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世界の金融市場は比較的落ち着いた動き、円やスイス・フラン上昇
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バイデン氏の選挙戦撤退につながった6月の討論会からは様変わり
ABC News signage is installed in the media file center one day before the presidential debate.
Photographer: Chip Somodevilla/Getty Images米大統領選の民主党候補ハリス副大統領と共和党候補トランプ前大統領の討論会が10日夜(日本時間11日午前)行われ、トランプ氏は女性の人工妊娠中絶の権利のほか、自身の支持者が2021年1月6日に連邦議会議事堂を襲撃した事件、外交政策などで何度も守勢に立たされた。
ハリス氏は元地方検事としての経歴を想起させる形でトランプ氏を鋭く攻撃。同氏のいら立ちを誘うことを狙ったものと見受けられる。一方、トランプ氏はハリス氏について、過去のリベラルな姿勢と結び付けようと努めた。
ABCニュースが主催して激戦州の一つペンシルベニア州フィラデルフィアで行われた今回の討論会は、トランプ氏とバイデン大統領による6月のものとは鮮明な違いを呈する展開となった。討論会でのさえないパフォーマンスを受けてバイデン氏への懸念が広がり、同氏の選挙戦撤退につながった経緯がある。
ハリス氏は「新たにスタートすべき時だ」と述べ、不満を抱いている共和党支持者に対し、自分を支持するよう訴える場面もあった。
討論会が始まってから1時間経過した時点で、世界の金融市場の反応は比較的落ち着いたものだった。リスク資産が売られて、香港市場の株価は早い段階で下落。ドルも下げる一方で、資金の安全な逃避先と見なされる円やスイス・フランは上昇した。
暗号資産(仮想通貨)ビットコインは一時1.5%安となった後に下げ幅を多少縮小し、米東部時間午後10時10分(日本時間11日午前11時10分)時点は5万6983ドルで取引された。米株価先物とドルの指数が軟化し、米国債相場はほぼ変わらずとなった。
スウィフトさんがハリス氏支持表明
トランプ氏の盟友は討論会の司会者を批判。賭け市場はハリス氏優位の方にシフトしており、10日の討論会が同氏の追い風になると多くの人々が予想していることが示唆された。ハリス氏の選挙陣営は討論会終了直後、2回目の開催を呼び掛けた。
一方、討論会終了後、米人気歌手テイラー・スウィフトさんはインスタグラムへの投稿で、大統領選でのハリス氏への支持を表明した。
テイラー・スウィフトさん、ハリス副大統領の支持表明-討論会直後
物価高批判
ハリス氏は「米国の中間層と勤労者の底上げ」に重点を置いたプランを持つ候補者は、このステージで自分だけだと述べ、自身の経済政策方針をアピールした。
これに対しトランプ氏は、「私は関税を賦課したがインフレは招かなかった」と反論。「ほとんどの人々が目にしていなかったようなインフレによって、ひどい経済になっている」と批判した。
討論会の早い段階では、トランプ氏の返り咲きを想定して保守系シンクタンク、ヘリテージ財団がまとめた政権移行構想「プロジェクト2025」を巡り、トランプ氏が守勢に立つ場面もあった。
トランプ氏は「私はそれを読んだこともないし、読みたくもない。意図的に読まないようにしている」と、距離を置く考えを示した。
国境問題
トランプ氏はこのほか、国境問題を巡ってハリス氏を非難。移民が「市街や建物を乗っ取り、暴力的に入り込んでいる」などと主張した。
ハリス氏はフラッキング(水圧破砕技術を利用した掘削)を禁止しない方針を示すとともに、さまざまなエネルギー源に投資する必要があるとの考えを示した。女性の人工妊娠中絶の権利を再び確立する必要性にも言及した。
混乱の後片付け
ハリス氏は「住宅費はあまりにも多くの人々にとって高過ぎる」と指摘する一方、自分とバイデン大統領は「ドナルド・トランプ氏の残した混乱を片付けなければならなかった」とし、政権の経済運営について弁明した。
最大の弱点
ハリス氏としては物価・コストの上昇という、選挙戦で自身の最大の弱点の一つに討論会で取り組んでいる形だ。インフレ高進は家計に打撃を及ぼし、バイデン大統領の経済政策について有権者は懐疑的な見方を抱いている。
ハリス氏は子供税額控除の拡大や初めて住宅を購入する人々へのローン支援計画、中小企業向け控除など、自身の計画を提示する一方、トランプ氏が提案している関税政策を批判した。
主な背景は次の通り。
ハリス副大統領(右)とトランプ前大統領
Photographer: Doug Mills/The New York Times/Bloomberg
課題の相違鮮明
両候補はいずれも同じ目標に向かって討論会に臨むことになる。世論調査で事実上のタイとなっている選挙戦で自分が優位に立つ瞬間をつかむことだ。
大統領選の投開票日まで2カ月足らずとなり、ペンシルベニア州フィラデルフィアで行われる今回の討論会は、両候補が直接論戦を交わす唯一の機会となる可能性がある。優勢を勝ち取りたい双方が直面する課題の相違は鮮明だ。
3回目の立候補となるトランプ氏は世論を二分する存在ではあるものの、人物像はよく知られている。トランプ氏の盟友の一部は、同氏が政策にフォーカスして個人攻撃を避けるよう望んでいる。大統領らしい振る舞いを示し、ホワイトハウス返り咲きの可能性を巡る有権者の懸念を和らげてほしいと期待するものだ。
トランプ前大統領
Source: Bloomberg
一方、ハリス氏の場合、同氏自身やその政策方針について十分に分かっていないとする有権者や、バイデン政権のナンバー2であるハリス氏が変化をもたらす存在なのか懐疑的な有権者の懸念に対処することが課題だ。
討論会は数多くの米国民が視聴する見通しで、ハリス氏にとっては有権者に自分のイメージをうまく訴えるチャンスとなる。
民主党の世論調査担当者で、ヒラリー・クリントン氏とバイデン氏の選挙運動に携わった経歴を持つジョン・アンザローネ氏は有権者について、「ハリス氏を細かく調べるだけでなく、トランプ氏を再び観察することになるだろう」と語った。
ハリス副大統領
Source: Bloomberg
バイデン大統領が選挙戦撤退を余儀なくされる引き金となった6月27日の討論会とは異なり、今回のイベントが直ちに重要な結果をもたらす公算は小さいものの、一部の州で近いうちに期日前投票が始まるタイミングで選挙戦の行方を左右することにはなりそうだ。
ハリス、トランプ両氏は選挙戦の結果を左右する公算の大きい激戦州での支持率で圧倒的なリードを確保する方法を探っており、討論会のパフォーマンス次第で違いが生じる可能性がある。
ハリス氏は自身について、政治的には穏健で非常に有能な候補であり、トランプ氏のような直情的な人物を相手にすることには慣れているとアピールしたいところだろう。トランプ氏は、ハリス氏を過度にリベラルな人物だと描き出し、バイデン政権の不人気な政策に結びつけようとするだろう。
世論調査では、今回の討論会はハリス氏陣営にとっての方が重要な意味を持つ可能性が示唆されている。8日に発表されたニューヨーク・タイムズとシエナ大学の世論調査では、ハリス氏についてもっと知る必要があるとの回答は28%に上った。トランプ氏についてはわずか9%だった。