火山列島に生きる 大噴火に耐える防災力を | 元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

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「日本復活のシナリオ」等の著者による世界経済と国際金融市場のReviewとOutlook

「国家の盛衰を決めるのは、政治経済体制が収奪的か包括的かの差にある」(アシモグルら)

掲題の昨日の東京新聞社説。

かなり説得的。

ご参考まで。

 

 火山の観測や研究を統括する政府の火山調査研究推進本部(火山本部)が4月に発足しました。総合的な観測計画を立て、研究予算を調整するほか、得られた研究成果を集めて火山噴火のリスクを評価することが役割です。

 

 文部科学省が事務局を務め、火山や防災の専門家、内閣府、経済産業省、国土交通省など関係省庁で組織されます。火山対策をどう強化するのかが問われます。

◆静かな顔しか知らない

 日本には111の活火山があります。世界約1500の活火山の約7%がひしめく火山列島です。日本のシンボルともいえる富士山も活動度の高い活火山です。

 

 この国で暮らすには、火山と共生していかねばなりません。そのためには高い防災力が必要とされます。戦後最悪の死者・行方不明者63人を出した2014年の御嶽山の噴火=写真、本社ヘリ「おおづる」から=以降、そうした認識が高まってきました。

 

 米国やイタリア、インドネシアなど他の火山国には観測、研究を一元的に担う機関があります。

 

 日本では大学のほか気象庁、海上保安庁、国土地理院、防災科学技術研究所、産業技術総合研究所などが、それぞれの立場から観測や研究に当たっていますが、これからは火山本部が、防災力強化に必要な観測、研究などを統括し知見を結集する司令塔となります。

 

 トップダウン的な判断で、これまでにない大がかりな観測や研究も可能になるでしょう。

 

 ただ、予算が限られる中、大学などボトムアップ式の研究とのバランスをとることも重要です。

 

 大学の交付金削減にあわせ、火山学のポストも減る一方です。

 

 文科省によると、主に火山を対象とする日本の研究者は2020年度時点で171人。地震研究者の半数程度にとどまります。

 

 地震災害に比べれば、火山災害の被害規模は小さく、研究ポストが少ないことも仕方がない、との見方はあります。

 

 しかし、忘れてはいけないことがあります。日本ではこの100年ほど大規模な噴火が起きておらず、私たちが知っているのは、いわば火山の静かな顔なのです。

 

 御嶽山の噴火も火山学的には中規模に分類されます。より大きな噴火が起こる日は、いずれやってきます。

 

 桜島は110年前に大規模噴火を起こして大量のマグマを噴出しましたが、その後、マグマが徐々に蓄積され、現在は大噴火前とほぼ同じ量がたまっている、と専門家は分析しています。

 

 富士山は1707年に極めて大規模な噴火をして以来、300年以上も静かな状態です。しかし、地下ではマグマに関連するとみられる低周波の地震が断続的に起きています。

 

 大噴火が再び発生する時期に差しかかった際に対応できるよう、研究者のポストを確保し、人材を育成することも、火山本部の役割と言えます。

◆火山学を志す人、いでよ

 火山本部は、阪神大震災の反省から発足した地震調査研究推進本部を手本としており、その活動から学ぶべきこともあります。

 

 地震本部に設けられた地震調査委員会は、全国の主な活断層で、数十年の期間内に地震が発生する確率を算出する長期評価に取り組んできました。

 

 例えば「南海トラフで今後30年以内にマグニチュード(M)8・0~9・0の地震が発生する確率は70~80%程度」のような形ですが、長期評価で用いる手法にはさまざまな議論があり、まだ研究段階あるいは検証段階と言えます。

 

 そうした手法で試算した結果を説明不足のまま、あたかも「完成品」のように公開したため、混乱や批判を招きました。それは、防災の仕組み全体に対する不信にもつながりかねません。

 

 火山本部にも火山調査委員会が設けられ、噴火リスクの評価を担当します。4月下旬に初会合が開かれ、全国の火山の現状について今秋ごろをめどに評価をまとめる方針が示されました。

 

 評価がどのような形になるのか現時点では分かりませんが、結果だけではなく根拠や限界も丁寧に説明することが大切です。

 

 そうしたコミュニケーションを通じて、火山への関心や興味を持つ人が増えることも期待したい。その中から新たに火山学を志す人も出てくるかもしれません。

 

 たゆまぬ努力の積み重ねが火山の観測、研究の基盤と防災力を強化し、ひいては私たちの暮らしを守ることになるのです。