舞台のフシギと魅力 |   SHOWBOAT~舞台船~

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  役者として舞台を中心に活動している明石智水の仕事の事だったり
  日常の事だったり、考えていることだったり。。。徒然草です(*'‐'*)

前回に引き続き、舞台を観てくださった方に聞かれたことシリーズ!

最も答えやすい質問No.1で、それ関連のネタも豊富だったのは

「真っ暗になってから人がいなくなったり、出てきてたり。どうなってるの?」


先ず、私は基本的に舞台にお客様を呼ぶとき、出来れば関係者は呼びたくないと考えている役者です。
日本の舞台は、役者に集客を求めるため、申し訳ないと思いつつも同業者に観に来ていただくことが多々あります。
でも、理想は同業者ではない方。
舞台関係者ではない一般の方に多く観ていただくのが一番だと考えています。
一般の方に多く観て頂いて、舞台の魅力、ライブの芝居が持つ魅力を知っていただきたい!
身内の中でのチケットの売買は、日本の舞台では当たり前です。
良くない風習です。
でも、それが仕方ないような状況が、悲しいかな現実です。
この話はまたどこか別の機会にでも…


舞台関係者ではないお客様には、暗転中の出来事が気になるようです。
答えはシンプル。
蓄光テープという、明かりを吸って暗い時に光ってくれるテープを使っています。
役者はこのテープを頼りにして、暗闇の中動いています。
舞台の袖と呼ばれるステージ両脇にある幕の奥には、暗闇の中からはけてきた役者のために表には漏れない明かりを設置していたりします。
小さな劇場では袖明かりと呼ばれる、小さな明かりを利用したり、少し大きめの舞台になると、LEDライトの細い管を床に這わせていたり。
舞台に向かって左(下手)と右(上手)で、赤と青のように色の違うLEDを這わせるのが一般的です。
真っ暗な中、役者は赤い方とか青い方とかを目指して去っているわけです。
舞台監督さんは小さなトーチ(懐中電灯)を持っていて、暗闇からはけてくる役者のために袖中で床に光を落としていてくれることもあります。
私も、舞台で袖明かりが少ない時には自前のミニトーチを持っています。
舞台上に明かりが漏れるのを防ぐため、ライト部分に青いセロファンを貼って使っています。

蓄光テープは、舞台が明るい時にその明かりを吸込み、真っ暗になった時に光ってくれ、舞台上に段差がある時にはその際や、障害物になるもの、舞台上の椅子や机といった道具やそれを置く位置、いわゆるバミリ等に貼って、事故を避けて役者が移動することや、道具の正しい移動を助けてくれています。

この蓄光テープですが、とても小さくカットしたものをポイントごとに貼るので、鳥目の人はあっても見えないことがあります。
そんな時にはどうしているか?
私の経験上、見える人に手を引いてもらっていました。
なので、舞台の暗闇の中では、万が一間違えで明かりが付いてしまったら、敵役同士が仲良さそうに手を繋いで歩いている姿が展開されていたりすることもあります。
過去には、役者が1列に並んだ状態で暗転になった後、全員手を繋いで仲良く一列にはけたなんてこともあります。
それが出来ない場合は、暗くなったらこの方向にどれくらい向いて何歩くらいとか、事前に記憶しています。
とにかく舞台袖の入口が見える角度まで移動することが必要です。
稽古でですが、それに失敗し、袖幕にくるまって暴れていた役者もいました。
袖幕は黒いのでそこに突進してしまうと、予想外に本物の闇を経験することになります。。。

自分一人で舞台の上でスポットを浴びているところからの暗転は、自分自身が明かりの方を見ていることもあり、暗くなった直後は蓄光テープが見えづらくなります。
照明さんによっては、このようなケースでは真っ暗にする前に一度照明の明るさを上げることもあるので(いわゆる目眩まし)、その場合はなおさらです。
お客様にかけた目眩ましは、その明かりを浴びている役者にもかかっています。
当然、暗くなった後目が慣れるまでに時間がかかり、蓄光テープも見えづらくなるんです。
その為、暗くなる前に横を向いている役者は、客に見えない方の目を閉じて、片目だけ暗さに目を慣らしていたりすることもあります。

便利な蓄光テープですが、貼りすぎると逆にどれを見て良いのか役者が迷う原因になったりします。
客席からも、暗転中にキラキラ光って見えるため、役者達はこの状態を『プラネタリウム』とか『星空』と呼んでいます。良くない意味で。
なお 暗い中では蓄光でなくとも白は目立つため、舞台の袖口の床には白いテープを貼ったりします。
暗い中でも真っ白な衣装の人は客席から移動が見えたりします。
一緒にはける役者が白い衣装を着ていたら、それだけでいい目印です。

さすがに目印があるからとはいえ暗闇は怖いので、舞台では本番前の場当たりという稽古で、転換稽古と呼ばれる稽古をします。
場面が変わるために真っ暗になる時の移動を確認する稽古です。
先ず明るい中で導線を確認し、その段階で蓄光テープのある場所を確認して、必要なところになければ舞台監督さんに貼ってもらってから、暗闇の中で動く稽古です。
場当たりでは、早替えなどもチェックされるため、はけてすぐ着替えのために楽屋に戻ったら、暗転で問題が生じていて、着替え直してやり直しなんてことも良くあります。
そのせいなのか、役者は着替えが早いです。

私が初めて演出した『サーカス物語』では、演出として、この真っ暗闇になる暗転は使用せず、ブル転と呼ばれる、暗いブルーの照明を真っ暗にすることに代える転換方法を用いました。
このように、真っ暗闇にならない舞台というのも存在はします。
私がこの時暗転を使用しなかったのは、物語の中で物語が劇中劇のように進行する作品だったため、転換までを演技して見せる演出にしたからです。
それ以外の理由でも、例えばお年を召した役者さんが多く安全のためにブル転にすることなどもあります。

しかし、真っ暗闇になる暗転のある舞台では、リハーサルでも本番でも、事故が起こりやすい状態だけに面白いことが沢山起こります。

リハーサルで、明かりがついたら人は正しい場所にいたのに、出てくる道具、テーブルとか椅子とかが、あさっての所にいたなんてことは稀にあります。
私が経験した中では、暗闇の中で分からなかったけど、暗い間に出ているはずのちゃぶ台が、明かりがついたら無かったということが、10代の頃出た舞台でありました。
明かりがついた時にあるべきものがなかったので、ちょっとフリーズしかけました。
他にも、先に書いた転換稽古中、暗闇の中でゴン!という音と「イテッ!」という声が聞こえて笑ってしまったとか、暗い中退場しなければいけなかった役者が、目印の蓄光テープを見誤って舞台から落ちる等、ハプニングは起こります。
舞台監督さんは暗視カメラでチェックしていますが、いなくなったから退場したと思って照明さんに次の場面の明かりを点ける指示を出し、明かりが付いたら舞台から落ちた役者さんが舞台によじ登ろうとしていたとか、珍しいケースではありますがありました。
次の場面に出演していた役者さんは、その場面にいないはずの人物が舞台に下からよじ登ってくる姿に、相当焦ったそうです。

私は若い頃鳥目気味だった為、暗転は恐怖でした。
今は意外と見えるようになり、なんとかやっていけています。
食べるものに気を使って、夜盲症の対策に努めました。
食べ物って大切ですね。

話は変わりますが、善光寺のお戒壇巡りに行った時、闇の中でも右手を壁に付けていれば大丈夫なのですが、完全に闇で、それ以降舞台の暗転をそこまで闇と感じなくなったと言うことがあります。
舞台前に見る夢の話みたいですが、まだ舞台の暗転の方が見える。みたいな(笑)
そんな経験ばっかりですね、私。

暗転と言えば、暗闇の中での事故で肋骨にヒビが入る怪我を本番中に経験したこともあります。
舞台というのは、意外にも危険と隣り合わせです。
その為、集中力が重要です。
そのせいか、結構ベテランの役者さんで若い頃はTVで活躍したなんて方が「舞台は怖い」というのも聞いたりしました。
やり直しの効かないライブと言うだけでも、スリル満点ですからね。

でも、舞台の人間としては、そのスリルこそが面白いと思ってしまいます。
毎回ドキドキしますが、だから面白いというところにハマると、舞台から抜け出せなくなります。
このライブならではのドキドキは、舞台を観るのが好きな人にもあるのではないでしょうか?
同じ舞台を複数回観た時「この間とここが違った」なんてのを見つけるのもライブの楽しみです。

今稽古している舞台、『ターニングポイント』はダブルキャスト構成なので、2つの組を見比べるというのも楽しいと思います。




http://confetti-web.com/turning-point2023

同じお芝居でも演じる人が変われば、随分と印象が変わるものです。
再演物でもあります。
同じ作品でも、ライブなので毎回どこかが微妙に違う、キャストが変われば更に変化がある。そんなふうに生きているLIVEの良さが、舞台にはあります。
客席の空気でも舞台は変化します。
観客は傍観者ではなく参加者にもなっている。
それが舞台の最大の魅力です。
舞台上の役者は客席の空気を常に感じていますので。


海外はロングランなので、キャストチェンジのたびに同じ作品を観に行くと言うのが楽しみでした。
お気に入りのキャストに出会うと、「次もこのヒトで観たい!」となるもので、そういう手紙を書いたこともあります。
オランダの舞台に出演していたカナダ人の俳優さんが素晴らしく、「次はいついつに行く予定ですが、未だその時のこの俳優さんは出ていますか?」という問い合わせの手紙を劇場に送ったら、その俳優さん本人から、『ミス・サイゴン』というミュージカルでしたが、オランダキャストのCDのジャケットに全キャストのサインを入れたものと返事が届き「君が来てくれたときにはまだ出ていなかったけど、CD出たので送ります。次来る予定だという時にも出ているので終わった後楽屋口に来てください。ぜひ会いましょう」と。
ビックリですよね。
オランダ人の友人の家に泊まって観に行っていたので、その次も2人で観に行って楽屋口まで行き、楽屋でお芝居の話しなど色々聞いたり、その俳優さんが「彼女は日本人だけど、今ロンドンで舞台の勉強をしていて、わざわざロンドンから来てくれたから見せてあげて」と終演後バックステージツアーまでしてくれました。

聞けば、オランダ語も満足に話せずホームシックになっていた時、劇場の人が「こんな手紙が来てたぞ」と励ますために私の手紙を見せてくれて元気が出たので、ぜひ会いたいと思ってくれたそうです。
彼はトゥイという役を演じていて、『ミス・サイゴン』のコンプリートレコーディング、各国の良いキャストを集めたCDでもトゥイ役を演じています。
『レ・ミゼラブル』のマリウス役でデビューし、歳を取ってからは『Cats』のオールドデュトロノミー役などを演じている、実力派の俳優さんです。 
わたしが観た中でのベストトゥイです。
興味のある方は、コンプリートレコーディングを聞いてみて下さい。

話はズレましたが、舞台という世界は、常に観客もそのピースの一つ。
観に行くと言うだけでなく、その空気に参加するという気持ちで来てもらって、喜ぶ役者はいても困る役者はいません。
一緒に同じ空気の中に参加して欲しいと、舞台役者はいつも思っています。
結構体験型エンタメなんですよ、舞台って。