社労士試験における次の設問文を見てください(いずれも「正しい」とされた設問文です)。
設問文⑴ については法改正に合わせて修正してありますが、⑵ については概ね条文通りの設問文となっています。
⑴ 日本国外に住所を有する障害等級2級の障害厚生年金の受給権者が死亡した。死亡の当時、この者は、国民年金の被保険者ではなく、また、保険料納付済期間と保険料免除期間と合算対象期間とを合算した期間が25年に満たなかった。この者によって生計を維持していた遺族が5歳の子1人であった場合、その子には遺族基礎年金は支給されないが、その子に支給される遺族厚生年金の額に遺族基礎年金の額に相当する額が加算される。(平成29年問1-B修正)
⑵ 遺族基礎年金の受給権を取得しない子に支給される遺族厚生年金の額については、遺族厚生年金の額に、遺族基礎年金の額及び子の加算額に相当する額を加算した額とする。(平成18年問1-E)
昭和60年改正法附則第74条第2項の規定により、子に支給する遺族厚生年金の額は、当該厚生年金保険の被保険者又は被保険者であった者の死亡につき、その子が遺族基礎年金の受給権を取得しないときは、遺族厚生年金の額に遺族基礎年金に相当する額及び子の加算額に相当する額(遺族基礎年金相当額等)を加算した額とされています。
設問文⑴について、遺族基礎年金の支給要件と照らし合わせながら確認してみましょう。
① 国民年金の被保険者が、死亡したとき
⇒ 設問文において、死亡した者は、国民年金の被保険者ではないと記述されていますから、この要件には該当しません。
② 国民年金の被保険者であった者であって、日本国内に住所を有し、かつ、60歳以上65歳未満であるものが、死亡したとき
⇒ 設問文において、日本国外に住所を有すると記述されていますから、この要件にも該当しません。
③ 老齢基礎年金の受給権者(保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が25年以上である者に限る)が、死亡したとき
⇒ 当分の間、保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が25年に満たない者であっても、「保険料納付済期間と保険料免除期間と合算対象期間とを合算した期間が25年以上あれば」遺族基礎年金の支給要件を満たすこととされています(国民年金法附則第9条第1項)が、設問文では、この要件にも該当しません。
※ もちろん、この受給資格期間25年には「期間短縮特例」というものがあり、保険料納付済期間と保険料免除期間と合算対象期間とを合算した期間が25年なくても遺族基礎年金の支給要件を満たす場合もありますが、そこまで考えて、この設問文を「誤り」と判断することはないでしょう。もし死亡した者が期間短縮特例に該当するのであれば、その旨が分かるように設問文に記載しているはずですからね。
④ 保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が25年以上である者が、死亡したとき
⇒ 当分の間、これに合算対象期間を加えて25年以上あれば要件を満たすことは、③で説明したとおりですが、この設問文には該当しません。
ということで、設問文の5歳の子には遺族基礎年金は支給されません!
ここで遺族基礎年金が支給されない理由をよくよく考えてみると、遺族基礎年金の支給要件の中に「障害等級1級又は2級の障害基礎年金の受給権者が、死亡したとき」という要件が欠けているからです。
しかし、死亡した者が日本国内に住所を有していたかどうか、国民年金に任意加入していたかどうか、保険料納付済期間と保険料免除期間と合算対象期間とを合算した期間が原則として25年以上あったかどうかなど、遺族となるべき子にとって自分の選択によらない不可避な事情によって、遺族基礎年金が支給されたり支給されなかったりするのは著しく不合理です。
以上のようなことを踏まえて、設問文⑴の事例のように、子(※)が遺族基礎年金の受給権を取得しないときは、遺族厚生年金において遺族基礎年金に相当する額等を加算することとしており、当該加算額等は遺族基礎年金とみなし、遺族厚生年金でないものとみなします。
※ 子に限らず、遺族となるべき子のある配偶者(夫が死亡した場合は、子のある妻)が設問文⑴のような事例に遭遇し、遺族基礎年金の受給権を取得しないときも、遺族となるべき子のある配偶者に支給される遺族厚生年金に遺族基礎年金相当額等が加算されます。
この「みなし規定」があることにより、遺族基礎年金相当額等の加算のある遺族厚生年金の受給権者が「子を有する若年期の妻」である場合において、その妻が30歳に達する日前に遺族基礎年金とみなされた加算額等の受給権が消滅したときは、遺族厚生年金における「5年失権制」の対象になることが分かるのです。
このような特殊な場合においてまで、厚生年金保険の積立金を基礎年金に目的外使用するなどけしからん、などと反対する人は、さすがにいないでしょうね。