朱川湊人『わくらば日記』 | 町田堂野球魂日記

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2013年は、もう始まっている!

昭和30年代前半、日本が大きなうねりを伴って変容しようとするときを舞台とした話はとても興味深く、ときに悲しいのです。まだ人と人の間に通う温かみのある時代に生きた姉妹、追憶して平成の世に回顧する妹。不思議な話、しかしそれは微笑ましい。貧しいながらも、世の中の美しさを伝えてくれる一家に喝采!


ただこの時代、「三丁目の夕日」に象徴されるようなノスタルジックな情景ばかりではありませんでした。戦後10年ちょっと、街にはまだまだ戦争の傷跡が残り、貧しい人々は多かったのです。物盗りも横行し、人身売買の名残もあり、家庭の複雑な事情もあり・・・死は未だに隣り合わせだったのです。とくに舞台となる東京の下町・・・よくも悪くも「むかし」を残すこの一帯の昭和30年代。日本が新幹線や高速道路を具備するようになったのは、その数年後の東京オリンピックの開催前後なのです。


ただ、どんな人の上にも青く、高い空はあるのです。その表現に、心が洗われました。