父親の仕事のため、

高校生の時、

イランの首都、

テヘラン(市)に住んでいました。

学校はアメリカンスクールで

中学までは日本人学校だった私は

毎晩必死で教科書を

予習しておかなければ

追いついて行けなかったのです。

英語(国語)はもちろん、

困ったのは歴史と生物学。

スクールバスで帰宅すると

夕食を食べたりお風呂以外は

ほとんど勉強で、

日本の受験生のような生活でした。

 

ある日、家のそば歩いていたら、

道ばたでうさぎが売られていました。

恐らく庭で育てて

食べるための物だったのでしょう。

いわゆる野うさぎで

茶色いボディに、

顔の中心に白い線、

靴下をはいたように手足も真っ白な

とても美しい一匹を選びました。

名前は「ジュリエット」にしました。

とにかく姿が綺麗で、

あれから40年ちかくたった今でも

動物園などでうさぎを物色しますが、

ジュリエットほど美しいうさぎを

私は見た事がありません。

 

ジュリエットは

17歳の私の、

最高の相棒になりました。

 

うさぎは

どれくらいの知能なのか?

うちの仔は頭も良かった。

ジュリエットはとても私に慣れて、

勉強している私の膝の上に乗せると、

机を経由して、

私の肩や頭の上に

ちょこんと乗るようになり、

それはそれは可愛かった。

朝、ベッドで目覚めると

えりまきのように

ジュリエットが

首にまきついていたり。

必死で勉強する私の

最大の癒しになっていました。

 

半年ほどがたったある日、

ジュリエットが

私の足にしがみついて

来るようになりました。

 

当時私は17歳、その意味に気づかず、

ジュリエットの真っ白いお腹が

私の足の甲に触れるのが気持ち良くて

足を上下に動かして、

ジュリエットを遊んでやりました。

しがみついて来る姿が

本当に可愛くて。

 

ところが

あれれ?

ひょいっと足を持ち上げて

ジュリエットのお腹を覗き込んだら

細くて長い突起物が見えたのです。

パンダの赤ちゃんのような

肌色をした細長いものが

しゅる〜〜っと。

1センチ近かったでしょうか?

 

純粋無垢な私でも

それが何であるか?

一瞬にして理解できました。

青くなりました。

 

美女だとばかり思っていた

ジュリエットは

年頃の男の子だったのです!!!

 

39年も前、昭和の時代です。

これはまだ17歳の私には

かなり残酷な事実でありました・・・

 

天下の美女にちなんだ

ジュリエットでいいのだろうか?

ベルサイユの薔薇にもは

まっていた私はとりあえず、

「ルイ」に変更してみましたが、

半年以上もジュリエットだと

思って育てていたので、

急には「ルイ」にはなりません・・・

 

おまけにネットもない時代、

ちらっとみたあの突起物が

本当に「オス」の証明なのか?

確信も持てませんでした。

見てはいけない物を

見てしまったようで、

たった2キロもない

小さなジュリエットを

ひっくり返して

下腹部を見るということも

しなかったのです・・・

 

オス♂なんだろうか?

メス♀なんだろうか?

 

悶々としているうちに

ヨーロッパ旅行に

家族で出かけることになりました。

その間は通いのメイドに

ジュリエットの様子を

見てもらっていました。

 

ところが10日ほどして帰宅すると

ジュリエットが床で

自分の下痢らしき液体にまみれて

瀕死の状態になっていました。

メイドのペルシャ語の説明は

よくわかりませんでしたが、

どうも寂しさのあまり

餌を食べなくなったのだそうです。

 

もちろん

当時の夜中のテヘランに

獣医なんていません。

いたとしても、

ペットのうさぎを

連れていくような

時代ではありませんでした。

私は胃薬を砕いて

なんとかジュリエットに飲ませようと

半泣きで看病しました。

でも内心、

あれ?ジュリエットでいいのかなぁ。

ルイちゃんって

呼んだほうがいいのかしら?と

迷っていました。

 

ジュリエット(ルイ)は

30分ほど抱いているうちに

私を待っていたかのように

私の腕の中で

息を引き取りました。

 

そのまま抱いていると

だんだんと死後硬直が始まって

冷たく堅くなっていきました。

それがまた悲しくて悲しくて。

三日くらい、

母と泣いてすごしました。

 

ジュリエット(ルイ)の真っ白で

細くてしなやかな

手がとても好きだったので、

手を切って、

ラッキーチャーム(お守り)として

残したいと母に言ったら、

「なんて残酷なこと!」と

言うので、

諦めて庭に埋葬しました。

 

今でもピーター・ラビットは

うちの仔がモデルに違いないと

勝手に信じていますが(笑)

最後の最後まで

オスかメスかも

わかりませんでした。

 

17歳の私の、

ほろ苦い思い出です。