令和6年(2024年)8月25日に実施された第56回(令和6年度)社会保険労務士試験の社会保険一般常識科目〔選択式〕においては、各法律の目的規定(ここでは社労士受験業界で言い慣れている「目的条文」という表記を用いることにします)が出題され、慌ててしまった受験生も少なからずいたようです。

 

今回は、社労士試験に出てくる目的条文において、「国民の共同連帯」と出てくる法律を4つ列挙しつつ、簡単な解説を加えてみます。

 

⑴ 国民年金法第1条(国民年金制度の目的)

国民年金制度は、日本国憲法第25条第2項に規定する理念に基き、老齢障害又は死亡によって国民生活の安定がそこなわれることを国民の共同連帯によって防止し、もって健全な国民生活の維持及び向上に寄与することを目的とする。

社労士試験に出てくる法律の多くは、日本国憲法第25条に規定する理念に基いて制定されています。

【日本国憲法第25条】

① すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。

② 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

第1項は国民の「生存権(健康で文化的な最低限度の生活を営む権利)」を保障したもので、国による公的扶助(租税によって賄われる救貧施策であり、生活保護法が典型例)の実施義務を定めたものとされています。

 

≪語句解説≫

 「救貧施策」とは、すでに貧窮状態に陥ってしまった者を事後的に救済する施策をいいます。一方で、今は貧窮状態に陥ってはいないが、将来、貧窮状態に陥ることを事前に防止する施策のことを「防貧施策」といい、医療保険、年金保険、雇用保険、労災保険、介護保険を含む社会保険制度は「防貧施策」に基づくものです。

 

日本国憲法第25条第2項の「社会福祉」と「社会保障」という用語は、日本で公式に使われた最初の例だと言われています。

 

社会福祉」とは、公的扶助に類似した概念で、租税により賄う施策であり、児童福祉や老人福祉などが典型例ですが、生活保護法による授産施設など、職業生活その他社会復帰のための助力なども含まれるとされています。

 

公衆衛生」とは、人間社会の健康問題を解決するため、国単位または地方自治体等の単位で対抗策を考える組織的な衛生活動をいい、母子保健、感染症予防(ワクチン接種等)、生活習慣病予防、精神衛生、労働衛生などが含まれます。

 

社会保障」とは、英語の ”Social Security” の翻訳語であり、社会保障を世界で最初に公式用語として用いたのは「アメリカ連邦社会保障法」(1935年)です。ただし、アメリカの社会保障制度には医療保障が含まれておらず、現在のアメリカにおいて社会保障とは、公的年金とほぼ同義であると理解されています。

 

アメリカに次いで社会保障を実施した国は、1938年のニュージーランドですが、ニュージーランドの公的年金制度は、世界でも珍しく、その全額が租税(国庫負担)によって賄われています。

 

日本の「社会保障」は、狭義には「社会保険」をいいますが、広義には「社会福祉」や「公衆衛生」をも含む日本国憲法第25条第2項の全体をいうものとされています

 

国民年金制度は当初、昭和34年11月1日に、全額国庫負担となる福祉年金(老齢福祉年金、障害福祉年金、母子福祉年金など)を支給する無拠出制として施行されていますので、広義の社会保障を意味するものとして「日本国憲法第25条第2項に規定する理念に基き」と規定しています。

 

≪豆知識の補給≫

国民年金法昭和34年4月16日に公布されましたが、その3か月半ほど前の昭和33年12月27日に公布された新国民健康保険法は、その第1条で「この法律は、国民健康保険事業の健全な運営を確保し、もって社会保障及び国民保健の向上に寄与することを目的とする」と規定しています。実は、この「社会保障」というのも、社会福祉や公衆衛生をも含む広義の社会保障なのです。ですから、実質的には、新国民健康保険法も「日本国憲法第25条第2項に規定する理念(広義の社会保障)に基づき」制定されたものと考えることができます。

 

⑵ 介護保険法第1条(目的)

この法律は、加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等により要介護状態となり、入浴、排せつ、食事等の介護、機能訓練並びに看護及び療養上の管理その他の医療を要する者等について、これらの者が尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、必要な保健医療サービス及び福祉サービスに係る給付を行うため、国民の共同連帯の理念に基づき介護保険制度を設け、その行う保険給付等に関して必要な事項を定め、もって国民の保健医療の向上及び福祉の増進を図ることを目的とする。

 

⑶ 高齢者の医療の確保に関する法律第1条(目的)

この法律は、国民の高齢期における適切な医療の確保を図るため、医療費の適正化を推進するための計画の作成及び保険者による健康診査等の実施に関する措置を講ずるとともに、高齢者の医療について、国民の共同連帯の理念等に基づき、前期高齢者に係る保険者間の費用負担の調整後期高齢者に対する適切な医療の給付等を行うために必要な制度を設け、もって国民保健の向上及び高齢者の福祉の増進を図ることを目的とする。

この法律にだけ「国民の共同連帯の理念等」と、「」がついていますが、この「等」は、第2条(基本的理念)にある「自助と連帯の精神」を表しています。

第2条第1項(基本的理念)

国民は、自助と連帯の精神に基づき、自ら加齢に伴って生ずる心身の変化を自覚して常に健康の保持増進に努めるとともに、高齢者の医療に要する費用を公平に負担するものとする

 

⑷ 日本年金機構法第2条第1項(基本理念等)

第1条(目的)

日本年金機構は、この法律に定める業務運営の基本理念に従い、厚生労働大臣の監督の下に厚生労働大臣と密接な連携を図りながら、政府が管掌する厚生年金保険事業及び国民年金事業(以下「政府管掌年金事業」という。)に関し、厚生年金保険法及び国民年金法の規定に基づく業務等を行うことにより、政府管掌年金事業の適正な運営並びに厚生年金保険制度及び国民年金制度(以下「政府管掌年金」という。)に対する国民の信頼の確保を図り、もって国民生活の安定に寄与することを目的とする。

念のため、第1条(目的)を記載しておきましたが、この法律だけ目的条文に「国民の共同連帯」が出てこず、第2条第1項(基本理念等)に出てきます。

それでは、以下に第2条第1項(基本理念等)を記します。

第2条第1項(基本理念等)

日本年金機構は、その業務運営に当たり、政府管掌年金が国民の共同連帯の理念に基づき国民の信頼を基礎として常に安定的に実施されるべきものであることにかんがみ、政府管掌年金事業に対する国民の意見を反映しつつ提供するサービスの質の向上を図るとともに、業務運営の効率化並びに業務運営における公正性及び透明性の確保に努めなければならない。

※ 旧社会保険庁の業務を受け継いだ「日本年金機構」は、平成22年1月1日に発足していますが、その設立の法的根拠となる「日本年金機構法」は、平成19年7月6日に法律第109号として公布されました。

 

≪豆知識の補給≫

なお、『平成24年版厚生労働白書』(21ページ脚注)においては、「国民年金法、高齢者の医療の確保に関する法律、介護保険法において「国民の共同連帯」、障害者基本法、身体障害者福祉法、知的障害者福祉法、障害者の雇用の促進等に関する法律において「社会連帯」という文言が使われている」とまで明確に記述されています。どうやら障害者関係の法律では「社会連帯」と出てきやすいようです。

 

【障害者の雇用の促進等に関する法律第5条】(事業主の責務)

全て事業主は、障害者の雇用に関し、社会連帯の理念に基づき、障害者である労働者が有為な職業人として自立しようとする努力に対して協力する責務を有するものであって、その有する能力を正当に評価し、適当な雇用の場を与えるとともに適正な雇用管理並びに職業能力の開発及び向上に関する措置を行うことによりその雇用の安定を図るように努めなければならない