久しぶりに帰省してみたら、お父さんが見ているテレビの音量がやけに大きいことに気がつくことがありますね。もしかしたら「加齢性難聴」かもしれません。

 

⑴ 加齢性難聴の特徴

一般に「加齢性難聴」は、女性より男性のほうが早い年齢で発症しやすく、初期には高音域の音が聞こえなくなり、進行していくと、徐々に低音域の音までもがどんどん聞こえなくなっていきます。

 

また、語音明瞭度(相手が話す言葉を正しく聞き取る能力)が大きく低下するため会話をするのが難しくなり、さらに「リクルートメント現象(補充現象)」といって、快適に聞こえる音量の範囲が非常に狭くなり、分かりやすく言えば、小さな音は聞き取りづらく、大きな音はより大きくうるさく聞こえるようになります。

 

子ども好きだったお父さん(お母さん)が、実家の近所にある幼稚園や公園などから聞こえてくる子どもたちの声に対して「子どもの声がうるさいなあ!」などと言い始めたら、それは、もしかしたら「リクルートメント現象(補充現象)」に起因しているかもしれません。

 

[注]単なる「耳垢塞栓による外耳道閉鎖」(耳垢が耳の中に溜まり鼓膜にこびりついて外耳道を塞いでいる状態)であれば、耳鼻科(耳鼻咽喉科)に行って耳垢を取ってもらえば元通りに聞こえるようになります。外耳道の入口部1㎝ほどには自然に耳垢を排出させる機能があるため、頻繁に耳掃除(耳かき)をする必要はありません。ただし、ネットリ湿った耳垢(湿性耳垢)の人の中には耳垢塞栓を起こしやすい人がおり、このような耳垢を耳鼻科医の世界では「飴耳」と呼んでいます。耳垢がネットリした湿性耳垢になるか、カサカサした乾性耳垢になるかは、人種や遺伝などによっても異なり、日本人はカサカサした乾性耳垢の人が7~8割と多くなっています(乾性耳垢の人でも耳垢塞栓を起こしやすい人はいます)。

 

難聴といえば、比較的若年期には「イヤホン難聴・ヘッドホン難聴」が、建設現場や工場等で働く労働者には「騒音性難聴」が、音楽家や歌手には「突発性難聴」が、そして高齢者には「加齢性難聴」が多いように見受けられます。

 

※ ヴァイオリンは耳を悪くするほど大きな音を出すわけではありませんが、ヴァイオリニストの聴力を検査してみると、左耳のほうが右耳より聴力(聴覚閾値)が少しだけ悪くなりますが、左耳のほうが距離的に弦に近いからです。ただし、音楽家は、高齢者になっても、騒音下での会話の聞き取り能力が一般人より明らかに優れているとの報告があります。

 

 

2024年、医学誌で有名な英国ランセット委員会は、その報告書において、認知症になりやすい14の危険因子を特定し、危険因子が取り除かれた場合の認知症の症例割合が最も減少するものとして「難聴(Hearing loss)」と「高LDLコレステロール(High LDL cholesterol)」を挙げています(それぞれ7%)。

 

※ 私は個人的に、長期間(長年)にわたる慢性の睡眠不足も認知症を招きやすいのではないかと思っています。

 

 

 

[注] 「難聴」とは生理的・身体的な機能不全のことをいい、「聴覚障害」とは難聴によって引き起こされる日常生活上の困難度・不自由さをいいます。

 

⑵ 2025東京デフリンピック

さて、「東京2025世界陸上」が終わり、再来月、11月15日から11月26日までの12日間(開会式に先立ち実施されるサッカー競技を含めると「13日間」)、日本(東京)で初めての「2025東京デフリンピック」が開催されます。

 

デフリンピックは、1924年(大正13年)の「第1回国際ろう者競技大会(フランス・パリ)」を起源としていますから、第二次大戦後の1948年(昭和23年)に英国ロンドン郊外で始まったとされる「ストーク・マンデビル競技会」を起源とするパラリンピックより四半世紀ほど長い歴史を持っています。

 

デフリンピックの聴覚障害程度における出場資格(参加資格)は、補聴器や人工内耳の体外パーツを外した状態の良側耳で「55dB以上」とされています。

 

また、パラリンピックと異なり、障害特性が他の障害とは異なるため、聴力によるレベル分けはしません(レベル分けしないことがフェアか否かは、たびたび議論されていますが…)。

 

⑶ 身体障害者福祉法等による聴覚障害の程度分類

身体障害者手帳に係る聴覚障害の等級区分は「身体障害者福祉法施行規則第5号」に定められており、2級、3級、4級及び6級となっています(聴覚障害単独では、1級と5級はありません)。

 

■身体障害者障害程度等級表(身体障害者福祉法施行規則別表第5号)

https://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/shougaishatechou/dl/toukyu.pdf

 

ただし、音楽関係で日本のベートーヴェンとして売り出した偽作曲家の「詐聴事件(耳が聞こえるのに全く聞こえないと偽っていた事件)」が世間を騒がせたため、平成27年4月1日以降、聴覚障害により新たに身体障害者手帳の2級を診断する場合には、(細かい検査内容は省略しますが)ABR、ASSR等の他覚的聴覚検査(意図して詐聴ができないよう、脳波などで客観的に聴力があるか否かを調べる聴覚検査)、又はそれに相当する検査(ロンバールテスト、遅延側音検査等)を実施しなければならないこととされています。

 

[注] 障害基礎(厚生)年金の1級聴覚障害を診断する場合においても、オージオメータによる標準純音聴力検査に加えて、他覚的聴覚検査を実施することが必要とされています。

 

※ このあたりの知識は、障害基礎年金又は障害厚生年金においても関係してきますので、他に「オージオグラム」の読み方などを勉強しておいても損はないでしょう。なお、身体障害者手帳における「2級」の平均聴力レベルは、障害等級「1級」の障害基礎(厚生)年金におおむね合致しますが、たまに「詐聴」の方がいます。ベテランの耳鼻科医であれば、他覚的聴覚検査(脳波検査等)をする前に、詐聴ではないかと見抜けることがあります。

 

なお、「労働者災害補償保険法による聴覚障害」に関しては、障害基礎年金や障害厚生年金とは若干異なる算定方式を用いて認定します。

 

⑷ 労働安全衛生法に基づく一般定期健康診断による聴力検査

労働安全衛生法に基づく一般定期健康診断における選別聴力検査においては、左右各耳について、1,000Hz/30dB、4,000Hz/40dB(雇入れ時の聴力検査では30dB、学校保健として行われる聴力検査では25dB)の純音を聞かせるのが一般的ですが、1,000Hzと4,000Hzの2種類の周波数の純音で選別聴力検査を行うことについては、労働安全衛生規則第43条等に根拠規定が存在します

 

純音:「正弦波」とも「サイン波」とも言いますが、一定の周波数を発する「ピー」というような機械音のことです。加齢性難聴になったかどうかは、電子体温計の「ピピピッ」という音が聞こえなくなることで自覚することが多いのですが、最近では大きな音で鳴るようにしている電子体温計がありますので、当てにならないかもしれません。

 

⑸ 難聴の程度分類

さて、バカでかい音量でテレビを視聴しているお父さんには、認知症の発症を少しでも遅らせるためにも、ぜひとも耳鼻科(耳鼻咽喉科)に行ってもらって、精密検査である「標準純音聴力検査(気導聴力検査・骨導聴力検査)」や「語音聴力検査」を受検してもらいたいところですね。

 

最後に難聴の程度分類ですが、日本においては「日本聴覚医学会」の定める「平均聴力レベル」が一般に用いられています。

 

※ WHOの難聴区分は、「難聴の程度」を示したものであって、「聴覚障害の程度」を示したものではありませんので、日本聴覚医学会で作成した区分(高度難聴以上が聴覚障害の対象となる)とは異なっています。

 

・軽度難聴:25dB以上-40dB未満

・中等度難聴:40dB以上-70dB未満

・高度難聴:70dB以上-90dB未満

・重度難聴:90dB以上(全ろう状態)

 

これ、言語聴覚士国家試験等においては「(難聴でも)事故しなくなる!」という語呂合わせで覚える人もいます。

 

・25dB以上(事故)

・40dB以上(し)

・70dB以上(な)

・90dB以上(く)

 

《日本聴覚医学会難聴対策委員会による補足説明》

軽度難聴:mild hearing loss(impairment)

小さな声や騒音下での会話の聞き間違いや聞き取り困難を自覚する。会議などでの聞き取り改善目的では、補聴器の適応となることもある。

中等度難聴:moderate hearing loss(impairment)

普通の大きさの声の会話の聞き間違いや聞き取り困難を自覚する。補聴器の良い適応となる。

高度難聴:severe hearing loss(impairment)

非常に大きい声か補聴器を用いないと会話が聞こえない。しかし、聞こえても聞き取りには限界がある。

重度難聴:profound hearing loss(impairment) 

補聴器でも、聞き取れないことが多い。人工内耳の装用が考慮される。

 

≪厚生労働省の公表資料より抜粋≫

 
[注]「dB」を単独では「デシベル」と呼んでも「デービー(ディービー)」と呼んでもかまいませんが、「dBSPL」とか「dBHL」のように後ろに単位が付くときは「デービー・エス・ピー・エル」とか「デービー・エイチ・エル」のように、「デービー」と呼ぶのが一般的です。
なお、SPLは “Sound Pressure Level” の頭文字で、主に補聴器のフィッティング(調整)に用いられ、HLは “Hearing Level” の頭文字で、主に聴力検査に用いられる単位です。
 
〈プラス一言〉
松本清張の有名な社会派推理小説『砂の器』には「音響学」に関する講義録のようなものが図表入りで記述されています(映画版やテレビドラマ版では完全に無視されていますが)。
これは、清張が『砂の器』を執筆していた当時(昭和35年)、旧東京工業大学の著名な音響学の教授であった實吉純一の『電気音響工学』(1957年)を参考にして、清張が取材していたものです。