日銀の金融政策 円安への対応手ぬるい | 元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

「経済崩落7つのリスク」、
「マネー資本主義を制御せよ!」、
「緩和バブルがヤバい」、
「日本復活のシナリオ」等の著者による世界経済と国際金融市場のReviewとOutlook

「国家の盛衰を決めるのは、政治経済体制が収奪的か包括的かの差にある」(アシモグルら)

掲題の昨日の東京新聞社説。

かなり説得的。

 

もっとも、問題なしとしない。

なぜなら、通貨介入は日本当局による

単独介入である限り、

一時的な効果しか期待できないためだ。

 

折しも、イエレン米財務長官が、

「各国は異なる政策を採用することが可能で、

市場における為替レートの調整はその一部だ」とし、

「市場が決定する為替レートを持つ大国」にとって、

介入はめったにない状況に限定されるべきだ

と主張した由(4月26日付ロイター記事)。

 

けだし正論と言わざるを得ない。

 

いずれにしても、米経済規模(米名目GDP水準)は

日本経済規模(名目GDP水準)の7倍もあり、

米通貨当局との協調なしの単独通貨介入では実施後の、

国際金融市場における円高の持続性は期待し難い。

 

なお、先週末のブルーンバーグ記事によれば、

日本当局は通貨介入を先週末に既に実施済みなのだが、

円安阻止に失敗したのではとの

憶測さえも生じているのは興味深い。

 

先週末26日に通貨介入があったか否かのデータ発表は

5月末まで待たなければならない。)

 

確かに、NY市場で先週末に発生した

ドル・円レート158円台突破(円急落)は、

為替の長期的な購買力平価とみられる1ドル約108円

(国際通貨研究所による日米CPIを使用した推定による)

からは約50円(約46%)も円安に大幅乖離している。

 

しかし、為替の金利平価の基礎となる日米長短金利差が

今後も拡大すると国際金融市場が期待(予想)するかぎり、

短期・中期的に見ると、1ドル158円でさえ必ずしも

経済ファンダメンタルズとかけ離れているとは言い難い。

 

(例えば、日米長短金利差が現在約5%あり

今後もそれが継続するものと予想しよう。

 

日米の証券投資家の保有する

証券ポートフォリオの平均的な満期が

共に約10年間であると仮定してみよう。

 

そうであれば、米国証券への投資からは

5%で10年間も利回りが期待できることになる。

結局、米国証券投資の期待リターンは

約50%にも達することが期待できる。

 

したがって、通貨ドルは直ちに50%増価して、

その後10年間にわたり徐々に円に対して

減価していくと予想することが合理的になるためだ。)

 

購買力平価が前提とする長期は別として、

国際金融市場が、当面、日米金利差が拡大すると

期待(予想)する限り、

ドル円レートの160円突破を含む

一段の円暴落も短期・中期的には否定できまい。

 

結局、2022年春以降にG7の他の中央銀行が実施したような

利上げサイクルに日銀が入ることは必要条件に過ぎない。

 

加えて、日銀の大幅利上げに伴う景気後退リスク等を相殺する

消費税撤廃に向けた消費税率の5%への恒久的引き下げという

ポリシーミックスを持たない植田日銀のみならず岸田政権でさえも

日本復活のための十分条件を満たす構想力を持っていない。

 

誠に遺憾ながら、日本の政治、経済、金融市場の

全般的な戦後最大の危機が待ったなしに迫ってきていると

危惧しないではいられない。

 

 

 

 日銀は25、26両日開いた金融政策決定会合で政策金利の維持を決めた。金融緩和基調は当面続き、過度の円安は事実上放置された形だ。円安による物価高で家計は深刻な痛手を受けている。自国通貨の価値下落に対し、日銀の対応は手ぬるいのではないか。

 

 会合の結果を受け、円相場は一時、1990年5月以来の1ドル=156円台まで下落した。

 

 日銀の植田和男総裁は決定会合後の会見で「当面、緩和的な金融環境が継続する」と述べた。一方、米連邦準備制度理事会(FRB)は金融緩和を見送る姿勢を明確にしており、日米の金利差が一段と開き、円安がさらに加速する可能性は高いだろう。

 

 日銀は決定会合に合わせ2024年度の物価見通しを従来の2・4%から2・8%に引き上げた。食品の値上げに加え、5月で補助金が打ち切られる電気・ガス代も負担増が避けられず、見通しの引き上げは当然だ。

 

 ただ物価上昇を予測しながら、それに拍車をかける円安を容認する姿勢は理解に苦しむ

 

 円安に対しては鈴木俊一財務相がけん制発言を繰り返しているものの、金融市場の反応は鈍い。もはや「口先介入」だけでは、効果が見込めないのは明らかだ。

 

 過度の円安を抑制するには、政府は早急に円買い介入に踏み切らねばなるまい。日銀も6月の次回決定会合では金融引き締めをためらわず、政府と協調して円安を抑え込む姿勢を鮮明にすべきだ。

 

 13年以降、アベノミクスの「第1の矢」であった大規模な金融緩和は長期にわたる円安傾向をもたらした。この間、円安の追い風を受けて、多くの大企業が利潤を上げる一方、新たな事業創造に向けた投資や工夫を怠り、国際的な競争力は失われた。

 

 このため日銀内に、金融を急速に引き締めれば、脆弱(ぜいじゃく)な国内企業に打撃を与え、景気の足を引っ張りかねないとする懸念があることは理解できなくもない。

 

 ただ24年3月期決算でも最高益となる大企業が相次ぐ見通しだ。低金利がもたらす「ぬるま湯」に浸る大企業のみが潤い、家計や中小企業が犠牲となる構図はこれ以上放置できない。

 

 植田総裁には、日銀本来の使命である物価の安定のために、アベノミクスからの本格的な脱出を早急に図るよう強く求めたい。