そういう風な具合で楽しいことがいっぱいあった。でもオランダ後半戦、4年目ぐらいからは精神的に安定してない日が増えていた。理由があったのか、ただそういうタイミングがきちゃったのかわからない。子供にかかる時間が減ったこと、夫の遠い国から発言、親について考えてたこと、オランダの冬が暗くて長いこと、その辺のコンビネーションが関係していたのかも。一人になるといつも涙がでてきた。買い物中、運転中、掃除中、料理の途中、図書館や学校へ向かってチャリをこいでるときも。しくしくでるだけのの時は対処は簡単で、涙を拭いて鼻をかめばだいたいよかった。涙の勢いが増して息も変になってくるときは、いったんやってることをやめないといけない。おさまるまで座るとか。でも人がいるときは、それなりにファンクションできた。でも11月にジョンとThe Beautiful South のコンサートに行って帰ってきたあとは、もうこれどこまで行けばいいの?というくらい、無性に寂しくなった。多分ジョンと帰り道に、いくつか昔の話をしたせいだった。もう1時を回ってて、家族はみんなとっくに寝ていて、外で騒ぐ人も鳥も鴨も虫もいなくてとても静かな夜だった。

 



 私はそれまで、それ以前の若いころに自分のしたことや若い時の自分そのものが全部恥ずかしくて、できればなかったことにしたいと思っていた。人々の記憶を全部消して回れたらよかったけど、できないから、私の方でないふりをすることにしていた。昔の人とは誰ともコンタクトしない。私が話したり思い出したりしない限り、事実だったことは見えないところに詰め込まれたまま誰にも見られない。ひょっとして誰かが掘り返してみたりしてるかもしれないけど、私がそれを知りさえしなければ、起こってないことと同じ扱いができる。知らんぷり大作戦。あちこち引っ越して回ってるから、向こうからは見つけられにくいという特典もあった。でもその晩は、私にも過去がほしいと思った。母になってわりとまともになってからのではなく、もっと前の、みんなが持って大事にしてる、学生の時とか子供の時のメモリー。と、それを共有する人。ああいうのがほしい。



 最初はミッテンヴェストくん(中学の同級生。夢と傷のもと。彼については64をご参照)のことを考えた。SNSをやりそうな人じゃない。でもなんか走ったのとかの活躍で、どっかに彼に関する記事が出てるかもと検索してみた。出てこなかった。同姓同名の別人が2人でてきただけ。高校の1,2年を同じクラスで過ごした男の子の名前はすぐでてきた。私が世界史のテストで2点を取った時、彼は確か9点だった。要領の悪いところが似ていて、一緒に廊下に立たされたこともある。彼がFacebookをやってたので、私はずっと眠らせてたアカウントで彼に日々を報告する感じで記事をアップし始めた。メッセンジャーで個人的にチャットを続けるのは、親密っぽ過ぎて正しくない感じがしたから、お互いの記事で様子を知るのはちょうどよい距離感に思えた。

 

 

 

 彼と交信できるのは嬉しかった。でもFacebookに初めて登録をした10年ほど前からの知り合いとも、そこでだけ交流が再開したようになった。ん~~こういうの大丈夫かなぁと不安は感じつつも、私の暗黒まっくろけ時代からの知り合いではなかったので、まあ平気かと、"リスク"より、昔の友達が一人、今も変わらずぼさぼさの髪で一生懸命やっている様子を垣間見られて、私の方のことも新しくて害のない部分は知ってもらえるという、初体験の喜びを優先した。昔を知ってる友達というのは、ありえないようでありがたい感じがした。ありえないとありがたい、語源は一緒だな多分。別の言葉を使うなら、得体の知れない、少し不気味で、本当とは実感しにくい、大きな安心をもらってる感じがした。でも彼の「いいね!」の中には他の同級生が入ってたりするので、そこは要注意。私が私とばれてはいけない。それほどの準備はできてない。



 こうして考えると、私は孤独だったのかなぁと思う。家族がいて(新しい方。オリジナルの方はほとんど解散済み)、娘と息子とはとてもよい関係で、友達がいたし、いろんなことをして色々吸収できていたと思うけど、それでも足りなかったのかな。となると、私はかなり demanding, 要求し過ぎる傾向にあるのかなと思う。今あるものに満足しない。夫や母の悪意のない行為(好意もかな)にも、違う、そうじゃない、もっと違うのちょうだいよ、と。たくさん与えられても、はいダメ―、はいダメ―、とポイポイしちゃうみたいに。

 

 膨らんでくる謎の悲しみには、自転車と走ると森と、できるときは友達と、あとはアルコール消費などで対処していた。そのうちにコロナがきて、オランダの永住権獲得へ向けていくつかテストを受け、夫の異動が決まり、ドイツに越すことになった。オランダはこれで終わり。次はその前。

日本。