IMD「世界競争力年鑑2020」からみる日本の競争力 第1回:日本の総合順位は30位から34位に | 元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

「経済崩落7つのリスク」、
「マネー資本主義を制御せよ!」、
「緩和バブルがヤバい」、
「日本復活のシナリオ」等の著者による世界経済と国際金融市場のReviewとOutlook

「国家の盛衰を決めるのは、政治経済体制が収奪的か包括的かの差にある」(アシモグルら)

掲題の三菱総合研究所による昨年10月8日付レポート記事。

 

筆者は最近、日本経済のサプライサイドの「老化現象」が気になっている。

 

そこでネット・サーチしていて見つけたもの。

 

約3か月前の報告書でもあり、遅きに失しているとは言えまい。

 

特に、最近のアベスガノミクスのコロナ対応と経済政策に関する「ヤバさ」加減を見るにつけ、日本の競争力は世界の34位に低下という記事にも、驚くどころか、さもありなんとさえ思えてくる。

 

我が国はやっぱり本当にヤバいかもしれない(苦笑!)。

 

いずれにしても、簡潔で良くまとまっているかにみえる。

 

ご参考まで。

 

 

IMD(国際経営開発研究所:International Institute for Management Development)が作成する「世界競争力年鑑(World Competitiveness Yearbook)」の2020年版が6月に公表された。今回の連載第1回では、同年鑑に基づき、各国の競争力の現状と推移、日本の競争力の現状を概観する※1

IMD「世界競争力年鑑」とは何か

IMD「世界競争力年鑑」は、国の競争力に関連する統計データと企業の経営層を対象とするアンケート調査結果を63カ国(地域)から収集し、作成される競争力指標である。ここで統計のほかにアンケート調査を取り入れるのは、競争力を測る上で不可欠なものの、統計では捉えきれない項目を補うためである。収集される指標は多岐にわたり、それらに基づき作成される競争力総合順位は、幅広い観点から企業が競争力を発揮できる土壌の整備度を測るものと見ることができる。IMD「世界競争力年鑑」では、すべての分野を合わせた競争力総合順位のほか、四つの大分類(「経済状況」「政府の効率性」「ビジネスの効率性」「インフラ」)ごとの順位、さらに各大分類に5個含まれる小分類(計20個)の順位として公表される(表1)。

表1 IMD「世界競争力年鑑」の四大分類項目と20小分類項目

表1 IMD「世界競争力年鑑」の四大分類項目と20小分類項目

出所:IMD「世界競争力年鑑2020」より三菱総合研究所作成

なお、競争力指標を作成するにあたり採用されるデータは、政府が公表している統計が中心(三菱総合研究所は日本の統計データ収集の支援を行っている)である。一方、アンケート調査は、対象各国の企業経営層が自国の競争力を評価している。ちなみに2020年版の回答者数は世界計で5,866人である。

2020年版では各国につき337個の指標(統計データ(163指標)およびアンケートデータ(92指標)、背景データ(82指標))※2が収集された。このうち、背景データを除く255指標それぞれにつき標準偏差に基づくスコアが計算され、それらを各分類(小分類、大分類、および総合(すべて合わせたもの))ごとに合算した結果により、それぞれの競争力順位が定まる※3

日本の競争力総合順位は下落し34位に

世界競争力年鑑における2020年の総合順位を見ると、1位はシンガポールであり、デンマーク、スイスがそれに次ぐ。日本の総合順位は63カ国・地域中34位で(表2)、アジア・太平洋地域でも14カ国・地域中10位にとどまる。

表2 IMD「世界競争力年鑑」2020年 総合順位

表2 IMD「世界競争力年鑑」2020年 総合順位

出所:IMD「世界競争力年鑑2020」より三菱総合研究所作成

下落傾向を強める日本の競争力総合順位

日本の総合順位の変遷を見ると、同年鑑の公表が開始された1989年からバブル期終焉(しゅうえん)後の1992年まで1位を維持し、1996年までは5位以内の高い順位を維持した。しかし、金融システム不安が表面化した1997年に17位に急落し、その後は一時的に上昇する年はあったものの、基本的には20位台の中盤前後で推移した。その後、2019年には30位となり、最新版の2020年では過去最低の34位まで落ち込んだ(図1)。

なお、競争力を規定する要素の変化に伴い、採用される指標は随時入れ替えられている。そのため、過去と現在の総合順位を単純に比較することは適切ではない。特に近年においては、「グローバル化」「ICT化」「人材」の3点が重視される傾向にある。

図1 IMD「世界競争力年鑑」日本の総合順位の推移

図1 IMD「世界競争力年鑑」日本の総合順位の推移

出所:IMD 「世界競争力年鑑」 各年版より三菱総合研究所作成

「ビジネス効率性」の大幅下落が日本の総合順位低下の主因

今回の日本の総合順位が下落した要因を探るため、四大分類による順位を見てみよう。それによると、「経済状況」は11位(昨年16位:以下同様)、「政府の効率性」は41位(38位)、「ビジネス効率性」は55位(46位)、「インフラ」は21位(15位)である(図2)。経済状況の順位はやや上昇したもの、「政府の効率性」「ビジネス効率性」「インフラ」の順位は下落した。特に「ビジネス効率性」は2015年以降、大幅な順位の下落が続いており、昨今の日本の総合順位が低下している主因となっている。

ここで「経済状況」は、生計費や賃貸料の高さから物価が競争力をそいでいるものの、雇用の安定や積極的な対外直接投資などもあり順位を上げた。「政府の効率性」は財政赤字に加え、租税政策やビジネス関連法制に関する経営層からの評価が低下した。「ビジネスの効率性」は中期的に強い下落傾向にあり、2020年は55位まで順位を落とした。特に企業の意思決定に関する経営プラクティスや、デジタル化対応度などからなる取り組み・価値観関連の指標に課題がある。「インフラ」項目は、研究開発により蓄積される科学インフラや健康・環境分野は強いものの、基礎インフラは低迷し、技術インフラは下落傾向にある(表3)※4

図2  四大分類による日本の競争力順位変遷

図2  四大分類による日本の競争力順位変遷

出所:IMD 「世界競争力年鑑」 各年版より三菱総合研究所作成

表3 IMD「世界競争力年鑑」における日本の大分類・小分類別競争力順位の推移

表3 IMD「世界競争力年鑑」における日本の大分類・小分類別競争力順位の推移

出所:IMD 「世界競争力年鑑」 各年版より三菱総合研究所作成

日本の経営層は税制、政府の競争力、開放性などを弱みと認識

競争力年鑑では、先に挙げた統計とアンケート結果から作成される競争力指標のほか、経営層を対象に自国の強みと認識する項目を選ぶアンケート調査も行っている(図3。具体的には下記の15個の選択肢から5つを選択。なお、この結果については競争力順位には反映されていない)。この結果を見ると、質の高いインフラや労働力(高い教育水準、熟練労働力、労使関係)が強みと認識されている一方、税制や政府の競争力、開放性・積極性の評価は低い。なお、強みと認識される項目は、昨年調査から大きな変化はないものの、「強い研究開発力」が約13%ポイントの低下となっている点が注目される。日本の研究開発支出や特許数など、研究開発に関わる統計指標は相対的に強い(連載第2回詳述予定)ものの、経営層アンケートに基づく本項目の指摘率が低下していることからは、研究開発により蓄積された知識資本を十分に活用しきれていないとの認識がうかがえる。

図3 経営層アンケートから見る日本の魅力を構成する要素

図3 経営層アンケートから見る日本の魅力を構成する要素

出所:IMD「世界競争力年鑑2020」より三菱総合研究所作成