掲題の今朝の毎日社説。
経済の診断書としてはかなり説得的。
特に、タイトルはほぼ申し分あるまい。
だが、その処方箋は問題なしとしない。
日本経済の高インフレ、
大幅円安、
長期消費停滞、
少子化という極めて厳しい4重苦から抜け出すには、
そもそも政策変数ではない賃上げを
民間セクターに求めて見ても埒があかない。
実際、物価と賃金の悪循環が
過去24か月間継続してきていることを
同社説自体が認めている。
また、生産性向上などの抽象的な美辞麗句では、
日本経済の深刻な苦境を抜け出す突破口にはならない。
(欧米)経済学では物価と賃金の好循環という言葉はない。
反対に、物価と賃金の悪循環こそを懸念するのが筋である。
政府・日銀のプロバガンダ通りに、
物価上昇を上回る賃金上昇を期待することは、
それらの悪循環というインフレ・スパイラルへの導火線になりかねない。
むしろ、物価上昇を上回る利上げこそが、
物価安定と持続的成長への必要条件だ。
G7では日本を除くすべての国が
物価上昇を上回る利上げを実施ずみだ。
インフレを超える政策金利の大幅な引き上げをせず、
むしろ経済学の原理原則に背き、
物価上昇を超える賃金上昇を消費者や企業に説く政府・日銀は、
結果として、大幅円安と2%を超えるインフレの制御不能に陥り、
結果として、家計の実質可処分所得を押し下げて、
リーマン・ショック以来4期連続で消費を大きく落ち込ませている。
繰り返すが、いま日本経済に必要なのは、
物価上昇を上回る賃上げではなく、
物価上昇を上回る利上げが必要なのだ。
もっとも、インフレを超える利上げだけでは、
物価安定と持続的な成長のための必要条件にすぎず、
十分条件とは言えないことも事実。
明らかに、大幅利上げにともなう
景気後退等の副作用を相殺する必要がある。
このためには消費税率5%への恒久的引き下げが必要となる。
このような拡張的な財政政策と
収縮的な金融政策のポリシーミックスでしか、
高インフレ、
大幅円安、
長期消費停滞、
少子化という厳しい4重苦から抜け出せまい。
その結果として、金利上昇による日銀債務超過や、
政府債務の持続可能性が疑われる局面もあろうが、
それは日本経済の物価安定と持続的成長のための
短期的な痛みであり、それらの避けられない痛みに耐えて、
日本経済の長期成長のために乗り越えていかねばならない。
令和6年の今、我々が目指す道は、
厳しい現実を見つめて、
そこから抜け出す賢明で大胆な発想法しかない。
いつまでも個人消費のマイナス成長を甘受し続ければ、
家計の苦しさが一段と増幅して、
ますます少子化が加速し、
日本の衰弱を早めるだけだろう。
最後に、令和6年のいまは、世襲化・特権化が蔓延る
日本の戦後最大の政治・経済・金融の危機に
正に直面していることを強調して結びとしたい。
長引く物価高が国民生活を圧迫している状況が鮮明となった。
今年1~3月期の実質国内総生産(GDP)は、年換算の成長率がマイナス2%に落ち込んだ。訪日観光客の増加などコロナ禍から回復する動きが一部で見られるが、景気全体は停滞したままだ。
GDPの半分以上を占める個人消費の不振が大きい。減少は4四半期連続となり、リーマン・ショック以来という異例の事態だ。
岸田文雄首相は賃上げが物価高を上回る「経済の好循環」を目標に掲げ、「株価など明るい兆しが随所に出てきた」と強調している。だが国民の実感とは程遠い。
物価上昇を差し引いた実質賃金は、3月まで24カ月連続のマイナスに沈んでいる。春闘での賃上げと6月から始まる定額減税の効果が表れ、夏にはプラスに転じると言われてきたが、年末以降に遠のくとの見方も出てきた。
物価高を加速させているのは、歴史的な円安である。4月には一時、1ドル=160円台と34年ぶりの水準に下落した。その影響は大きく、5月の飲食料品の平均値上げ率は30%超と過去2年で最高になったという。
マイナス金利政策が解除されたが、円売りには歯止めが掛からなかった。政府・日銀は円買いの市場介入を実施したと言われる。与党には物価高対策として追加減税を求める声がある。だが、いずれもその場しのぎにしかならない。
異次元の金融緩和を柱としたアベノミクス以来、円安頼みの政策が続いてきた。輸出産業を中心に潤ったが、国民には恩恵が広がらず、むしろ暮らしへの弊害が目立っている。問題を直視し、抜本的な対策を講じる必要がある。
「日本売り」を招いている背景には、低調な内需という経済の構造的な弱さがあると指摘される。賃上げを拡充して、消費の底上げを図ることが欠かせない。
雇用の7割を占める中小企業の賃上げはまだ低い水準にとどまる。政府は最低賃金の引き上げを加速し、非正規労働者の処遇改善を促進しなければならない。大企業は好調な収益をより積極的に還元すべきである。
人への投資を強化すれば、生産性向上も見込める。日本経済が活気を取り戻す契機となるはずだ。