オーストラリア旅行記ゴールドコースト秋15 | ともみと髭マンとガガ

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12、前へ向かうときと変化
 
 引っ越し先が決まり気が楽になった。

 安気に構えてはいたものの、やはりそれなりに不安であったのだと気づく。




 その夕方、パパは家にきて食事の準備をしていた。

 水を飲むためキッチンに現れた息子に、パパはさっそく近況を尋ね始める。

 息子はグラスを手に持ったまま食卓の椅子に腰かけることになった。




 小さな食卓は、私の広げたイングリッシュスクールのテキストと問題用紙で埋まっていた。

    私は真向かいに座る彼を無視して難問に挑みつづける。

 父親の質問に生返事をしながら、いっこうに進まない私の宿題を覗きこんでいた息子がついに口をひらいた。


 "Takes"


   言われた意味が分からず、不思議そうに顔を上げる私の手元を指さし、 "s" という。

 先ほど(    )内に書き入れた自分の答えを見れば、そこには (take)とあった。

 彼に指摘され、主語が "He" であることに気がついた私は慌てて "s" を書きくわえた。

 すると彼は、私の代わりに次々と問題を解き始めたのである。

 そこへパパも参加したものだから、私はふたりの出す答えを書き入れるだけで宿題を終わらせることができた。




 そんな事よりも、何故だかこれまでのわだかまりが嘘のように私と息子は和気あいあいとしていたのである。

 和やかな時間を共有することができて、素直に嬉しかった。

 先日、面と向かって返事をしたことで私をひとりの人間として認めたのか。

 いや、もしかすると。

 あの屈折した態度は、それまで私が彼との対話を露骨に避けていたせいではないだろうか。

 人間性に欠けていたのは、むしろ私のほうかもしれない。





 引っ越しの日は平日であった。

 私は、学校から帰ったあと荷物を取りにきてもいいかとママに尋ねた。

 すると、

 ―もちろんよ。でもその時間は出かけているから、鍵はポストへ入れておいてね、とのこと。

 彼女は優しい母親代わりのようでいて、こういったクールな一面がある。

 別れを惜しむ、またはそれらしく演じるということがないらしい。

 それに比べ、娘はあつい別れのことばをかけてくれた。

 朝、私たちはいつものように鏡の前にいた。

 ―今日出て行ってしまうってほんとう?

 と、彼女はいう。

 私がうなづくと、

 "I'll miss you"

 と、持っていたヘアブラシを放り投げ私をその両腕につつみこんだ。

 ―私たちのこと忘れないでね!

 と彼女は微笑み、私も笑顔でこたえた。

 


    とうとう始まる、シェアハウス生活。

 引っ越したらまず、洗濯物を洗おう。

 休みの日には気兼ねなく、一日中ぐうたらしてやろう。

 それは、清々しい解放感であった。



つづく

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