円安の深刻化 春闘の成果が台無しだ | 元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

「経済崩落7つのリスク」、
「マネー資本主義を制御せよ!」、
「緩和バブルがヤバい」、
「日本復活のシナリオ」等の著者による世界経済と国際金融市場のReviewとOutlook

「国家の盛衰を決めるのは、政治経済体制が収奪的か包括的かの差にある」(アシモグルら)

掲題の昨日の東京新聞社説。

一理あるが、問題なしとしない。

 

単独の通貨介入は一時的な効果しかもたない。

また、短期的であれ大幅円高をもたらして、

日本株高と景気後退懸念を惹起しかねまい。

 

いずれにしても、約3%のインフレ下で、

実質ベースでは短期・長期金利全てが

マイナス圏に大きく沈み込ませて、

日本からの資本流出を招いている

金融政策に問題の本質があるためだ。

 

政策金利は少なくとも2~3%のインフレを超える

実質プラス圏に粛々と正常化する以外にない。

 

したがって、大幅利上げに伴う円高や

景気後退リスクを回避するためにも、

恒久的な消費税率の5%への引き下げが不可欠となる。

 

このような金融と財政政策のポリシーミックスなしに、

単独為替介入しても、一時的な効果しかなく、

かえってその失望から、

その後の円高圧力が増幅されるリスクさえあろう。

 

米国経済は日本経済の今や7倍にも達している。

 

世界経済や国際金融市場の大きな流れに

逆行しようとするかのような政府・日銀の

マクロ経済政策を変えずして、

そもそも変動為替相場制に基づく

G7の一員である我が国が通貨介入を望む

自己矛盾にこそ同社説は気づくべきである。

 

 

 外国為替市場で円安に歯止めがかからず、家計は物価高騰により深刻な打撃を被っている。今春闘では大企業を中心に大幅な賃上げを実現したが、政府・日銀が円安をこのまま放置すれば、春闘の成果が消滅しかねない状況だ。

 

 円の対ドル相場下落が続く要因は、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ観測が後退したことだ。FRBは高金利による景気後退への懸念から利下げを模索してきたが、インフレが想定以上に続き、金融緩和に転じる時期を先送りせざるを得なかった。

 

 ドル建ての高金利が続けば、日米の金利差からドル買い円売りが加速するのは当然だ。問題は政府・日銀がこの事態に十分対応し切れていないことにある。

 

 鈴木俊一財務相は円安には「必要に応じて万全の対応をとる」などと市場の動きを繰り返しけん制しているが、口先のけん制だけでは市場の反応は薄く、円安基調を変えるには至っていない。

 

 日銀の植田和男総裁は10日、衆院財務金融委員会で「為替が動いたから金融政策の変更を考えようということではない」との立場を示し、17日に米ワシントンで開かれた日米韓財務相会合も「外国為替市場の動向に関して引き続き緊密に協議」などを確認するにとどまった。

 

 厚生労働省が公表した2月の毎月勤労統計調査では、実質賃金は23カ月連続でマイナスとなった。現金給与総額が増えても、物価高が給与上昇分を帳消しにする構図が常態化している。

 

 こうした状況で円安が加速すれば、大企業から中小企業に向かうはずだった賃上げの流れは、完全に断ち切られることになる。

 

 中小企業を束ねる日本商工会議所の小林健会頭が17日の会見で、「円安は非常に困る。中東の紛争もあり油の価格も上がる。適切な措置をお願いしたい」と政府・日銀に求めたのも当然だ。

 

 政府・日銀は円買い介入に踏み切り、物価高騰を食い止める断固たる姿勢を打ち出すべきだ。今月下旬の日銀金融政策決定会合でも再利上げを念頭に、暮らしに寄り添う議論と決断を期待したい。