世界的株高の裏に潜む「大恐慌のリスク」 100年前の世界恐慌と酷似している今の状況と過去から学ぶ | 元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

「経済崩落7つのリスク」、
「マネー資本主義を制御せよ!」、
「緩和バブルがヤバい」、
「日本復活のシナリオ」等の著者による世界経済と国際金融市場のReviewとOutlook

「国家の盛衰を決めるのは、政治経済体制が収奪的か包括的かの差にある」(アシモグルら)

日銀の異次元金融緩和はもはや期待できない(イラスト/井川泰年)

日銀の異次元金融緩和はもはや期待できない(イラスト/井川泰年)© マネーポストWEB 提供

 

掲題の今朝のマネーポストウェブ。

一理あり。

 

特に、平成バブルを日経のみならず

今週TOPIXでも完全に超えた

我が国の「令和バブル」はヤバい。

 

株、不動産、為替レート等の資産価格と

実体経済の乖離があまりにも大きいためだ。

 

他方、史上最高値を連日のように更新中の米株は、

かなり割高だが米政策金利はテイラー・ルールと整合的であり、

バブルとまではとても言えまい。

 

もっとも、その米株もトランプ大統領復活となれば、

大荒れとなることも避け難かろう。

 

なにせ、トランプは日本からの輸入を含む

一律10%への関税引き上げ等と共に、

自らが選んだはずのパウエル現FRB議長を

更迭することを公言することに憚らないからだ。

 

もっとも、日本の経営学の第一人者と見て

間違いない大前氏ではあるが、

大恐慌のリスク」となるか、

あるいは逆に「ハイパーインフレ」となるか否かは、

予断を許すまい。

 

なお、現在の世界経済と国際金融市場の混迷には、

2008年の所謂「リーマン・ショック」後に増幅してきている

日銀やECB等を中心とするQEや通貨安政策を中心とする

近隣窮乏化政策等が背景にあり、

その副作用としての棚ぼた利益を享受して、

資源高で国庫が潤い増長するプーチンのロシア等を

巻き込んだ世界第三次大戦への火種は確かに消えていない。

ウクライナへのロシアによる侵略はその典型例の一つと見ざるを得ない。

 

いずれにしても、国内では平成バブル超えの令和バブルと、

国外では一度経験済みとはいえトランプ・ショック再燃の可能性は、

世界経済と国際金融市場にとって、

2024年後半における今後の最大の

注目材料となることは間違いない。

 

私見だが、そして主観的にならざるを得ないが、

世襲化、特権化、利権化が蔓延る

我が国の政治・経済・金融の戦後最大の複合危機が

2024年度中に発生する確率は、

誠に遺憾ながら、75%を超えてきていると見ざるを得ない。

 

それほどまでに、インフレ下で未だに三本の矢からなる

アベノミクスの三番煎じを繰り返すだけのキシダノミクスと

その番犬に成り下がったかに見えるウエダノミクスの

ヤバさ加減はもはや制御不能と見ざるを得ないためだ。

 

以下、ご参考まで。

 

 

 

 アメリカの代表的な株価指数「S&P500」は6月も史上最高値を更新し好調を維持。そうした影響を受け日本株市場も底堅く推移している。しかし、経営コンサルタントの大前研一氏は、「戦争、パンデミックからインフレ、株価バブル、そして恐慌へ……という道程は100年前にも世界が経験したこと」として、再び世界を大恐慌が襲うリスクを指摘する。大前氏が直近の国内・世界情勢を踏まえて検証する。

 

 * * *

 

 第1次世界大戦終盤からの3年間(1918~1921年)に猛威を振るった「スペイン風邪」では、感染がピークアウトしてからも経済が大変動に見舞われた。欧米ではインフレが加速し、1929年のアメリカ株バブル崩壊に端を発した世界恐慌へとつながった。

 

 新型コロナ禍が落ち着きを見せた現在、アメリカ市場はIT企業を中心にごく少数の株が高騰しており、生成AI向け半導体を手掛けるエヌビディアなど世界の半導体関連企業の時価総額はたった数年で4.7倍の1000兆円と、理屈に合わない異常な値上がりを見せている。

 

 これは、100年前に一部の企業に投機マネーが集中した状況と酷似している。1920年代のアメリカでは、市民を巻き込んだ投機ブームが起き、銀行・鉄道・石油会社などの株が高騰。ダウ工業平均は史上最高値を記録して株バブルとなったが、1929年10月の「ブラックサーズデー(暗黒の木曜日)」を機に大暴落し、世界恐慌の引き金となった。それは日本にも波及し、昭和恐慌(1930年)へとつながっていくのだ。

 

 当時のルーズベルト大統領は世界恐慌を克服するため、「ニューディール政策」と称して大胆な金融緩和やフーバーダム建設など大規模な公共事業を連発し、雇用創出や景気回復を狙ったが、所詮は「官製需要」にすぎない。政策の効果がはっきりしないまま、1939年に第2次世界大戦が始まった。その後の経済学の研究によれば、ニューディール政策は全く効果がなかったと結論付けられている。

 

 今のバイデン大統領は株高が続くなか、ウクライナ支援として軍需産業にカネを注ぎ込んでいるが、需要を無理やり創出している点においては、ニューディール政策と似たり寄ったりだ。

“外来株高”に浮かれている場合ではない

 100年前との違いは、世界の株価をつり上げているのが鉄道や石油など旧来の産業ではなく、国境を越えて展開するEコマースやAI向け半導体といった21世紀型産業である点だ。しかし、それらの産業が進む先にあるのは、やがてシンギュラリティ(AIが人類の知能を超える技術的特異点)を迎えて“人間の仕事がAIに奪われる世界”であることを忘れてはならない。人手不足のIT関連人材もAIに取って代わられたら、その後は100年前と同じく失業の山となるだろう。IT=失業という時代がすぐそこまで迫っているのだ。

 

 ここからさらに、ロシア・ウクライナやイスラエル・パレスチナでの戦争の長期化・拡大(第3次世界大戦の可能性も)、資源高や食料難が重なれば、インフレが再加速するかもしれない。

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 また、11月のアメリカ大統領選挙の帰趨が株価暴落の引き金となる可能性もある。「自国ファースト」で保護主義的なトランプ前大統領が政権に返り咲けば、その政策が世界経済を混乱に陥れる懸念は拭えない。100年前に不況を呼び込んだ「ブロック経済【*】」と同じである。

【*注 ブロック経済/1930年代にイギリスやフランスなどの主要資本主義国が植民地・半植民地・同盟国などを統括して形成した排他的・閉鎖的経済体制。域外に対する高率関税、2国間の貿易協定、通貨・商品割当てなどによって、域外に需要が流出しないようにした】

 

 100年前の日本では、米騒動が起きるほど物価が高騰し、1920年には戦後恐慌が発生。関東大震災(1923年)、金融恐慌(1927年)、さらに世界恐慌から昭和恐慌へと続き、企業倒産や失業が急増した。銀行では預金者らによる取り付け騒ぎが起きてパニックとなった。

 

 当時に比べれば、預金保険制度や公的資金の注入などの施策で教訓を得ている部分もあるが、100年前のスペイン風邪流行後と同様に、アフターコロナの特需はもうなくなっている。日本でも、コロナ対策でバラ撒かれた補助金の恩恵はすでになく、逆に「ゼロゼロ融資(新型コロナウイルス禍で業績が悪化した企業を対象に実施された実質無利子・無担保の融資制度)」の返済が本格化するなどして企業倒産が増えたり、さらに景気が悪化したりする可能性がある。だがその時、政府のバラ撒き政策を支えてきた日銀の異次元金融緩和はもはや期待できない。大恐慌のリスクという現実を直視すれば、今の“外来株高”に浮かれている場合ではないのである。

 

【プロフィール】

大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。ビジネス・ブレークスルー(BBT)を創業し、現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『日本の論点2024~2025』(プレジデント社)など著書多数。

※週刊ポスト2024年7月12日号