「おいしい」は、伝えてこそ届く。——マーケティング顧問としての今につながる原点。
12年間、私はずっと商品開発の仕事をしてきました。
企画から試作、パッケージの開発、工場での技術指導や衛生管理まで。
いわば「内側」の仕事に没頭してきた日々です。
「おいしいものは、ちゃんと作れば売れる」
そう信じて疑わなかったし、当時は実際にそういう時代だったと思います。
職人の世界では、「努力は見せるものじゃない」と教わりました。
だからこそ、おいしさの秘密はむしろ“隠せ”と。
語るより、食べれば分かる。それが美学だったんです。
そんな私がある日、必要に迫られてデパートの商談に同行することになりました。
商談の場で、バイヤーさんから聞かれたんです。
「この商品の特徴は? どこにこだわっていますか?」と。
私はチョコレートの産地やカカオのパーセンテージ、製法のスペックなど、
“開発者らしい”ことは語れても、それだけでした。
その場に同席していた営業の方は、お菓子を作ったことがないにも関わらず、
商品の魅力や背景を、言葉にのせてまっすぐ届けていたのです。
「手間ひまかけて丁寧に作っています」
「素材にこだわっています」
…私にとっては“当たり前すぎてわざわざ言うことじゃない”こと。
でも、その言葉にバイヤーさんは耳を傾け、共感していました。
なぜ私の言葉は届かないんだろう。
なぜこんなにも「伝える言葉」が出てこないんだろう。
とても悲しかったのを、今でも覚えています。
それが、今の私が“言葉で伝えること”の大切さに目を向けるようになった原点です。
今では「おいしい」を作るだけでなく、
その先の“想いを届ける”というマーケティングの仕事にも携わらせていただいています。
こちらの写真は、阪急うめだ本店のバレンタイン催事場で
私が開発した「チョコレートと紅茶のペアリングタブレット」について、
お客様の前で直接お話をさせていただいたときのものです。
ステージに立つのはとても緊張しましたが、
自分の言葉で商品の背景やこだわりを伝えたことで、
目の前のお客様が興味を持ち、実際に手に取ってくださった——
その感動は、今でも忘れられません。
「伝えることで、届く」
「言葉にすることで、動く」
それを体験として実感できた、大切な1日でした。
これからも「おいしい」の向こう側にあるものを、丁寧に伝えていける人でありたいと思っています