米国の保護主義 大統領選での過熱を懸念する | 元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

「経済崩落7つのリスク」、
「マネー資本主義を制御せよ!」、
「緩和バブルがヤバい」、
「日本復活のシナリオ」等の著者による世界経済と国際金融市場のReviewとOutlook

「国家の盛衰を決めるのは、政治経済体制が収奪的か包括的かの差にある」(アシモグルら)

掲題の今朝の読売社説。

 

一理あるものの、問題なしとしない、

なぜなら、貿易と通貨はコインの裏表であるためだ。

 

貿易は各国通貨の交換レートである為替レートを通じて、

最終的に決済される。

 

確かに日本の関税は米国に比べて低位にあるものの、

ドル円為替レートは日本円の対ドル価値を大幅に引き下げて、

日本の輸出価格競争力を高めて、

米国の価格競争力に打撃を与え続けている。

 

2014年の米中西部におけるラストベルトの

製造業ブルーカラーからの雇用や所得不安を背景に、

接戦州を選挙民数の多さで勝ち抜き

異端のトランプ大統領の誕生につながった

僅か10年前の歴史を

もうすでに忘却しているのではあるまいか。

 

大統領選前の米国での貿易保護主義の復活劇は、

我が国の際限のない通貨安競争の結果でもあろう。

 

 

 11月の米大統領選に向け、バイデン大統領とトランプ前大統領が、保護主義的な主張を競っている。世界一の経済大国での内向きの論戦に、懸念を抱かざるを得ない。

 

 バイデン氏は、ペンシルベニア州の全米鉄鋼労働組合(USW)本部で演説し、中国から輸入する鉄鋼とアルミニウムの関税率を、現在の7・5%の3倍に引き上げることを検討するよう、米通商代表部(USTR)に求めた。

 

 中国の鉄鋼メーカーが、国から多額の補助金を得て、不当に安い価格で輸出しているというのが理由だ。ペンシルベニア州は大統領選の激戦州で、鉄鋼関連の労働者が多い。大統領選での労働者票の獲得を狙っているのだろう。

 

 米国には、相手国の不公正な貿易慣行の是正を目的に、一方的に関税を引き上げることができると定めた米通商法301条があり、これに基づき実施するという。

 

 トランプ前政権も、この法律を使い、家電や鉄鋼など中国の多くの製品に関税を上乗せして、米中の貿易摩擦を激化させた。

 

 トランプ氏は次の大統領選で当選した場合、中国からの輸入品に60%の関税を課すことを検討しているとされる。中国製に限らず、全ての輸入品に原則10%の関税をかける意向も伝えられている。

 

 貿易紛争は、世界貿易機関(WTO)のルールに基づき解決すべきものだ。各国が一方的な関税引き上げに走れば、貿易は滞り、世界経済に打撃を与えかねない。

 

 米鉄鋼業界では、日本製鉄によるUSスチールの買収計画についても論議が起きている。

 

 バイデン氏は「完全に米国の企業であり続けるべきだ」と買収に慎重な考えを示す。トランプ氏は「私なら即座に阻止する」と、強い反対姿勢をアピールする。

 

 USスチールは、かつて世界最大の鉄鋼メーカーだったが、競争力が低下し、22年の粗鋼生産量で27位にまで順位を下げている。

 

 日本製鉄の先端技術を使い生産体制を強化すれば、USスチール側にも利点が大きいはずだ。政治問題化させず、経済合理性の観点から判断することが望まれる。

 

 一方、中国側も不公正な貿易慣行を是正すべきである。国の補助金を使って鉄鋼製品を過剰生産し、安価な製品の輸出拡大を図るようでは困る。電気自動車(EV)でも、欧州などで安い中国製品への警戒感が強まっている。

 

 中国には、輸出依存から内需主導の経済に転換し、貿易摩擦を抑制する姿勢が求められよう。