社労士受験生にとっては、令和6年12月2日以後の法令上の取扱いについて、健康保険法(健保)と国民健康保険法(国保)との相違点に関して「うっかりミス(ケアレスミス)」をしないよう、十分に気をつけていただきたい事柄があります。

 

【1】国民健康保険法における被保険者資格証明書の廃止

⑴ まず、健康保険法(健保)における「被保険者資格証明書」は廃止されておらず、令和7年度(2025年度)以降においても引き続き存続しています。

 

厚生労働大臣は、①マイナ保険証が利用可能となるまでの間であるとき、あるいは、②資格確認書が交付等されるまでの間に被保険者又はその被扶養者が療養を受ける必要があると認めたときに限り、被保険者を使用する事業主又は当該被保険者から求めがあった場合に、(原則として即日交付の)「被保険者資格証明書」を有効期限(証明日から20日以内)を定めて交付するものとされています(健康保険法施行規則第50条の2)。 

 

⑵ 一方で、国民健康保険法(国保)における「被保険者資格証明書」については、令和6年12月2日をもって廃止されました(国民健康保険法第54条の3)。


ただし、国民健康保険料(税)を滞納している場合の「特別療養費」の制度までも廃止されたわけではなく、一部改正されて引き続き存続しています。

 

ごく簡単に述べると、次のようになります。


市町村(特別区を含む)及び国民健康保険組合は、保険料滞納世帯主等が、その納期限から1年が経過するまでの間に、当該市町村又は国民健康保険組合が保険料納付の勧奨等を行ってもなお当該保険料を納付しない場合には、特別の事情があると認められる場合を除き、あらかじめ特別療養費を支給する旨を通知して、特別療養費を支給します(※)。

 

※ 特別療養費にあたっては、電話、訪問等による滞納保険料(税)の納付の催促、保険料滞納世帯主等からの相談を受け付ける相談窓口等の設置(勧奨等)、そして特別療養費の支給を行おうとする場合の「事前通知」を行う必要があるとしたことが改正点となります(令和6年12月2日施行)。

 

特別療養費」とは、療養の給付等を行わず、保険医療機関等の窓口で医療費の全額(10割相当分)を支払わせるもので、保険料滞納世帯主等が、後日、市町村又は国民健康保険組合に対して支給申請を行うことにより、療養に要した費用(7割等相当分)を現金給付として支給するものです(※)。

 

※ 18歳年度末までの子については「特別療養費」の支給対象とはならず、療養の給付等が行われます。

 

[注]まあ、このような面倒臭い事務手続(償還払い制度)を保険料滞納世帯主等に課すことによって、国民健康保険料(税)の納付を促す狙いがあるわけですね。しかし、「償還払い」という「特別療養費」が保険料滞納世帯主等に対するペナルティになっていると言えば、フランスの公的医療保険制度からは笑われてしまいます。これについては、本ブログ最後の「補遺」において述べることにします。

 

国民健康保険法において「被保険者資格証明書」が廃止されたのは、マイナンバー(マイナ保険証)の活用によって、保険者側で保険料滞納の状況等を把握することができるからです。

 

納期限から1年6月が経過するまでの間に、保険料納付の勧奨等を行ってもなお当該保険料を納付しない場合には、特別の事情があると認められる場合を除き、保険給付の全部又は一部の支払を一時差し止めるものとします

 

滞納している国民健康保険料(税)を納付しなければ、支給すべき7割等相当分の一部又は全部の支給を一時ストップすることができるということです。

 

⑸ 上記の一時差止めがなされている者がなお滞納している保険料を納付しない場合においては、あらかじめ通知して、一時差止に係る保険給付の額から滞納している保険料額を控除することができます

 

簡単に言えば、支給すべき7割等相当分の額から滞納保険料(税)相当額の分を控除して支払うということです。滞納している国民健康保険料(税)の額が7割等相当分の額より多ければ、何も支給されることはないので、賃金等の差押えなど滞納処分の対象になり得ます。

 

【2】国民健康保険における「被保険者資格証明書」に関する社労士受験生の質問とは?

国民健康保険法における「被保険者資格証明書」や「被保険者証」はすでに廃止されていますので、もはや解説などする意味がないと思われるかもしれませんが、少し関連する事件等が令和7年3月時点に実際に起きており、医師や保険医療機関等の側からも指摘されていますので、「令和6年12月1日以前に社労士受験生から私が受けた記念的な質問」として、ここに挙げておきます。

 

社労士受験生T.Mさんの質問

国民健康保険の「特別療養費」において、市町村は、世帯主から被保険者証を返還させて、その代わりに「被保険者資格証明書」を交付しますよね。でも、そもそも被保険者証は世帯主が市町村に返還してしまっていて手元に持っていないのですから、その世帯主が保険医療機関等で診療等を受けるとしたら、保険医療機関等の窓口で「医療費の全額(10割)」を支払わなければならなくなりますよね。だったら、わざわざ市町村は世帯主に「被保険者資格証明書」を交付する必要などないのではありませんか?

 

これ、意外と鋭い質問なのですが…

ただ、保険医療機関等に一切何も提出しないで手ぶらで受診等をしようとしたら、顔馴染みであれば何らかの配慮をしてくれるかもしれませんが、普通は「無保険扱い」になってしまいます。無保険であれば、国民健康保険は一切使えませんので、「自由診療」となります。

 

 

国民健康保険の特別療養費において、国民健康保険の被保険者が保険医療機関等に支払う「医療費の全額(10割)」とは、国が定める診療報酬点数に基づいて計算した額の全額(10割)という意味です。

 

自由診療であれば、国が定める診療報酬点数とは無関係に自由診療の価格を設定することができますので、診療報酬点数に基づいて計算した医療費全額(10割)の2倍以上もの著しく高い金額になることもあります(※)。

 

※ 県立病院、市立病院その他公的病院においては、無保険者から徴収できる金額の上限額が条例等によって定められていることがあります。

 

* 保険医療機関等における診療報酬点数は1点単価につき「10円」として計算されるのですが(例えば「564点」とあれば「5,640円」を意味します)、無保険の外国人患者に対して、例えば、国立がん研究センター中央病院では、診療報酬点数1点単価につき「30円」で計算するものとし、かつ、当該診療費に対して別途消費税を課しているのです。

 

 

 

保険医療機関等に「被保険者資格証明書」を提出することにより、国が定める診療報酬点数に基づいて計算した額の全額分(10割)のみが徴収されることで済みます。

 

そもそも「被保険者資格証明書」とは、その患者が国民健康保険の被保険者資格を有することを証明する書類という意味ですから、無保険ではありません(※)。

 

※ 国民健康保険料(税)を滞納していても、国民健康保険の被保険者資格を喪失するわけではありません!

 

ですから、令和6年12月2日前の国民健康保険の特別療養費において、市町村が保険料滞納世帯主等に対して「被保険者資格証明書」を交付すべき意義は、確かにあったのです。

 

 

【補遺:フランスの公的医療保険制度における患者自己負担】

フランスの公的医療保険制度は、日本と同じく「社会保険方式」を採用していますが、保険料は全額を事業主が負担することとされており、被保険者負担はありません。

 

ただ、その代わり、患者自己負担額(一部負担金、受診時定額負担金、入院時定額負担金、薬剤一部負担金など)は、他のヨーロッパ諸国と比べて高額となっています。

 

そして、外来診療では「償還払い方式」を、入院診療では「療養給付方式(日本でいう現物給付化)」を採用していますので、外来診療においては、いったん10割分の全額を支払っておいて、後日、保険者(医療保険金庫)から7割分等定められた率の分を償還してもらうのです。

 

保険料の全額を事業主に負担してもらっているので(保険料という「金」を出さない者は「口」も出すなということで)、被保険者(患者)としては文句が言えないかもしれませんが、「償還払い方式」は、やはり手続きが面倒臭く、1回当たりの診療時に支払う医療費が高額になってしまいます。

 

そのため、2016年に「第三者払い(日本でいう現物給付化)方式」を採用するとの法律改正を実施しましたが、フランス医師組合から猛烈な反対を招くこととなり、ほとんど頓挫したまま現在に至っています。

 

医療機関側(医師側)としては、診療時に10割分の診療費が一気に手に入ったほうが事務簡便ですからね。

 

日本のように、患者から一部負担金(3割等相当分)を徴収してから、その後に、「社会保険診療報酬支払基金」などを通して保険者にレセプト請求するのって、医療機関側(医師側)としては事務煩雑すぎるので、フランスの医師たちが第三者払い方式(現物給付化)に猛反対するのは、当然といえば当然ですよねぇ。