋ちゃん!」といって

座敷にあげてくれる課長さんもあったけれど、

ウイスキーとか出されても苦痛で・・・

(今なら、多分、負けないですが、時すでに遅し)

夜討ちが嫌で嫌でたまりませんでした。

 

じゃ、朝駆けは?というと

これまたあまり好きじゃあなかったです。

サツ官が出勤する時間に家の前から

一緒に歩いたり、電車に乗ったり、

しゃべりながら署まで付き添えって事ですよ。

もちろん玄関前で何か聞き出せればいいけれど、

そんな簡単に聞き出せるものではありません。

 

ようするに同伴出勤ですよね(笑)。

無理でした〜。

 

日本よりジャーナリズム、報道の自由が

進んでいるとされるアメリカでは

この「夜討ち朝駆け」はないそうです。

夜遅く、取材相手の家に行ったり

朝待ち伏せしたりしたら、

撃たれるのがオチだそうです・・・・

 

なので夜討ち朝駆けは

「嫌だった」

これしか思い出はありません。

 

特ダネが取れなかった私が言うのも何ですが、

物理的に「夜討ち朝駆け」を

すればイイってもんでもなく、

要するに、取材先が感心して

つい秘密事項をしゃべってしまうほどの

記者としての熱意を示せ、

ということなんでしょうね。

 

全く駄目でした、わたし。

 

それに今の時代、

恐らくもう夜討ち朝駆けじゃないでしょうね。

昔みたいに、ハイヤーを24時間キープして

署を渡り歩くみたいな生活、

労働基準法違反ですよ。

ブラック企業になっちゃいますわ。

 

昭和の時代、

NHKの記者が使っていたハイヤーの運転手さんたちは

NHKの担当になることを3Kと呼んでいたそうです。

「きつい、危険、汚い」という

3K職場が問題になっていたので、

それをNHKにも

当てはめていたそうです。

汚い、ってことはなかったとは思うのですが・・・

でも飲み屋の前にハイヤー待たせて

自分はハイヤー忘れて帰っちゃった、って話は

とっても沢山ありましたね。

ハイヤー待たせて家でシャワーを浴びて

また外の取材に出かけるのが

当時の記者にはよくあるパターンでしたから

担当のハイヤーの運転手さんは

記者にあたると

24時間は家に帰れないな、と

覚悟していたそうです。

運転手さんたち、よく嘆いていました。

 

今はハイヤー自体、経費の問題で、

ほとんど使えなくなっていますし、

記者も

プライベートと仕事をしっかり分ける人が多いので、

夜討ち朝駆けもなくなっているのでは?と想像します。

そもそも記者があまり現場に行かず、

何でもネットで調べているという噂も・・・

 

今の記者のみなさん、

どういう取材をしているのかな。

ブログ、探してみようかなw。