ゴシック写本の小宇宙 | けろみんのブログ

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国立西洋美術館

上野駅(JR、東京メトロ日比谷線、銀座線、京成線)

常設展示内なので、常設展料金で入れます。

新館2階、版画素描展示室。撮影可能。

2019.10.19~2020.1.26


この展示を見た方々の写真を見て行きたくなりました。

調子に乗って写真を撮りまくり、何をここに載せて紹介しようか迷いすぎて困ります。全てが
題名のとおりの小宇宙でした。

美しい文字(カリグラフィー)と、中世特有の硬直感のある人物と、それを埋める線や模様がキラキラしていて、とても綺麗で魅了されました。

色々と勉強したいのでキャプションをそのまま貼り付け、編集しながら勉強することとします💧





「本作は、セント·オールバンズ修道院の紋章があしらわれた16世紀の革表紙にちなみ『セント・オールバンズ聖書』と通称された聖書本に由来する。棒状装飾をともなう2行高の金地装飾イニシャル、棒状装飾の先端など余白に描かれたドロルリーや鳥類の様式から、14世紀前半のパリで制作されたと推定される。とくに、大型のイニシアルに描かれた拝跪するダヴィデ王の像から、14世紀前半のパリを代表する画家ジャンピュセルの周辺で活動した、通称「聖王ルイ伝の画家」(1320年頃-1350年頃活動)が彩飾に加わったことがあきらかである。」


写本の作り方と金の扱い方


・羊皮紙という、羊や山羊の革を石灰の粉で油分を取る

・トレーシングペーパーでトレースする

・くるみインクを使って下絵を描く。

・羽根ペン(今は金属のカリグラフィー用のペン)で文字を書く

・色線を描く時は不透明水彩で描く。色数が少ないので中間色は細い線を交互に引いて表す。

・絵の部分には白絵の具でグラデーションをつけ、ハイライトを入れハッキリさせる。

・更に輪郭をはっきりと細めに描く。


ギルディング(金箔を貼る)

・ジェッソを作る。石膏、卵白、砂糖、魚膠、褐色の顔料

・ジェッソを塗り、表面を瑪瑙棒で磨く。

・熱い息を吹きかけ、金箔を載せる

・圧着させ瑪瑙棒で磨く。


シェルゴールド(金泥)

アラビックガムとシェルゴールドという金粉を混ぜたもので塗ったり描いたりする。控えめな輝きで、細かな表現が出来る。




ラテン語詩篇集零集

詩篇69

(イニシャルS/水中から天の

神に祈るダヴィデ王)


ロレーヌあるいはシャンパーニュ地方

1310-1320年代

インク、金、彩色/獣皮紙

長沼昭夫氏、西洋美術振興財団より寄贈

詩篇69章一節

「神よ、わたしをお救いください。大水が流れ来て、わたしの首にまで達しました。」



ダビデ王の晩年を語ったもの。途中の楽譜は「ダビデの調べゆりの花」かと思われます。調べる前は「これが洗礼かぁー」と勝手に解釈しておりました。



ラテン語聖書琴葉:ユディト記序文および(イニシアルA)、本文第1章(イニシャルA/指議
す男性の胸像)アヴィニョン1320頃




ポワティエのペトルス著『キリスト系図史要覧』(ラテン語) イングランド1270~1280

「本作は、西欧における神学研究の重要拠点であったパリ大学で教鞭を執ったポワティエのペトルス (1130-1215年頃)が12世紀後半に著した『キリスト系図史要覧』の断片である。人類の始祖アダムとエヴァからイエス・キリストにいたる聖書の物語を、主要な登場人物の挿絵や名前を囲む円を繋いだ系図を軸に、人物の事績を要約するテキストと叙述の理解を助ける概念図(ダイヤグラム)を織り交ぜ、縦方向の巻物形式にレイアウトした著作である。


長大な聖書の叙述を系図に沿ってヴィジュアルに展開する『キリスト系図史要覧』は、13世紀前半以降、フランスやイングランドの大学教育の現場で人気を博した。現存作品の多くは、インクによる線描に2、3色の淡彩を加えた簡素な挿絵や図表を中心とするが、本作は人物を囲むメダイヨンやテキストの節目を区切る装飾イニシアルに金とをもちいた、豪華な作例である。」


詩篇集葉: キリストの鞭打ち・十字架を担うキリスト

パリ  1260~1270インク、金、彩色/獣皮紙

「全ページ大の挿絵のみが描かれる本作は、本来は詩篇集の扉絵の一部をなしていたものである。幾何学紋様入りの背中に上下ふたつの円形枠を配し、それらを3つ葉型の枠が隔てるという特徴的なレイアウトは、パリで1220~70年に制作された4点の『ビーブル·モラリゼ(高意註解聖書)』からの借用とされる。

ふたつの円形の枠にはキリストの受難伝より、《鞭打ち》と《十字架を担うキリスト》の場面が描かれる。後者では、キリストが3人の聖女一 そのうちの一人はおそらく聖母に手助けされながら十字架を運ぶが、画面右側に立つ男はハンマーを持っており、磔刑が差し迫っていることを示している。

*『ビーブル・モラリゼ (寓意註解聖書 Bible moralisée)』

とは、13世紀のフランスで制作された道徳的解釈による図解聖書。全ページ挿絵入りの豪華写本である。」



・主たるコレクターの内藤さんについて

・彩色写本の用語

・聖書の種類について


内藤コレクション」について



戦後、いまだ数年しか経っていなかったころ、 美術雑誌に掲載されたジョルジュ·ルオーのある絵が、高校3年生だったひとりの少年の心に芸術への情熱の火を灯しました。

それ以来、 一日中、絵のことばかり考える日々を送ったその少年は、やがて医師となり、今や世界における美術の中心になっているという理由で、 1963年にニューヨークの病院を留学先に選んだといいますーただし医者となるにおよんで、いつまでも絵にばかりうつつを抜かしている訳にはゆかなくなるという覚悟とともに。


しかしながら、日本の中毒学研究の第一人者となってゆくその医師が、忙しい仕事や研究のかたわらで、芸術にたいする情熱を失うことはありませんでた。 彼はいつしか、導かれたようにして中世写本のコレクターとなります。 そう、 「内藤コレクション」の生みの親、内藤裕史氏のことです。


いまからおよそ30年まえ、内藤氏はパリで美術館めぐりをしていたとき、セーヌ河の両岸につづく屋台の古本屋一いわゆるブキニストーで、1枚ずつバラされた中世ゴシック期の彩飾写本の零葉をはじめて手にとり、思わず食い入るように眺めたと述懐しています。もともと書物の1ページだった獣皮紙に、 文字と共生しながら描かれた小さな絵たちの世界 。その小宇宙に内

藤氏はたちまち魅了され、 数枚の写本零業を買いもとめました。「無名の画家の無名の作品が、絵の魅力だけで、人を惹きつけ、買う人を待っていた」一内藤氏はそう語っていますが、 まさに氏の写本蒐集は、 数百年の時を超えて遠き中世の絵たちに、 自分自身が「待たれていた」という感覚から始まったのでしょう。


コレクターにとっては、一つひとつの事物が本来の有用性からは解放され、それが生まれた時代、地域、 産業、かつての所有者にかかわる知識などを集成した「百科全書」になっている、と書いたのは思想家のヴァルター·ベンヤミンです。


内藤氏もまた、小さな写本零業の1枚1枚を、そのなかに過去のさまざまな知や想像力技術や記憶が圧縮されて閉じ込められた事物として見つめ、それらを集めてきたはずです。


氏は基本的に、完本の写本ではなく、異なる書物から1枚ごとに切り離された、いわゆる零葉を蒐集することにこだわってきました。


写本のページは、その断片化をつうじて「書物から美術品に変身」 すると考えてきたからです。


そんな内藤コレクションは2016年まで、 コレクター自身とその家族だけが自宅のなかでゆっくりと味わいつくすことのできる私的なものでした。ところが、 2015年のある日、内藤氏はまったく唐突に、ご自身の写本コレクションを一括して国立西洋美術館に寄贈することを思いたたれました。それはかつて、アメリカで暮らした時期に、「自らの人生をかける コレクション

が、自分を生み育てた社会にとって100年後にどんな意味をもつべきか」ということを考えながら、 その異国の美術コレクターたちがたくさんの芸術作品を美術館に寄する姿を眼にしていたからだろうと内藤氏は述べています。


こうして、30年まえにパリで内藤氏の訪れを「待っていた」中世写本の絵たちは、これからは東京の国立西洋美術館で、 みなさんや未来の誰かとの出会いを待ち続けていくことになります。



彩飾 写本の用語 





西洋中世において写本は、実用的な役割だけでなく十字架のように象徴的意味をもっており、
それを体現したのが彩飾であった。彩飾写本は“Illuminated manuscript"と呼ばれるが、
“illuminate"とは「輝かせる」という意味であり、たんなる彩色とは異なる。彩飾写本にみられるさまざまな装飾要素は、写本芸術固有の表現領域といえるだろう。



1.イニシアル (Initial)






イニシアルとは通常、文章の冒頭の単語を際立たせるための頭文字を意味するが、写本芸術に
おいては一般に装飾頭文字を指す。イニシアルは古代末期の4世紀に登場したものの、装飾さ
れることはなく、初期中世のブリテン諸島の写本においてはじめて、文字の装飾と絵画化がは
じめられた。



*物語イニシアル (Historiated initial) 文字の枠内に物語場面などを描き込んだイニシアル。



・シャンビ・イニシアル(Champie Initial)文字本体は金色で、文字が収められた枠内の地の部分を彩色面で構成した装飾イニシャル。


・線条装飾イニシアル (Penwork initial / Penflourished initial / Penwork letter)



文字本体の周囲に文字とは異なる色のインクによるペン線描の装飾をともなうイニシアル。ペ
ンワーク・イニシアル、ペーンワーク・レターとも呼ばれる。



2. 枠装飾(Bar border/Decorated bar frame


テクスト面や挿絵を取り囲む部分、あるいはテクストのカラムの間の余白に描かれた装飾。植
物モティーフを主体とするもの、建築を模したもの、副次的な場面を組み込んだものなど、さ
まざまなタイプがある。





3.行末装飾(Line filler / Line ending)

テクストの行末に残された余白を埋めるために加えられた装飾。幾何学紋様や植物紋様、動物
紋様など創意に富む装飾がみられる。





4.ドロルリー (Drollery)

写本ページ面の余白や枠装飾のなかに描かれた滑稽味のある人物や動物の像。しばしば人間と
動物や鳥の身体パーツを合成したグロテスクなモティーフを含む。13世紀後半から14世紀に
かけて盛んに描かれた。




5.バ・ド・パージュ (Bas de page)

写本ページの最下部の余白に描かれた挿絵。ゴシックの彩飾写本を特徴づける要素で、横長の
スペースには本文テクストに関連する主題や、本文とは無関係なドロルリーなどが描かれた。





6.ミニアチュール (Miniature)

イニシアルや枠装飾など、ほかの装飾要素のなかに組み込まれた挿絵とは異なり、写本ページ
上で独立したスペースを割りあてられた挿絵。





祈りのための書物



中世写本の主題について



西洋中世の写本の発展はキリスト教と深く結びついている。中世の人々が大変な情熱と労力を注いで制作した写本は、 そのほとんどが聖書や祈講書など、キリスト教のテクストを記したものだった。初期中世においては、聖書写本の制作は政な祈りの行為でもあり、おもに修道院の写本制作室(スクリプトリウムScriptrium)でつくられたが、13世紀以降になると都市における大学の設立や、教育水準の向上により書物の需要は高まり、世俗の出版業者が現れ、職業的写字生による小型の書が大量にうみだされた。




1. 聖書(Bible)

キリスト教の聖典で、天地創造にはじまり紀元前までの時代を扱う「旧約聖書」と、キリストと弟子たちの活動した時代を扱う「新約聖書」から構成される。典礼などで使用される聖書写本は、大型で金などをふんだんにもちいた豪華な装飾が施された。


2.詩篇集 (Psalter)

旧約聖書に収録される詩篇150篇を核に、日々の定められた刻限(日課Office, Hours) に朗読する聖典や祈祷文などをあわせて収めた祈講書の一種。13-14世紀にかけて、特にイングランドでは、世俗の信者が日々おこなう祈祷・礼拝用のテクストとして人気を博し、華やかな挿絵装飾をともなう写本が制作された。


3.司教用定式書

司教や教皇のみが執り行う権限をもつ儀式で朗読される聖典や祈稿文と式次第を記した典礼書。



4. ミサ典書(Missal)

聖職者が聖堂で執り行うミサで用いる典礼書の一種。儀式をつうじて朗読される聖書本文などの抜粋や祈請文、唱和される聖歌などから構成される。



5. 聖務日課書(Breviary)

聖職者や修道僧が日々の定められた刻限(日課Office, Hours) に朗読する聖典や祈稿文を収録した書物。キリストの事跡や聖人の命日等を年間のカレンダーに定める典礼暦に従い、構成される。



6.時祷書(Book of Hours)

世俗の信者が日々の定められた刻限 (日課Office, Hours) に朗読する聖典や祈祷文を収録した書物で、聖務日課書を簡略化したもの。14-15世紀にかけて、豪華な挿絵彩飾を施した写本が多数制作された。


7. 黙示録(ヨハネの黙示録) (Apocalypse)

新約聖書の末尾に収録されたテクスト。この世の終末を預言的に叙述する。中世をつうじ、幻想的な内容を絵画化した挿絵入り写本が制作された。