通貨安 大変なのは日本だけじゃない!【アジア発経済コラム】 | 元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

「経済崩落7つのリスク」、
「マネー資本主義を制御せよ!」、
「緩和バブルがヤバい」、
「日本復活のシナリオ」等の著者による世界経済と国際金融市場のReviewとOutlook

「国家の盛衰を決めるのは、政治経済体制が収奪的か包括的かの差にある」(アシモグルら)

 

掲題の昨夜のNHKニュース。

 

まるで、先進国G7の一員である経済大国の日本が、

名目GDP規模で世界第4位に転落したからといって、

アジア新興国とまるで同じであるかのように議論する

NHKの本記事は問題なしとしない。

 

変動為替相場制を採用するG7主要国の大国日本は、

本来、金融政策や財政政策を駆使して、

負の外的経済ショックの国内経済への影響を

遮断する「隔離効果」を持ちうることが、

国際金融論で知られている。

 

2021年後半から台頭してきていたグローバルなインフレの影響は

日本経済にも既に2022年春には及び始めていた。

 

2022年4月から日本経済でもコアCPIのインフレが

明らかに2%を超え始めていたのだ。

 

したがって、現実に2%を超えてきたインフレを

日銀は目の当たりにしていたのだから、

2022年春から遅滞なく日銀は

粛々と金融政策の正常化を開始すべきあった。

当時も、政府・日銀は2%物価安定目標を堅持していたはずだ。

 

その後2年間も2%をかなり超えるインフレを放置してきて、

生活費高騰の危機を可処分所得の減少という形で、

一般消費者に負担を押し付けてきておきながら、

マイナス金利の解除に日銀が動いたのは

まだ2か月も経過していない今年3月のことに過ぎない。

 

いまだに、約3%のインフレが続き、

ドル円レートは本年昭和の日に160円台を超えた。

 

このような大幅円安とインフレ加速が生じたのは、

この間、異次元金融緩和を継続し、

低金利政策に拘泥してきた、

政府・日銀の誤ったマクロ経済政策に主因がある。

 

なお、アジアの他の経済は、

中国やインド等を除き、大国ではない。

経済規模が限られ、外国、特に、米国、中国あるいは日本経済からの

強い影響を受けざるを得ない。

 

このため、1998~1999年におけるアジア通貨危機当時も、

今も、変動為替相場制とは名ばかりで、事実上は、

主として対ドルでの固定相場制を採用してきているが現実である。

 

また、大国中国でさえ、基本的には対ドル固定相場制に近い。

 

いずれにせよ、大国経済でしかもG7先進国でもある日本には、

変動為替相場制の下で、

自国の金融と財政政策を駆使することで、本来、

物価安定と持続的な経済成長が達成可能なはずである。

 

逆に、それらに失敗し続けてきているのは、

他ならぬ我が国政府・日銀による経済政策の過ちにある。

 

インフレ再燃の兆しがありながらも

世界の経済成長をけん引してきている

米国経済やドル高に、

日本の公共放送であるはずのNHKが

まるで責任転嫁するかのような議論を展開することは、

誤りであるのみならず、外交上も問題なしとしまい。

 

また、大国経済の日本経済を

小国経済で外国経済から大きな影響を受けざるを得ない

多くのアジア経済各国と同列視することも

大きな誤りと言わざるを得ない。

 

 

2024年5月12日 0時44分 マーケットコラム

 

 

一時、1ドル=160円台をつけて今も記録的な円安水準が続く外国為替市場。通貨政策を担当する財務省の神田財務官は「いつでもやる用意があり、極端に言えばきょうやるかもしれないし、あしたやるかもしれない」(5月9日)とさらなる市場介入の行動を匂わせ、マーケットの動きをけん制しています。

こうした通貨安に見舞われるのは日本だけではありません。“ドル1強”ともいえる状況の中で、かつて通貨危機を経験したアジアの国々も通貨防衛に乗り出しています。通貨安の先に何があるのか、探ります。
(アジア総局記者 加藤ニール)

薄商い狙った市場介入?

「波状攻撃をしかけてきた!」

2024年4月29日の祝日の午後、タイのバンコクにある銀行関係者は驚きの声をあげました。

この日の午前中、1ドル=160円24銭まで一気に急落した円相場ですが、午後1時すぎに一転して円高方向に大きく振れたのです。

少し円安に戻ろうとするとぐっと円高に戻りました。

アジアの取引時間と、夕方のロンドン市場が開いた時間と、少なくとも2回は大規模な市場介入が行われたと市場ではみられています。

介入とみられる動き8兆円規模か

この4月29日と5月2日早朝に政府・日銀が行ったとみられる市場介入。

金融仲介会社「東短リサーチ」の分析をあわせると、計8兆円規模の介入が行われたとみられています。

ここ数年の円安局面では2022年にも円買いドル売りの介入が行われていますが、今回の介入とみられる動きが分析どおりであれば1週間としては最大規模の円買い介入となります。

日本だけじゃない 東南アジア各国も通貨防衛迫られる

急速な通貨安に直面して対応を迫られているのは日本だけではありません。

“ドル1強”とも言われる中、アジアなど新興国でも通貨防衛に乗り出す動きが相次いでいます。

インドネシアは市場介入を繰り返し、ベトナムも通貨安を強くけん制しています。

 

インドネシア 市民の台所で値上げの動き

インドネシアが市場介入を繰り返すのはいったん落ち着きを見せていたインフレが再燃することを恐れているからです。

それは首都ジャカルタの屋台にあらわれています。

4月上旬まで続いた断食月のラマダンの期間中、飲食が許される日没ともなると多くの人でにぎわっていましたが、食料品の価格が高騰し、4割もの値上げに踏み切った店も出ています。

インドネシアのインフレ率は2024年3月に7か月ぶりに3%台に上昇。

天候不順に加えて通貨安による輸入価格の上昇が食料品の値上がりに拍車をかけています。

ルピア相場は4年ぶりの安値水準を更新し、4月にはインドネシア中銀が半年ぶりに利上げを決定。

その理由を「ルピア相場の安定性を強化することが狙いだ」と説明しています。

マレーシアでは労働力流出も

マレーシアでは通貨安の影響で労働力の流出を招いています。

マレーシアの通貨・リンギットは2024年2月に1998年以来の水準まで値下がり。

マレーシア ジョホール州 ジョホールバル

地元メディア、マレーシアのニュー・ストレーツ・タイムズは、シンガポールと国境を接するジョホール州では通貨安を受けてより高い賃金を求めてシンガポールに出稼ぎに出る人が増えてレストランでは人手不足に直面していると伝えています。

国際金融のトリレンマ

通貨安と市場介入を話題にするとき、金融界でよく耳にするのが「国際金融のトリレンマ」という言葉です。

トリレンマ(trilemma)は、辞書を引くと「3つの解決策のどれも受け入れられないような状況を指す」と出てきます。

ここから「国際金融のトリレンマ」とは、「資本移動の自由」「為替の安定」「金融政策の独立性」の3つを同時に実現することはできない、1つは諦めなければならない、という意味になります。

多くの先進国は「資本移動の自由」と「金融政策の独立性」を維持したいがために「為替の安定」は犠牲にして、市場の動きに委ねる策をとっています。

中国は「為替の安定」と「金融政策の独立性」を維持したいがために「資本移動の自由」を諦めています。

利上げを決定したインドネシアや利下げをせず高めの金利を維持するタイの場合、「資本移動の自由」を取りつつ「為替の安定」を選んだため、利上げないし、高金利維持を迫られ、「金融政策の独立性」を犠牲にしたともいえるかと思います。

円の背後にある経済の実力は

アジア各国では1997年に起きたアジア通貨危機のことが今も語られています。

タイの通貨バーツ急落をきっかけに東南アジアだけにとどまらず、韓国やロシアにも危機は波及しました。

預金引き出しに銀行窓口に殺到する市民 タイ バンコク(1997年8月)

このとき、各国は危機対応のため、IMF=国際通貨基金などに支援を求め、IMFが課した緊縮財政や高金利政策の結果、経済は大きなダメージを受けました。

そして、タイとインドネシアでは政権交代にまで発展しました。

このときタイのバーツ急落のきっかけの1つとされているのがヘッジファンドの動きでした。

実質ドルペッグ制による表向きの為替の安定と、短期資金の流入という経済実態に、ヘッジファンドが疑問を突きつけて、資金を流出させたことが通貨危機の引き金になったと言われています。

日本の円安は日米の金利差だとの説明をよく耳にしますが、この通貨安の裏には何があるのか、アジア通貨危機を振り返って考えさせられます。

投機筋から日本の経済成長や「稼ぐ力」の衰えを見透かされてしまっていないのかどうか。

また、大規模な金融緩和を続けて大量のマネーを供給したことが通貨の価値を下落させたり、その間の成長戦略や競争力強化、持続的な財政運営の取り組みがおそろかになったりしていないのか。

円安の背後にあるものを冷静に見定める時期に来ているように感じています。

注目予定

 

来週は15日にアメリカの消費者物価指数が公表されます。

アメリカのFRBの利下げの時期が焦点となる中、政策の先行きを見極める上で重視されます。

内容次第では円相場に大きな影響を与えるだけに注目が集まります。