今日は、BLOGをアップする。

年が変わり、もはやこのサイトを散文、時に詩的に書こうかなと思っている。

まぁ、そんな事はどうでもいいか。

さて稽古で疲労感は多少有るが、頑張って書く。


週末の渋谷、原宿~明治通りは相変わらず大勢の人達で賑わいを見せている。

普段、混雑は避けて移動するのだが、今日は致し方なかった。

東京は人が多い。冷たい人が多い。車が多い。ゴミが多い。美人が多い。

こんな都会人的発言をすると真っ向から非難を浴びそうだが、

またそれも致し方ないか・・・。


そんな代償としてこんな昔話をしよう。

「また昔の事かい!?」

「昔より今。現状が知りたいんだよ。」

「まぁまぁ、いいじゃないか。」


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■それは、20才の春。

僕は次のアルバイトに『新聞屋の勧誘』を選んだ。

何処に配属になるのかは分からない。

・・・・

「君は、N区とO区だ。宜しく頼むよ。」

「はい。」


つまり僕は、練馬区と大田区を担当する事になったのだ。

又、微妙に離れているなぁー。まいっか。


「でも、きみ何で新聞の勧誘を選んだの?」

「あ、はい。自分は役者の卵なんです。」

「ほーそれで?」

「はい。ですから、相手をどの様にしたら説得出来るか、勉強したいのです。」

「それに、大学では心理学も専攻していますし、相手の気持ちを理解し、又学びながらお金を稼ぐにはこれしかないと思い、思い切って応募しました。」

「ほーなるほどね。」

「あ、はい。至らない点は有りますが宜しくお・・・ハックション、ハックション。」

「大丈夫?風邪かい!?」

「大丈夫です。宜しくお願いします。」


僕は初出勤からノルマを順調にクリアしていった。

時には、勧誘員の精鋭達が集結し地方への遠征にも呼ばれる様になった。


そして運命の日を迎えた。


今日の担当地区は、練馬区某所。

朝から動き回るが、一つも契約が取れない。

アセル、アセル。アクセル、あっ違うアセル。

それに対してもう一度焦る。


日が傾き始める。

ファミレスで作戦を練り直す。

訪問先を住宅街からマンションへシフトし、より絞ってみる。

しかし、断りの連続。

おまけにオートロックなのでドアすら開かない。

残り一時間を切ったところで諦め、投げ出した。

「もう無理だ!やってられねー!!」

「・・・・。」

「・・・・・。」


「おい、青年どうした!?」

「何をそんなに落ち込んでいる!?」


「・・・・・あ、いや別に。」

「おじさんに話して御覧。」

「・・・・・か・・・。」

「うん?はっきり喋らないと聞こえんだろう。」

「・・かんゆうが取れなくて。」

「肝油?、が取れないのか!?」

「あ、いや新聞の勧誘です。」

「お、おぉそうか学生アルバイトくんか?」

「は、はい」


「うーん。おじさんもこうやって若いもんに負けず自転車に乗って頑張っているんだよ。」

「おじさん!!」

「そうだよ、郵便局員だよ。」

「東京の人間は冷たい人ばっかで・・・。」

「・・・・・。」

「・・・青年。本当はそんな事はないんだぞ。」

「えっ、どうして?」

「みんなそれぞれに故郷があって、家族があって、仲間があって、ちゃんと人の温もりを感じられるんだぞ。」

「それを上手に引き出してあげるのが我々の仕事なんじゃないかな!?」

「おじさんのちょっとした考えだ。」

「・・・・・・・・・・・。」

「これ、もう3個しかないけど、食べなさい。」

「ほれっ」

「ナイスキャッチ!!野球部?」

「え、あ、はい。」

「今年も巨人優勝するといいな。じゃーな!!」


僕は、おじさんがペダルを漕ぎ始めて視界から見えなくなるまで目で追った。

しかし前がよく見えない。


そして、一歩下がり貰った三角いちご飴を舐めはじめた。

しょっぱさと甘さが混ざり合った不思議な味だった。





頭上には関越道が敷かれ、耳元に轟音が響きわたり

足下には泪がたまっていた。



Ⓒ 【N区で舐めた飴】よしだともかず