骨太の方針 賃上げ定着へ改革徹底を | 元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

「経済崩落7つのリスク」、
「マネー資本主義を制御せよ!」、
「緩和バブルがヤバい」、
「日本復活のシナリオ」等の著者による世界経済と国際金融市場のReviewとOutlook

「国家の盛衰を決めるのは、政治経済体制が収奪的か包括的かの差にある」(アシモグルら)

掲題の今朝の産経社説。

 

日経社説とどんぐりの背比べで、

問題なしとしない。

 

いずれにしても、既に2%をかなり超えるインフレが

2年間を超えてきても続いているのに、

いまだに「デフレからの完全脱却を目指す」などと

詭弁・強弁する骨抜きの方針では、

一段の通貨安と物価高を許すだけに終わり、

物価安定と持続的な経済成長の同時達成への道は

いつまでたっても拓けまい。

 

(なお、日経同様に、産経社説も

デフレを景気不振と故意に混同させて、

読者を混乱させているのかもしれない。)

 

約3~4%のインフレ下にあっても、

事実上のゼロ政策金利を継続する

大胆な金融緩和を第一の矢とする

アベノミクスの三番煎じに過ぎないキシダノミクスと

その番犬になり下がるかのような植田日銀体制では、

10%消費税率と約4%のインフレ税のダブルパンチで

家計の実質可処分所得が一段と減少して、

個人消費水準が4四半期連続で落ち込む現下の

マイナス経済成長(2024年1~3月期)を

反転させることは極めて期待し難い。

 

実際、直近の4月毎月勤労統計調査でも

25カ月連続での実質賃金の

前年同月比での減少が続いている。

 

物価と賃金と悪循環はあっても、

それらの好循環は期待できないのが

(欧米)経済学の常識でもある。

 

誠に遺憾ながら、主

要先進国G7の常識に大きく矛盾するような、

一方で、インフレでもデフレ脱却を目指す等と詭弁を弄し、

他方で、物価と賃金の好循環を願望・強弁するかのような

岸田政権の「骨太の方針」は

「骨抜きの方針」となることが必至と見ざるを得ない。

 

 

 

 

政府が、21日に閣議決定した令和6年の経済財政運営指針「骨太の方針」で、デフレから完全に脱却し、成長型の新たな経済ステージへの移行を目指していく道筋を示した。

 

あらゆる政策を総動員して賃上げの定着を図り、所得や生産性の向上につなげる。官民を挙げて投資を強化し、持続的な経済成長を実現する。これらが骨太で描く経済のシナリオである。

 

方向性は妥当だが、問われるべきはその実効性だろう。

 

労働市場改革や成長分野への戦略的投資などの骨太の政策には、かねて必要性が指摘されてきたものが多く、目新しさがあるわけではない。むしろ大事なのは、こうした積年の課題を今度こそ確実に解決できるかどうかである。岸田文雄政権にはそのための実行力を求めたい。

 

骨太は日本経済が過去30年の停滞から脱する「歴史的チャンス」にあると指摘した。春闘での賃上げを受けて日銀が異次元緩和を転換するなど経済の潮流は確かに変化しつつある。

 

一方で折からの物価高は家計を苦しめており、行き過ぎた円安が景気を下押しする懸念もある。その中で成長型経済へと移行するには、経済構造の転換を着実に果たす必要がある。

 

政府が特に重視したのが賃上げの定着だ。中小企業にも行き渡るようリスキリング(学び直し)による全世代の能力向上支援や、下請法を強化して人件費を取引価格に転嫁しやすくすることなどを明記した。物価高に賃上げが追い付かなければ豊かさを実感できない。企業の稼ぐ力を高めることも含めて取り組みを強めなくてはならない。

 

骨太は経済・財政・社会保障の持続可能性を保てるよう、人口減少が本格化する2030年代以降も実質1%を安定的に上回る経済成長を確保する考えを示した。かつての骨太で名目3%程度、実質2%程度を上回る成長が必要とされたことと比べると、慎重とはいえ現実的でもある。この成長率を少しでも上昇させられるよう、生産性向上などで潜在成長率を高める構造改革を徹底すべきである。

 

腰を据えた政策運営が求められるのは当然だ。岸田首相は21日に新たな物価高対策を示したが、足元の経済をテコ入れする対症療法を繰り返すばかりでは新たなステージへの移行も覚束(おぼつか)ないと認識しておきたい。