リニア工事 住民の不安にこたえよ | 元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

「経済崩落7つのリスク」、
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「日本復活のシナリオ」等の著者による世界経済と国際金融市場のReviewとOutlook

「国家の盛衰を決めるのは、政治経済体制が収奪的か包括的かの差にある」(アシモグルら)

掲題の今朝の朝日社説。

かなり説得的。

ご参考まで。

 

 岐阜県瑞浪(みずなみ)市の山あいで、水枯れ現象が起きている。リニア中央新幹線工事の影響とみられる。JR東海は工事をしばらく続けようとしたが、自治体に批判されて即時中断を表明した。ちぐはぐな対応を改め、住民の不安に正面からこたえなければいけない。

 

 約130世帯が暮らす地域。2月、観測井戸で異変が分かり、その後、300年以上という名所の井戸や、ため池が枯れた。少なくとも14カ所で水位が下がり、飲み水など生活に影響が出ている。一方、数百メートル離れたトンネル工事現場では毎秒20リットルの湧水(ゆうすい)が2月中旬から続く。

 

 JRは水枯れと工事との関連を認め、代替水源確保に乗り出している。

 

 解せないのは、この間掘削工事を続けたことだ。今月16日、「一時中断」を表明したが、これもあと200メートル、集落に近づくところまで掘ったうえでという意向だった。瑞浪市長らが「即時中断」を求め、JRも20日になってようやく受け入れた。

 

 「地質が脆弱(ぜいじゃく)な部分は掘り進め安全を確保したかった」というが、住民生活より工事の進捗(しんちょく)を優先していると受け取られても仕方ないだろう。

 

 工事が水資源や生態系に深刻な影響を与えないか。静岡県で問われ、JRも対応に苦しみ、開業時期を2027年から7年以上先に繰り延べせざるを得なくなった問題だ。

 

 品川~名古屋間は86%がトンネルだ。地下の水脈にあたることは至るところで想定される。入念な事前調査はもちろん、問題はすぐ公表し、工事中断を含め、対策を講じるのは最低限の務めだろう。

 

 瑞浪市の件は、5月上旬になって岐阜県に報告した。報道後に公表したことといい、情報開示にも疑問がある。

 

 静岡県では発電ダムの取水を減らし、下流の水資源を保護し、南アルプスの生態系も監視しながら慎重に工事する案が出ている。26日投開票の県知事選後、JRは話し合いを加速しようとしていたが、工事に前のめりでは困る。

 

 瑞浪市の隣の岐阜県御嵩(みたけ)町でも、国選定の重要湿地にトンネル残土を捨てる計画を進め、地元自治会などが反対している。残土は有害な重金属を含む可能性もあり、町外搬出を求めたら、JRは大量搬送で「ダンプ公害」が生じる恐れまで持ち出し、計画を撤回しない。住民が、こんな二者択一を強いられるのは不条理ではないだろうか。

 

 リニアが実現するとされる経済効果や利便性の追求にばかり目を奪われず、人々の暮らしへの影響を軽視しないでもらいたい。