ボクの初めての親友、サンタとの学校帰りはいつも刺激的だった。



駄菓子屋に行っては、当たりクジを一回分の料金を払ったあと店主の婆さんの目を盗んではクジを何回も引き直したり。ミミズをビニール袋いっぱいに集めては女子に投げてゲラゲラ笑ったり。落とし穴を掘っては、結局油断して自分で落ちてしまったり。


毎日、学校帰りが楽しみで仕方なかった。そして毎日色んな大人に怒られた。





なかでも一番怒られたのが、サンタと近所の神社のさい銭泥棒をした時だ。

 その日、サンタは駄菓子屋で買ったガムを噛みながら「トモオにすげぇ技を見せちゃるけん」と言って、いつも悪戯を企んでいる時にする満面の笑顔でボクを神社に誘った。
 

神社に着くなり、サンタはそのガムを釣り糸の先にくっつけて賽銭箱の中に垂らした。すると、あっという間に十円玉や百円玉をガムに絡めて取り出した。ボクが「すげぇ!」と驚いていると、「こんなもんやなかとよ、次はもっと大物を狙うばい!」と言って、次は千円札を釣り上げた。
 

この技術は想像以上に難しく、僕もサンタに教わって何度か挑戦したが一度も成功しなかった。


「サンタはすごいな~天才やわ!大人になったらコレを仕事にしたら良いよ!」

「いや~それほどでもないったい」

「ほんまやって!サンタなら絶対なれるって!」


そう言ってボクは泥棒を勧め、サンタは顔を真っ赤にして照れていた。子供は馬鹿だ。

しかしサンタには年齢に似合わない変なこだわりがあった。

10円玉や100円玉、それ以上が取れた時は貰ってしまうのに、5円玉が取れた時だけはさい銭箱に戻してしまうのだ。


「神社に5円をいれる奴は本気で願いばしよるけど、百円とか大金ばいれよる奴は、見栄を張っちょるか、酔っ払いだけたい!」


そう言った時のサンタの顔は何だか真剣で大人に見えたのを覚えている。

そしてぼんやり考えた、サンタはきっと5円玉で何かを一生懸命願った事があるんじゃないかなって。


ちょうどそんな話をしている時だった、神社を掃除しているオッサンがボクら目がけて信じられないくらいのスピードで走ってきて、思いっきりゲンコツをした。

そのあともボクとサンタの耳がちぎれそうになるくらい引っ張って、ボクらは一時間以上のお説教をされた。泣きながらお賽銭を全額返しながら、ボクはバチってこんなに即効性があるのかと変なところに関心していた。




ボクとサンタは悪戯以外にも夢中になっている遊びがあった。ギャバンごっこだ。


当時テレビでやっていた特撮ヒーローものの「宇宙刑事ギャバン」という再放送の番組をボクらは夢中で見ていて、そのギャバンとギャバンに出てくる敵に成りきっては、口でバーンとかビビビビなんて爆発や光線の擬音を叫んで決闘のシーンを再現していた。


 あの頃、周りでは世間で流行り始めた初代のファミコンを持つ子供も多かったが、それを持っていなかったボクとサンタは、

ファミコンなんてどこが面白いんよ!?」

なんて強がりを言いながら、”ギャバンごっこ”をやって遊んでいた。



 こうやってボクらが小学校に入って初めての夏休みを迎えた、ある日。

サンタが嬉しそうな顔をしてボクにある物を見せてきた。

「これ誕生日に買ってもらったと!」

そう言って、手に持っていたのは、”ギャバンの乗る竜の形をした宇宙船”のプラモデルだった。

 サンタは自慢げに見せてくれる割には、ボクがどれだけ貸してっ!と頼んでも、少しも触らせてくれなかった。

「見るだけたい!これは宝物やけん!!」

そう言いながらサンタは、

「そんなに触りたいなら、トモオも買ってもらえば良いったい!
お前、ファミコンとか買ってもらおうと、しとらんやろね?ファミコン買ったら、お前は裏切り者やけんね!」

と、触らせてもらえなくて怒るボクよりも何故か怒った顔をして、無理矢理に「ファミコンしない同盟」という変な同盟を組ませてきた。


 でも、既に誕生日を終えてしまった僕は、密かにクリスマスにはファミコンをお願いしようと思っていた。

 だから、その同盟に入りながらもサンタと一緒にファミコンをしたら、きっと楽しいだろうな~と考えていた。サンタだって、なんだかんだ言ってファミコンをしたいはずだろうと…。


でも、それが実現する事はなかった。





二学期。



 

うちのクラスにアキヤマさんという女の子の転校生が来た。


彼女の家はサンタの家の三軒隣で、お肉屋さんだった。


…つづく。