緩んだ財政の正常化へ中長期の戦略示せ | 元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

「経済崩落7つのリスク」、
「マネー資本主義を制御せよ!」、
「緩和バブルがヤバい」、
「日本復活のシナリオ」等の著者による世界経済と国際金融市場のReviewとOutlook

「国家の盛衰を決めるのは、政治経済体制が収奪的か包括的かの差にある」(アシモグルら)

掲題の今朝の日経社説。

 

この手の財政正常化の議論は流石に食傷気味。

 

いまだに金融正常化さえままならないのに、

マイナス金利解除した途端に、

財政正常化を急ぐ必然性は少しも認められない。

 

もっとも、長期では財政健全化が重要である

ことを決して否定しないものの…。

 

いずれにしても、現状は、個人消費の慢性的な不振、

悪化するばかりの少子化に加えて、

今や3~4%の物価上昇で

高インフレ税という重しが家計にのしかかる。

 

このような家計にとっての3重苦の中にあっては、

①消費税撤廃に向けた5%への消費税率の恒久的な引き下げ、

②金利の正常化。

③利権を招く産業政策の撤廃という

新しい三本の矢なかりせば、

日本経済は現下の戦後最大の政治経済の危機を回避できない。

 

予想通り、平成バブルを軽々と超えてきている令和バブルではあるが、

いまだに金融政策も財政政策もともに正常化が出来ていない

際限のない総需要刺激策を過去11年間も続けてきた末の

仇花であることに疑問の余地はあるまい。

 

このままでは失われた30年間は

失われる60年間になりかねない。

 

リアリズムのない同社説は厳しい批判を免れまい。

 

 

 

 

日銀がマイナス金利など異例の金融緩和策を解除した。金利負担の軽さのもとで緩んだ財政の規律も正常な姿に戻していかねばならない。政府や与野党は借金頼みの給付策や短期的な景気刺激策を是正し、中長期の財政健全化への戦略を国民に示すべきだ。

 

一般会計の総額が112兆円台にのぼる2024年度予算案が近く成立する。35兆円を超す国債発行で財源を賄い、財政の悪化は続く。日本経済の需要不足がほぼ解消し、金利も復活するなかで、財政運営も平時の状態に復帰させる道筋を描く必要がある。

 

財務省は名目3%の経済成長と2%の消費者物価上昇が続けば27年度に想定する長期金利が24年度の1.9%から2.4%に上がり、国債の利払い費は1.6倍の約15兆円に膨らむと試算する。税収も拡大するが、政策実行に使う予算の余地を狭める恐れがある。

 

25年度に基礎的財政収支(プライマリーバランス)を黒字にする財政健全化の目標達成は微妙だ。新型コロナウイルス禍を脱した23年度も政府は大型補正予算を組み、6月に所得税減税も実施する。脱炭素に反するガソリン補助金も含め、痛み止めを修正すべきだ。

 

増加が見込まれる主要な政策経費の財源手当ても不十分だ。岸田文雄政権が防衛費の財源とした増税の実行は先送りが続く。少子化対策を賄う支援金の導入で「国民に実質的な負担が生じない」との説明も、民間部門の賃上げ分を前提にするなど説得力を欠く。

 

岸田首相は「経済を立て直し、財政健全化に取り組む」と表明している。順番に間違いはないが、負担増に対する不人気を恐れて逃げ腰の姿勢を続けるのは無責任である。長い目でみた財政や社会保障の持続性をどう確保するか、議論は早い段階で始めるべきだ。

 

政府の経済財政諮問会議は中長期にわたる財政運営の議論に着手した。25年度以降の財政健全化の新たな目標作りも必須となる。目先の数字合わせでなく、数十年先の財政赤字や政府債務、税と社会保障の負担について具体像を示し、議論を喚起する時だ。

 

民間有識者などで構成する令和国民会議(令和臨調)は国家の財政運営を監視する独立機関「長期財政推計委員会」(仮称)の設置を提言した。検討に値する。減税や給付拡大など目先の人気取りでなく、将来世代の安心につながる戦略を与野党ともに探るべきだ。