コケコワンとオクニユタカは、勤めている会社で知り合った。オクニユタカは東京の大学を病気で2留し、6年かけて卒業してからの就職。3つ年下のコケコワンは、高卒で近所の人のコネで入社していたから、会社ではオクニユタカより先輩だった。偉そうに指示してきたのよー、と、二人の結婚前の話を聞いたのはその一回とあと他に一回ぐらいだけど、その時にオクニユタカが言っていた。1970年ぐらいの話。日本は新幹線開通!とか東京オリンピック万歳とかやってた頃かな。ちがうな、もう少しあとか。大阪万博、戦後2度目のベビーブーム、セブンイレブン1号店のオープン、ハローキティ誕生、三島由紀夫の割腹自決、よど号ハイジャック事件などがあった年だそう。

 

 オクニユタカが先にアプローチしたらしい。母をいいと思った理由は、私に言ったところでは、自分の母親の、気難しく気の強いオハナとうまくやっていけそうだと思ったから。コケワンはあまりでしゃばりでなく、派手でなく、賢そうに見えたそうだ。弟が2人もいるというなら、きっと面倒見もいいんだろうと想像したらしい。コケワンの方は、同僚ガールズに、え~、テンプライ~~?(父の苗字。仮名。)と言われたと言っている。そのように言われたということは、お得株ではないんだろうという理解で、それほど乗り気でなかったが、オクニユタカは高学歴なので、コケワンの母親はもちろん大賛成。それにコケワンはすでに25歳で、その時代ではもう売れ残りグループの年に入りつつあり、早くどこかへ収まる必要があった。コケワンをこの会社に人に頼んでねじり入れたのも、オクニユタカとうまくやるよう後押ししたのも、私と時々顔の似ているこのクスクス家(コケワンの旧姓。仮名。)クイーンの祖母(祖母については、2.(過去)北海道へ をご参照。)だったが、彼女とオクニユタカは、とても仲が悪かった。オクニユタカが彼女を嫌っていた理由の1つは、祖母が若い二人の引っ越しの手伝いに来ていて、そろそろ休憩しましょうか、という話になったときに、大勢いる人たちの中で真っ先に『私、紅茶がいいわ。』と言ったこと。クスクスクイーンがオクニユタカを嫌いだったのは、『あかぬけてないのよね、やること全部。ハンサムでもないしさあ。』ということだった。ちゃきちゃきの東京下町大工の娘に、ミソカツ文化が背景のオクニユタカは、全然素敵じゃなかった。

 

 オクニユタカは結婚してから、いくつかコケワンについて信じられな~いというレベルで落胆させられたそうだ。料理が下手、段取りが悪い、気が利かない、意外で一番がっくりきたのが、わがままだったこと。嫌味を言うとき、しょうがないね、あんたは段ボール箱入り娘さんだからねー、とクスクス家が金持ちでなかったことを含んで言う。肝心の母親のオハナとうまくやる件については、名古屋と北海道で離れて暮らしていたので、コケワンの実力が試されるのはまだずっと先だった。でもオクニユタカの兄嫁と弟嫁の強烈な個性と、それぞれがオハナとすごいバトルをしてたのを思うと、その点ではコケワンは結構いい点をもらえるはずだ。でも採点担当はオクニユタカなので、コケワンには、褒められたり高評価をもらえるチャンスはもちろんない。

 

 

 コケワンの方は、美容院に行くお金もくれなかった、というのが恨み項目トップにくる。オクニユタカは、家計はコケワンにまかせられないと自分で管理していて、コケワンの方が生活費として毎月いくらかもらうシステムだったらしい。美容院とか服や化粧品を買うとかそういうのは、「上手にやりくりすればでてくるでしょう、やればいいじゃない、十分あげてますよ。」というのが父の言い分。そんな高度なことコケワンにはむずかしいと、多分わかってて知らないふりをした。脳みそ戦では絶対にコケワンに勝ち目はないのに、いやらしい。コケワンに、言い返してプレゼンして、証拠提出して、オクニユタカの考えを変えられる術などなかったと、誰でもわかる。私たちが3兄妹がよく食べたから、食費が父が思うよりかかっていたのかも。あと父にはなんでそんなこと、ということだけど、母は自分ちの子供がみすぼらしい恰好をしているのに耐えられなかったので、母基準で子供服を選ぶと、オクニユタカが思うよりずっと高くついたのかも。あ、でもそれは違うかな。私たちのワードローブは、近所から回ってくるおさがりが中心だったし、コーディネイトも???だった。わからない。昭和の話だし。でもオクニユタカのキチキチ作戦のおかげで、私たち3人が大きくなって、いくらお金をかけても、オクユタ銀行から返金不要の融資がでてきた。兄たち2人は、いまだに利用してる。アラフィフですけど。そろそろ尽きる。

 

 それにしても私は牛乳を飲みすぎたし、兄たちも私もご飯をよく食べた。そのせいでコケワンが美容院に行けなかったのなら、悪かったなぁと思う。美容院が子育て中のお母さんに与える喜びは、オクニユタカには一生わからないだろう。自分以外の視点で、ものを見てみようという気がない。彼の一生あと数年で終わるだろうから、その前に連れて行ってみる? ダメだな。はい、終わりました~ おいくらですー。となった時には多分こう言う。「へ!あれでこんなにとるの、本気で言ってるの?!いい商売だね~。ほとんど詐欺だね!」 へらへら笑って冗談ぽくお店の人には言って、私に変わってお金を払おうとすると思うけど、帰り道では本気で不機嫌になりそう。損した、と。でもオクニユタカの名誉のために、これを付け足さないといけない。今は、コケワンを自由に美容院にいかせてるし、コケワンのために週1回マッサージを呼んでる。コケワンは好きなものを好きなだけ買っていい。近年は痴呆がきて、そっちの意味で管理しなくちゃいけなくなってきてるけど。

 

 2人はそんな風。理想を描きすぎて実物をよく知らなかったために、オクニユタカはがっかりしたし、大事にされることに慣れていたコケワンは、びっくりするほどオクニユタカに雑に扱われた。(オクニユタカの雑具合については、30.(過去)テンプライ一家 もご参照。)かせまグループにいれてダメな者扱いする代わりに、大事な大事な宝物みたいに扱われてたら、もう少し余裕がでて私のことも少しは好きになってくれていたかも。