職場のデスクの隅には、いつも個包装の小さなチョコレートがいくつか転がっている。
仕事が行き詰まったとき、あるいは、飲み込みたくない言葉を飲み込んでしまったとき。カサッ、とビニールを剥く音は、私だけの小さな深呼吸だ。
今日も、会議で空気を読みすぎた気がする。
本当は「それは少し難しいです」と
言いたかったのに
周りの顔色をうかがっているうちに、
私の口は勝手に「大丈夫です、やっておきます」
という言葉を選んでいた。
相手は、それがさも当然のことのように
「助かるよ」と軽く手を上げて去っていく。
私の「優しさ」は、いつの間にかこの職場では、
壁紙のように当たり前の景色に
溶け込んでしまっている。
無糖のホットカフェ・オ・レを一口すする。
ミルクの膜が喉を通る感覚を確かめながら、
またひとつ、小さなチョコを口に放り込んだ。
「ちゃんとしなきゃ」
その言葉は、誰に言われたわけでもないのに、
いつの間にか私を縛る頑丈な鎖になっていた。
完璧に準備を整えてからじゃないと、
一歩も前に進めない。
「今はまだその時じゃない」
なんて自分に言い訳をしているうちに、
要領のいいあの人は、まだ半分しか荷物を持っていないはずなのに、軽やかにスタートを切って、
ずっと先を走っている。
なんであんなに、うまくいくんだろう。
置いていかれる自分にモヤっとして、
情けなくて、それでいて、
そんな風に自由に振る舞える
みんながどうしようもなく羨ましい。
カフェ・オ・レはまだ温かいけれど、
心の中には冷たい泥のような羨ましさが、
ゆっくりと溜まっていくのがわかった。