株価のバブル期超え 生活向上につなげてこそ | 元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

「経済崩落7つのリスク」、
「マネー資本主義を制御せよ!」、
「緩和バブルがヤバい」、
「日本復活のシナリオ」等の著者による世界経済と国際金融市場のReviewとOutlook

「国家の盛衰を決めるのは、政治経済体制が収奪的か包括的かの差にある」(アシモグルら)

 

掲題の今朝の毎日社説。

比較的説得的だが、問題なしとしない。

 

日本経済はインフレと景気後退という

二重苦のスタグフレーションに陥っていることを

同社説は必ずしも明確にしていない。

 

また、消費と投資の持続的成長のための

双発エンジンが3四半期(9か月間)連続で縮小するという

消費と投資の悪循環に陥ってきている

事実認識も不十分と言わざるを得ない。

 

インフレの中で、日本の短期金利も長期金利も

実質ベースでマイナス圏に深く沈み込んだままだ。

 

日銀はコアCPIが22年と23年の過去2年間も

2%の物価安定目標を大きく上回ってきている

にもかかわらずマイナス政策金利を未だに解除していない。

 

また、マイナス政策金利解除後の

その後の例えば3年間を視野に入れた

来における政策金利の道筋も、

家計や企業等の民間経済主体のみならず、

金融市場とも広く透明性をもって、

共有してきていない。

 

将来のいかなる(プラスの)配当や利益の流列を

実質ベースでマイナスに大きく沈みこんだままの(長短)金利で

現在価値に割り引けば、理論的なフェアバリューは無限大となり

株価は空高く舞い上がっていくことは道理だ。

 

つまり、令和の現在の株価の平成バブル期超えもまた、

バブル再燃というデジャブ(既視感)と見ざるを得まい。

 

バブル崩壊を待つ後始末派に終始するのではなく、

バブルを制御する姿勢を日銀が示さなければ、

バブル増幅はますます制御不能となり、

早晩、日本経済とその市民生活は大きな打撃を受けかねない。

 

以上の意味で、同社説は、遺憾ながら、

バブルの歴史に学んでいないと言わざるを得ない。

 

なお、令和バブルは株バブルだけではない。

日本円はすでに名目ベースでも対ドル150円程度で

かなりの大幅円安を記録してきているものの、

実質実効為替レート・ベースで見ると、

変動為替相場制移行後の最安値水準にある。

 

つまりインフレ下で実質金利が

マイナス圏に大きく沈み込む中で、

一方で、日本円は実質実効ベースでの史上最安値、

他方で、日経平均株価は史上最高値を更新しつつある。

 

要するに、日本の物価、通貨、そして株価は、

いずれも令和のいま、制御不能となりつつある。

 

その危機感が同社説に希薄なのは、

遺憾と言わざるを得ない。

 

 

 

 日経平均株価が初めて3万9000円を超えた。バブル期の1989年12月に記録した史上最高値を約34年ぶりに上回った。

 

 当時は不動産の売買で膨らんだ巨額のマネーが株式市場に流れ込み、企業や富裕層による投機的な取引が過熱した。

 

 リーマン・ショックに伴う世界的な金融システム不安も重なり、2009年3月には株価が7000円割れ目前まで落ち込んだ。

 今回は様相が異なる。再浮上の原動力となったのは堅調な企業業績だ。円安の追い風もあり、上場企業の24年3月期決算は過去最高益を更新する見通しだ。

 

 日本経済の復活への期待から海外の投資資金の流入も加速している。不動産不況に苦しむ中国市場の低迷もあり、「日本買い」に拍車がかかっている。

 

 しかし、株式市場が最高値を更新したといっても、手放しで喜べる状況ではない。

 

 この30年で世界経済における日本の存在感は大きく低下している。昨年は名目国内総生産(GDP)でドイツに抜かれ、世界4位に転落した。

 

 米国の代表的な株価指数であるダウ工業株30種平均は89年から10倍以上に伸びている。

 

 バブル期には企業の時価総額ランキングで、日本勢がトップ5を独占していた。だが、現在はGAFAと呼ばれる米IT大手などに大きく水をあけられている。

 

 好調な株式市場と市民の生活実感との乖離(かいり)が広がっていることも気がかりだ。

 

 長期化する物価高が家計を圧迫し個人消費は伸び悩んでいる。23年10~12月期の実質GDPは2四半期連続でマイナス成長となり、景気の停滞感が強まっている。

 

 市民が恩恵を実感できないような株高では、持続性に大きな疑問符がつく。

 

 企業は利益をため込むのではなく、設備投資や従業員の賃上げを通じて株高のメリットを還元する姿勢を打ち出すべきだ。

 

 産業界や政府に求められるのは経済の底上げを図り、国民の生活向上につなげる努力だ。