右から、宍戸大裕監督と

主演の佐藤裕美さん、

岡部宏生さん。


ALS患者さんを取材して作成された
ドキュメンタリー映画
「杳かなる(はるかなる)」の上映会が
 
昨日6月10日、
としま区民センターにて
開催されました。
 
 
主演されたのは
佐藤裕美さん、岡部宏生さん。
 
その他にも、
ALSなど進行性神経難病の方々が
出演されている映画です。



ALS患者さんのドキュメンタリー映画
という前情報から 
なんとなく想像していたイメージは、 

 見事に、いい意味で 
裏切られることとなりました。 


障がい者のドキュメンタリーというと

たいへんな状況だけれど、 
大きな目標に向かって 
ひたむきに努力している

というポジティブな面のみを
強調されがちです。   


しかしこの作品は、 
ALSという、
体の自由をじわじわと
奪われていく病におかされ  

生きることと死ぬことに 
否応なく向き合わされ、

悩み、迷い、大きく揺れ動く 
人間の姿を、  
ありのままに映し出していました。   



人が生きるということは 
こんなにも残酷で、 

もう死んでしまいたいと 
心の底から願う瞬間もある。   


でもそれでも、
泣いたり笑ったり 
喜んだり悲しんだりしながら、  

小さな小さな喜びや希望のカケラを 
拾い集めて 
それを頼りに生き続けていく。   


その姿は泥臭くもあり、 
でもとても美しいものなのだとも、 
この作品は教えてくれました。   



 そして、 
出演された佐藤裕美さんが 
舞台挨拶でおっしゃっていた、   

【一緒に生きていきましょう】  

というメッセージが、 
画面全体からあふれている作品でした。



映画のなかには 
すでに逝ってしまった
難病患者さんのお姿も映し出され、 
胸がいっぱいになる場面も。    



生前、私もかわいがってもらっていた
橋本みさおさんというALS患者さんの
口文字での話し方、 

あのとても短い言葉で 
伝えてくる感じが懐かしくて、  


そしてみさおさんの言葉が 
もう聞けないのだと 
あらためて思い知らされ、 

涙があふれました。   



作品内に散りばめられた、 
人工呼吸器が酸素を送り出す 
規則的な音。  

あの音は、私にとっては 
とても安心する音です。   


父が人工呼吸器をつけて 
自宅に戻ってからの4年半の間、 

24時間ずっと聞こえていた 
規則正しいあの音。  


あの音が、 
父が生きている証でもありました。   



父が亡くなったときの、 

もう亡くなっているのに 
人工呼吸器が送り出す酸素によって 
胸がまだ上下に動いていて、  

本当に亡くなってるのかな、 
本当はまだ生きてるんじゃないか、 
と思った不思議な感覚。   


死亡確認に駆けつけた主治医が 
「それでは呼吸器を止めます」 
と言って電源が切られたときの、 
音がパタッと消える瞬間。   

人工呼吸器の音のない家の中は 
あまりにも静かで、  
父が亡くなったことが現実なのだと 
思い知らされたのでした。   


しばらくの間は、 
その音のない静けさが 
不安でさみしすぎて、  

寝るときも 
テレビをつけっぱなしにしないと 
眠れない日々が続きました。   


そんな私にとって、 
あの人工呼吸器の規則的な音は、 
命の音、命を紡いでいる音です。  


その音が、映画の随所に 
散りばめられていることが、 
私はとてもうれしく感じました。   



日々、 
ALS患者さんに接するなかで、   


「ALS患者ではないあなたには 
私の気持ちはわからない」  

「どうして自分が 
こんな病気になってしまったんだ」  

「どんどん体が動かなくなっていく 
恐怖に耐えられない」  

「もう死にたい。死なせてほしい」  


そんな言葉を 
突きつけられることもあります。    


そんなとき、 
未熟者の私は返す言葉に詰まり、  

ただそばで立ち尽くし、 
ときには一緒に泣くことしか 
できません。   



でも、それでも私は、
 ALSに罹患した方々のそばにいたい。  

関わりたい。 
関わらせてほしいのです。   



岡部宏生さんが
舞台挨拶でおっしゃっていた
「being」の支援。  

「doing」という
なにか働きかける支援ではなく、 
ただそばにいて寄り添うという支援。  


私はそんな支援をしていきたいのだと 
この映画を観てあらためて感じました。



生きていくということは、 

つらいことや苦しいことという 
重い荷物を背負って 
山を登るようなものだと思います。 


 もう疲れた、もうやめたい、 
そう思うときもあるでしょう。 

 人の気持は常に揺れ動くものです。  



 でも、 
登っている途中でふと目にする 
小さな花の美しさに感動したり、  

山道をともに歩く人とのふれあいに 
喜びを感じたり。  


そんな小さな感動や喜びを糧として、 

疲れたなぁ、
つらいなぁと呟きながら、  
それでも一緒に登り続けたいのです。   



一緒に、生きていきましょう。   



とてもあたたかい眼差しで 
この作品を作り上げてくださった
宍戸監督、 

撮影に関わってくださった皆さま、

 ご出演くださった皆さま、 


 素晴らしい映画を
ありがとうございました。 



 ぜひ、この映画を
全国各地で上映してほしい。

たくさんの方々に
観ていただきたい映画です。