遅まきながら、
ご参考まで。
この夏、コメを求めてスーパーをいくつも回ったという人も多いのではないでしょうか。現在は新米が入るようになり、一時の品薄状態は解消に向かっていますが、気になるのはその価格です。去年の1.5倍ほどに上昇している銘柄もあるようです。
なぜここまで値上がりしているのか、その理由を探りました。
(経済部記者 野中夕加/富山局ディレクター 坂本和輝)
【NHKプラスで配信中】2024年10月7日 午前7時45分まで
新米買えるようになったけれど
まず向かったのは埼玉県越谷市のスーパーです。
最初に取材したのは8月下旬。
コメは毎日入荷していましたが、夕方になると売り切れの状態が続いていました。
その後、新米の入荷が徐々に進み、9月下旬に再び訪れたときは、茨城県産の「あきたこまち」など4つの銘柄がずらりと並んでいました。
ただ値札を見ると「5キロ 2990円(税抜き)」。
去年の新米よりおよそ1000円、1.5倍ほど高くなっていました。
訪れた客は「コメが高いためごはんは1日2食にして、残り1食は麺類やパンにしている」とか「これまで10キロ入りを買っていたが、出費が大きくなったので、5キロ入りを買うようになった」などと話していました。
コメの高値は統計データからも確認できます。
総務省が発表した9月の消費者物価指数によりますと、東京23区で「米類」は、去年の同じ月と比べて41.4%の上昇となっています(速報値)。
新米の入荷が始まり、品薄は解消に向かっていますが、価格はより高い水準になっているのです。
その影響は外食や中食の業界に広がっています。
「すかいらーくホールディングス」は、ガストなど5つのレストランチェーンで提供するライスの価格を9月26日に引き上げました。
単品のライスやごはんとセットの商品などを30円から55円値上げしたということです。
また、オリジン弁当などを展開する「オリジン東秀」は、10月1日から一部の店舗でおにぎりなどに使用するごはんの量を減らす対応をとり、実質的な値上げに踏み切りました。
値上がりの理由1 生産コスト上昇
コメの価格が上がっている理由、1つめは生産コストの上昇です。
富山市の大平真也さん(46)は、およそ15ヘクタールの水田でコシヒカリを生産しています。
コメ作りを始めて22年ですが、生産コストは年々増すばかりだといいます。
なかでも大きいのが肥料です。
原材料を輸入に頼っているものが多く、円安などの影響で5年前と比べて4割から5割ほど値上がりしているということです。
また猛暑への対策として、ことし大平さんは新たな肥料も導入しました。
去年は厳しい暑さの影響で、多くのコメが白く濁り、売り上げが前の年に比べて14%ほど落ち込みました。
このため少しでも品質を維持しようと導入を決めたのです。
ほかにも去年、田植え機を買い替えましたが、前回更新した10年前に比べて100万円近く値上がりしていました。
さらに従業員の暑さ対策のために、ファンのついた作業服も購入するなど、肥料以外のコストも膨らんでいるといいます。
コメ農家 大平真也さん
「10年ほど前からじわりじわりコストが上がっている。今までコスト割れギリギリの状態でやってきたというのが実情だった。コメの価格は去年より高くなっているが、消費者には農家を応援するという意味も込めて、買ってもらえるとありがたい」
値上がりの理由2 確保のための競争激化
価格上昇のもう1つの理由。
それは業者間でコメを確保するための競争が激化していることがあります。
取材したのは、年間40万トン近くのコメを販売する大手卸売会社です。
JA全農などを通じて全国各地からコメを仕入れ、スーパーやコンビニ、外食チェーンなどに販売しています。
幹部による会議では、現場で起きている異変が報告されていました。
仕入業務部長
「集荷業者の動きがかなり活発で過熱している状況だ。今まで経験したことのない価格で取り引きされている。JA以外からも調達して、なんとか量を確保したいが集めにくくなっている」
営業部長
「取引先のスーパーには、実勢価格にあわせてコメの売値を設定するよう伝えている。より安い価格を求めて、外国産米に関心を持つ外食業者なども多くなっている」
コメを生産者から買い取る業者間の競争が激しくなっているため、この会社の仕入れコストも去年に比べて3割から5割ほど高くなっているということです。
それでも取引先のニーズに応えるため、調達量を減らすわけにはいかないといいます。
木徳神糧 鎌田慶彦社長
「集荷合戦というような実情があって、集荷をしていくための価格競争になっている。危惧しているのが、値上がりによる消費者のコメ離れだ。特に外食や中食の現場でごはんの使用量を減らしたり、サービスレベルを引き下げたりする動きが広がると、コメの消費そのものに影響が出てくる。そうならないようにしていくことが大事だ」
今後はどうなる
消費者にとって気になるのは今後の価格です。
農林水産省は「今後、新米が順次供給され、円滑なコメの流通が進めば、需給バランスの中で一定の価格水準に落ち着いてくる」としています。
一方で、コメの生産や流通に詳しい宇都宮大学の小川真如助教は「すでにJAなどが例年よりも高い価格で農家からコメを集めているので、ことし収穫されたコメの店頭価格は基本的に高値で推移するとみている」としています。
その上で来年以降の価格については「今回コメの価格が上がったのは、ほかの食品と同様に物価上昇によるところも大きい。さらに猛暑や台風などでコメの供給が不安定になるリスクも高まっている。コメの価格が大きく下がりにくい状況になっていることを、われわれ消費者も理解する必要がある」と指摘していました。
今回の取材で関係者から多く聞かれたのが「高値によってコメの消費が減るのではないか」という危機感でした。
これまでパンや麺類に比べて割安だったことから、コメが消費されてきたという側面もあるからです。
割安感が薄れるなか、コメの需要がどうなっていくのか、生産と消費双方の現場を注意深く見ていこうと思います。
(9月30日「おはよう日本」で放送)