6.4兆ドル吹き飛んだ世界株安、「大規模巻き戻し」の序章か | 元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

「経済崩落7つのリスク」、
「マネー資本主義を制御せよ!」、
「緩和バブルがヤバい」、
「日本復活のシナリオ」等の著者による世界経済と国際金融市場のReviewとOutlook

「国家の盛衰を決めるのは、政治経済体制が収奪的か包括的かの差にある」(アシモグルら)

掲題の今日のブルーンバーグ記事。
比較的興味深く、説得的。
 
もっとも、FRBの緊急利下げ等とは、
誇張過ぎて、現実味は極めて乏しい。
 
 
Ruth Carson、Lu Wang、Vildana Hajric、Bailey Lipschultz

更新日時 

  • 株高支えてきた重要前提揺らぐ、米景気減速やAIバブル懸念が打撃

  • 「至る所でナイフが落ちてきている」-みずほのバラサン氏

ニューヨーク証券取引所(NYSE)のトレーダー

ニューヨーク証券取引所(NYSE)のトレーダー Photographer: Micahel Nagle/Bloomberg

5日のトレーディング画面に表示された数字は、市場のベテランですら衝撃的なものだった。

 

  日経平均株価は12%安。韓国総合株価指数は9%下落した。そしてニューヨーク株式市場の取引が始まると、ナスダック総合指数は数秒で6%も急落した。暗号資産(仮想通貨)は下落し、米株式市場のボラティリティー指数(VIX)は急上昇。投資家は最も安全な資産である米国債に殺到した。

 

  5日の大荒れが、先週始まった世界的株売りの最後の一撃となったのか、それとも長引く低迷の始まりを告げるものなのかは分からない。大打撃を受けた一部市場は6日に反発し、日本の主要株価指数は10%余り上昇したが、底打ちしたと言う人はほとんどいなかった。

 

  一つだけはっきりしているのは、長年にわたり相場上昇を支えてきた柱、つまり世界中の投資家が信頼していた一連の重要前提が揺らいだということだ。米国経済は破竹の勢いで人工知能(AI)は瞬く間にどのビジネスにも革命を起こし、日本は利上げしないといった前提は、振り返ってみれば考えが少し甘かった。

 

  それらを根底から覆すような証拠がここ2、3週間に矢継ぎ早に飛び込んできた。7月の米雇用統計は低調だった。AI関連の大手ハイテク企業の四半期決算も同様だった。そして日本銀行は今年2度目の利上げに踏み切った。

 

  こうした矢継ぎ早の衝撃は、エヌビディア株を2年足らずで1100%上昇させたり、ジャンク格付けのローンを証券化したり、日本で資金を借りメキシコで11%の金利を払う資産につぎ込むといった投資に内在する危険性を突如として投資家に意識させた。この3週間で、世界の株式市場から約6兆4000億ドル(約929兆円)が吹き飛んだ。

 

  「大規模な巻き戻しだ」と話すのはみずほ銀行の経済・戦略責任者ビシュヌ・バラサン氏(シンガポール在勤)。トレーダーの言葉を借りれば、暴落している資産を買うタイミングを選ぼうとするのは、落ちてくるナイフをつかまえようとするようなものだ。バラサン氏は「至る所でナイフが落ちてきている」と述べた。

 

  このような市場のパニックは大小のリスクを生む。その中でも最も顕著なのは、相場急落に歯止めがかからず長引けば、金融システムの歯車が狂い、貸し出しが滞り、世界経済をリセッション(景気後退)に陥らせる最後の一撃となりかねないことだ。

 

  そのため、米連邦公開市場委員会(FOMC)は9月に予定される次回会合の前であってもは利下げに踏み切るとの見方も浮上。米国債市場では、短期債に買いが殺到し、2年債利回りが一時、2年ぶりに10年債利回りを下回った。イールドカーブが再び通常の形状に戻る逆イールド解消は通常、リセッションが間近に迫っている兆候とみなされる。

 

  半世紀にわたって市場を注視してきたエコノミストのエド・ヤルデニ氏にとって、突然の市場の総崩れは、1日でダウ工業株30種平均が23%急落した1987年のブラックマンデーの記憶を呼び起こした。ヤルデニ氏は、恐ろしいものだったが結局のところ、経済の破滅の前兆ではなかったと指摘する。

Yardeni Research Inc. President Edward Yardeni Interview

エド・ヤルデニ氏

Photographer: Christopher Goodney/Bloomberg

 

  ヤルデニ・リサーチを率いる同氏は、ブルームバーグテレビジョンの番組で、当時は「リセッションに入ったか、まさに入るところだという意味合いがあったが、全く現実にはならなかった」と述べ、「むしろ本当に関係していたのは市場に内在するものだった。これから起こることも同じだと思う」と付け加えた。

 

  現在の強気相場で、市場が早計な景気後退懸念で動揺したことはある。昨年早くには、米地銀破綻で懸念が高まったが、米経済の力強い前進が続いたことから懸念は薄れた。米株式市場は2022年の不振からも力強く回復し、今年は史上最高値圏で推移していた。

 

  しかしここ数日は、世界中で投資センチメントが著しく変化。例年のような夏の終わりの静けさは打ち破られ、市場関係者の休暇計画をかき乱している。

 

  家族と休暇でロンドンに滞在していたミラー・タバクのチーフ市場ストラテジスト、マット・メイリー氏は、市場全般の急落を受け、借りていた部屋に急いで戻りパソコンを取り出して仕事に復帰した。ヤルデニ氏と同様、メイリー氏も1987年の暴落とその衝撃を思い出し、5日朝にちょっとした既視感を覚えたという。

 

  みずほ証券金融市場部の大森翔央輝チーフデスクストラテジストは5日、相場の大幅変動に備え午前6時に大手町のオフィスに到着したが、急落の規模には驚かされたという。

 

  日銀の利上げを受けて円相場が3%急騰し、日経平均は大幅下落。1987年以来最大の下落率を記録した。大森氏は自身の予想をすべて吹き飛ばすものだったと述べ、想像できないトレーディング領域に向かっているため、さらに備えが必要だとの認識を示した。

 

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原題:$6.4 Trillion Wipeout Sows Fear ‘Great Unwind’ Is Just Starting (抜粋)

 

(6日の市場の動きや市場関係者のコメントを追加して更新します)