美人画の時代 春信から歌麿、そして清方へ | けろみんのブログ

けろみんのブログ

日記・観た映画のこと・観た展覧会の感想

小田急線、JR 町田駅(から徒歩15分・谷底)
町田市立国際版画美術館
「美人画の時代」春信から歌麿、そして清方へ
輝ける浮世絵黄金期 

町田市国際版画美術館では、待望の喜多川歌麿作品をふるさと納税にて購入、収蔵となりました。
上の画像がその作品「当世好物八景 はなし好」

燈篭鬢の透け感がいいですね


11月9日。2度目の訪問です。とても良い天気になりました。
美術館までの道路はとても急坂で、うっかりすると降りきったところでの一時停止を忘れるのでご注意※警官が一時停止を過ぎたところで狙ってます


2019.10.5~11.24まで
10月5日~10月27日前期
10月29日~11月24日後期
前期、後期で100点展示替えあります。展示総数が245点なので全く違う作品になるということです。10月29日以降また行かなくては!→行ってきました。

鈴木春信の中性的な美人画から、鳥居清長、喜多川歌麿と浮世絵黄金期の優品が揃っています。これだけの作品を集め開催した苦労の甲斐が見事成功し素晴らしい展覧会となっています。

国際浮世絵学会が江戸東京博物館で「大浮世絵展」を開催するのが11月19日から。そちらには国内外の優品が集まるのでかなり大変だったでしょう!

今秋なにを置いても訪れて欲しい、オススメの展覧会です。

2回目の訪問ではまず喜多川歌麿の大首絵、1793年頃の作品「文読む女」「難波屋おきた」の雲母刷りです。背景がキラキラしていてとても綺麗!

今回大久保純一町田市立国際版画美術館館長の記念講演会その2「歌麿美人画の特質と影響」を拝聴しました。

浮世絵の美人画は、時間軸で輪切りにすると。表現する女性のイメージは似たりよったりで時代様式に応じた理想の美人像に倣い画一的であった。
ところが、歌麿はそこに「個人の個性」「内面の表現」を加えた。例えば顔のパーツごとの特色を的確に表現する、何気ない仕草を表現するといった特色を加えて従来の「顔の作りは似たりよったりでアトリビュート的なもので誰かを示す」やり方から1歩進めたが皆はそれに追随せず。元の美人様式に従った方がウケがよく普遍的美人作風に戻る。といったお話を伺いました。

1番驚いたのは謡曲「松風」で須磨に流された在原行平が現地の姉妹を松風・村雨と呼んで慰みものにした挙句都へ帰る時形見の烏帽子と狩衣を掛けて遺したと、姉妹の霊が語るという話からの「汐汲み」という画題で

歌川豊春の「松風村雨図」
酒井抱一の「松風村雨図」

2作品が並んでおり、更に別の章で上村松園「汐くみ」も展示し、同じ画題で3人の素晴らしい作品が見られたことです。

他にも喜多川歌麿の肉筆浮世絵「納涼美人図」と似た画題として上村松園の「美人納涼図」がありました。
両者とも布地、櫛、蚊帳の透け感を表現するのが上手。
いつも透けたものを見るとうっとりとみとれるのです。
最近灯籠鬢という横に張り出した髪型の鬢の透け感も良いことがわかり、見所がふえました。
私は透けたもの、キラキラしたものがすきなんだなぁと思いました。

灯籠鬢の透け感

その他見どころなどはこちらの記事がとても詳しく参考になるのでどうぞ!


講演会がありましたので参加しました。
以下、講演内容のメモですので散文悪しからず……


「美男?美女?“美人”画は浮世絵に咲く大輪の花!」
講師は十文字学園女子大学准教授 樋口一貴先生です。先生は長く三井記念美術館の学芸員をなさっていて、今回の展覧会にご協力なさったとのこと。大変分かりやすく、興味深くて面白い講演でした。

先生は鳥居清長の「三代目瀬川菊之丞の娘道成寺」という肉筆浮世絵をこの展覧会用に準備している段階で「ここに描かれているのは歌舞伎の女形、つまり男である。これは美人画というのか?そもそも美人というのは女性だけなのか?」という疑問を持ったそうです。

長年学芸員をなさった経験から、広報的に効果がある画題は「人間」、「動物」、「花」、「風景」の順で、浮世絵の歴史から見ても初めは美人画、役者絵で風景が登場するのは19世紀に入ってからだそうです。
それは、人は自分に近いところに興味が向くことからきているとのこと。
美人画の発展の原動力もそこなのではないか?
という話からはじまりました。

・高松塚古墳壁画、鳥毛立女屏風、薬師寺の吉祥天像など飛鳥奈良時代の美人は世俗的、宗教的な絵画ともにふっくらしたしもぶくれの中国風。

・平安時代の金剛峯寺仏涅槃図の摩耶夫人を見ると、引目鉤鼻になり、源氏物語もほとんど記号化したように引目鈎鼻。

・戦国時代すぎになると肖像画があらわれる。「お市の方」薬師寺幕末になると「芸妓図」(渡辺崋山)

浮世絵前夜

ドローンから見下ろした俯瞰図により、市井の人の暮らしぶりを細かく描いた→洛中洛外図(16世紀初頭)
→ドローンがズームして、特定の名所を俯瞰している高雄観楓図(16世紀)人々の動きがより詳しく見えるがまだ名所を描くことにフォーカス
→狩野長信「花下遊幸図」(17世紀)どこでもいい、綺麗な場所で楽しむ人々を描く→女歌舞伎図(1603)未だ客観的な俯瞰図
→風俗図の登場(17世紀)「本多平八郎姿絵屏風」「彦根屛風」「湯女図」ドローンのような俯瞰でなく、横から見た人間と同じ目線からの親しい目線で描かれる。背景も最小限で人々の動き、ドラマにフォーカス。

上から目線→横から目線
背景あり→背景なし
たくさんの人→群像図→単身像へ

「軒先美人図」(17世紀末)1人立ち美人の登場→「見返り美人図」(17世紀)1人立ち美人図の始まり!

浮世絵とは、現世肯定、現世享楽的なもの。
それまでの絵画は、辛い現実を忘れて来世に期待→今楽しいから現在を楽しもう!

そこで江戸時代の人の楽しみは何か?
「芝居小屋」→役者絵
「遊郭」→美人の遊女画

こんな感じで始まった浮世絵。1765年に錦絵登場、ここからの作品を今回の展覧会では展示。

春信美人
華奢で中性的、夢玄の世界。1760~70年に大流行。春信が70年に早世するも人気は衰えず追随者が後を絶たない。が、だんだんオリジナリティを模索し出す。

人気茶屋美人が足をチラ見せなど、アイドルのグラビア風。今なら「こんな萌え絵、女性蔑視!」みたいのいっぱい。

タコ糸が絡んでチラッ


春信風夢幻の世界から肉厚になり、生身の八頭身美人を描いた鳥居清長は「江戸のヴィーナス」と近代では評価されている。

今回展覧会初出品作もあります。喜多川歌麿「納涼二美人図」肉筆浮世絵で、着物も髪飾りの絞りも朝顔が萎む様、透けた薄物の振袖どれも見所。

ここにもう1人美人画名手が登場、鳥文斎栄之。旗本出身ということもあり、どこか上品。

第2章

①誰を描いているのか?ー個性の表現ー

春信が流行った時代の浮世絵は顔に個性がなかったが歌麿の描くおきた、おひさの顔は目、鼻、髪型、そして年齢まで描き分ける。

私は確かに顔の特徴は捉えて個性を出しているが、全く個人の性格について書いていないのが不思議でした。看板娘といわれ、時には、首相撲を取ってる絵など、勝手に創作された似顔絵が出回って本人はどんなふうに思って、どんな人生送ったか興味深いです。

②俗か雅か

雅な肉筆画

喜多川歌麿「納涼美人図」1794年頃 重要美術品
掛け軸として最高のもの。手を後ろについて立膝をつき、三角形の見事な構図で描いています。

髷は勝田髷でしょうか、簪の後ろの白い布で縛っているのは、湯浴みをする際燈籠鬢が崩れないようにするためのものだと思います。透けた薄物を着ていますが今の時代だとこの姿でも暑いですね( ˊᵕˋ ;)💦

本図は右に水盤があります。この時代の着物は裾がヒラヒラと描かれていますが立膝をつく習慣は残っていたのかな?

浮世絵は大衆性のある「俗」なものと位置づけられるが、このころ(美人画の黄金期である、天明ー寛政期)「紅嫌い」というあえて色彩を抑えた水墨画の趣を出した作品が制作された。これは雅と俗の融合と言える……しかし、色を抑えたからといっても質素にみえるかというとお上はそうは思わず。松平定信の日記には

「最近の『紅嫌い』あれは贅沢だ、けしからん」

と書かれていたそうで、まるで校則みたいで可笑しい。

紅嫌いの作例が沢山展示されていますが、この玄人好みの色合いはホンモノ見ないと味わえないかも……

③女か男か

そもそも美人とは誰を指すのか?多少の例外をのぞき、美しい女性を指すようです。

しかし、江戸時代の流行の移り変わりを見ると、女性→男性、男性→女性という例が沢山あります。

・女物を着た男性(傾き者のファッション)

花下遊楽図屏風

ここに描かれた青年たちは、ちょっとイキがった若者で女物の小袖をマントみたいに羽織って無理したポーズをしています。こんな青年をかぶき者と言いました→

出雲阿国が演じた茶屋遊びと言う演目で彼女はかぶき者を演じる、つまり女のカッコをした男を女が演じる。それが歌舞伎の始まりでした。

役者絵と、美人画を組みあわせた例。

・男性の髪型が女性へ

島田髷は未婚の女性の定番の、髷の途中を縛る髪型。島田宿の遊女が若衆の髪型を真似たことに由来するそうです。

・男性の着物の模様が女性へ
初代佐野川市松が白と紺の正方形を交互に配した石畳模様の袴を履いて人気を博す。いつの間にか人名が模様の名前になり女性が身につけるようになった。

とても良い展覧会なので、図録を買いました。2500円。表紙はおきたさん。
この頃遊女以外の女性の名前を記すことが禁じられたため、上に判じ絵で菜二束、矢、沖、田
と記されています。

「高名美人六家撰」難波屋おきた
(1795~96頃作)


3章は現代までの美人画のコーナーで、鏑木清方や、上村松園など人気の画家の作品があり、そんなに浮世絵が得意でない私にはホッと出来る場所でした。昨年の今頃私はロンドンにおり、大英博物館の広告に使われていたのは樋口五葉の「髪梳ける女」でした。
ミュージアムショップの1番目立つところにあったこの作品。



今回の展覧会の企画構成を担当なさった村瀬可奈さんは何となくこの女性のような爽やかな美しい方でした。












ナマニクさん「Filthy Vol.2」取り扱い店舗はこちら→