大企業の好決算 暮らしに「果実」還元を | 元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

「経済崩落7つのリスク」、
「マネー資本主義を制御せよ!」、
「緩和バブルがヤバい」、
「日本復活のシナリオ」等の著者による世界経済と国際金融市場のReviewとOutlook

「国家の盛衰を決めるのは、政治経済体制が収奪的か包括的かの差にある」(アシモグルら)

掲題の昨日の東京新聞社説。

一理あるものの、問題なしとしない。

 

通貨安とインフレの悪循環に陥っているのが日本経済の現状だ。

 

企業にむりやり賃上げ等を求めて見ても、

今度はむしろ賃金とインフレの悪循環に陥る懸念がある。

 

インフレは高消費税率と相まって、

家計をインフレ(税)と

10%という高率の消費税率の下で消費税額を押し上げることで、

消費者の実質可処分所得を大きく押し下げてきている。

 

その結果、消費は4四半期連続で前期比で収縮して、

日本経済全体の景気低迷を招いているのが、

1~3月期GDP統計でも明らかとなっている。

 

5月マンスリーでも詳述したが、インフレ下では、

物価上昇を超える賃上げではインフレ・スパイラルをおこしかねない。

 

そうではなく、インフレ下では、まずもって、

政府・日銀が物価上昇を超える利上げを急がねばならない。

 

インフレを超える利上げを粛々と実施しないのであれば、

日本経済は一方で長期経済停滞が続き、

他方で通貨安を中心にインフレ・スパイラルという

悪循環にますます陥っていく恐れが強い。

 

輸出大企業への怨嗟の気持ちは理解できなくもないが、

むしろ、インフレと長期停滞の共存というスタグフレーション化の中で、

一方で日銀にインフレを超える利上げを求め、

他方で、政府に5%消費税率への恒久的引き下げを同時に求めることこそが、

戦後最大の政治・経済・金融危機に直面しつつも、

物価安定と持続的経済成長を達成して、

世襲化し特権化する上級国民に代わって、

一般国民が日本経済全体の厚生を向上させる唯一の道であることを、

我々は今こそ理解しなければなるまい。

 

 

 

 

 東証プライムに上場する大企業の2024年3月期決算が円安の追い風で3年連続の過去最高益となる見通しとなった。

 

 しかし、国民には好景気の実感が乏しい。円安の「果実」をいかに家計に戻すのか。官民挙げて知恵を絞らねばならない。

 

 好決算をけん引したのは、自動車、機械など輸出関連の製造業で大企業が軒並み利益を増やした。消費意欲が旺盛な米国市場で売り上げを伸ばしたことが要因だ。

 

 為替市場では円安が進行し、海外での売り上げ増加は、円建てで収益の押し上げに直結する。

 

 1円の円安が数十億円単位の利益増加につながった企業もあり、輸出関連企業に限定すれば「円安景気」と呼んでもいい状況だ。

 

 一方、総務省の家計調査によると、23年度の1世帯当たりの月額平均消費支出は前年度比3・2%の減少となった。3年ぶりのマイナスで、食品など日用品の値上げが買い控えに拍車をかける悪循環に再び陥っている。

 

 中小企業も苦しい経営が続く。調査会社の東京商工リサーチによると、23年度の企業倒産は前年度比31・5%増で9年ぶりに9千件を上回り、24年度は1万件を超える可能性が高い。原材料価格の高騰などに加え、大企業の協力不足で価格転嫁が円滑に進まず、中小企業を追い詰めている。

 

 過度の円安傾向はアベノミクスの「第一の矢」だった大規模な金融緩和が要因だ。大企業の多くは政府・日銀主導の通貨安政策で得た利益を内部留保としてため込んだ。その額は約511兆円(22年度)にまで積み上がる。

 

 国策で潤った大企業が利益を国民の暮らしに還元するのは社会的義務だ。今春闘での5%超(経団連調べ)という高水準の賃上げを継続し、雇用者全体の所得引き上げをけん引する必要がある。

 

 政府は価格転嫁については一層目を光らせ、悪質な事例には法令に基づく厳しい行政処分をためらってはならない。

 

 企業による設備投資や研究開発投資を増やし、新たな「稼ぎ頭」を育てることも重要である。政府には、投資に前向きな企業を税制で優遇するなど、めりはりの利いた産業政策の拡充を求めたい。

 

 大企業の経営者は、好決算が家計の犠牲の上に成り立つことを自覚し、国民への還元という社会的義務を誠実に果たしてほしい。