’24平和考 戦時下の格差拡大 富の偏在を是正する時だ | 元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

「経済崩落7つのリスク」、
「マネー資本主義を制御せよ!」、
「緩和バブルがヤバい」、
「日本復活のシナリオ」等の著者による世界経済と国際金融市場のReviewとOutlook

「国家の盛衰を決めるのは、政治経済体制が収奪的か包括的かの差にある」(アシモグルら)

今朝の毎日社説。

かなり説得的。

ご参考まで。

 

 

 

 ウクライナと中東での戦禍が世界経済を揺さぶり続けている。

 

 途上国や貧困層に打撃が集中する一方、戦時下でも富裕層は資産を大幅に増やしている。広がる格差から浮かび上がるのは、グローバル経済のいびつな姿である。

 

 「2020年以降のコロナ禍や戦争で世界人口の6割に上る48億人がより貧しくなった。対照的に超富裕層5人の資産は総額120兆円超に倍増した」国際非政府組織(NGO)オックスファムが今年1月に発表した報告書だ。

 

 上位1%の富裕層が保有する金融資産は世界の4割強を占める。資産は総額で400兆円以上も膨らんだという。

 最近までの米国の株高も富の集中を加速させた。

 

 戦時にもかかわらず株価が上昇した背景として、米国のウクライナ軍事支援の影響も指摘される。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは2月、「政府の多額の資金が米防衛産業に流れ込み、景気を押し上げている」と報じた。

 

 一方、戦争に伴う食料危機やインフレは貧困層を直撃した。労働者1人当たりの賃金は、物価高が響き、過去2年間でほぼ1カ月分が目減りしたと試算されている。

 日本でも格差は広がる。株高で利益を得たのは富裕層などに限られ、低賃金の非正規労働者らの生活は物価高で厳しさを増した。

 

 「戦争は、資本主義のひずみを深刻化させる」と指摘するのは水野和夫・元法政大教授だ。

 

 グローバル化した資本主義を「『中心』である先進国や米ウォール街などが『周辺』の途上国や低賃金の移民、非正規労働者などから富を吸い上げるシステム」と定義付ける。「戦争が起きると、安全地帯にいる富裕層は戦時の特需や株高の恩恵を受ける。周辺の貧困層はより窮乏化する」と語る。

 

 国際通貨基金(IMF)は7月にまとめた報告書で「富と所得の不平等は(貧困層の)健康や教育に悪影響をもたらし、経済全体の成長を損なって不平等を広げる」と懸念を示した。さらに「社会や政治を不安定化させる可能性もある」と警鐘を鳴らした。

 

 食料危機に襲われたアフリカや戦火が広がる中東から、欧州に流入する移民や難民が急増している。受け入れに比較的寛容だった欧州各国だが、経済的負担の増加などへの不満が強まっている。

 

 こうした風潮に乗じ、フランスやドイツ、オランダなどでは反移民を掲げるポピュリズム(大衆迎合)政党が勢力を伸ばしている。米国でも復権を狙うトランプ前大統領が強硬な移民政策を唱える。

国際社会に「負の連鎖」

 「負の連鎖」を断ち切るには富の偏在を是正することが急務だ。

 

 だが世界銀行など既存の国際組織を通じた支援には限界がある。国境を越えた再分配の取り組みを強化することが必要になる。

 

 方策の一つとして考えられるのが富裕層への課税だ。主要20カ国・地域(G20)の財務相らが7月に開いた会議では、検討方針を盛り込んだ初の文書が採択された。

 

 議長国のブラジルが提案し、フランスなども賛同した。各国共通の税率を導入し、富裕層による課税逃れに対応する。税収は国内向けではなく、途上国の気候変動対策や教育などに充てるという案が検討されている。

 

 富裕層が多い米国は反対し、超大国が壁になっている。

 

 だがリーマン・ショック以降、格差是正を求める声は高まったものの、有効な対策が講じられてこなかった。気候変動などと同様にグローバルな問題に協調して取り組むのが主要国の責任である。

 

 経済学者のトマ・ピケティ氏はベストセラー「21世紀の資本」で20世紀に分配政策が進められるようになったのは「二度の大戦による破壊と大恐慌が引き起こした破産」がきっかけと分析した。再び広がる貧富の差を縮小するには「次の大戦を待つしかないのか」と各国の不作為を問いただした。

 

 戦禍で格差が拡大し、世界の分断をさらに深める恐れが高まっている。国際社会が手をこまぬいていることは許されない。