障害者の雇用の促進等に関する法律(以下「障害者雇用促進法」という。)の改正事項をすべて解説していると一冊の専門書が書けるほどになってしまいますので、ここでは「障害者雇用率の段階的引上げ」について解説しますが、特に令和6年度又は令和7年度実施の社会保険労務士試験を意識して、主に一般事業主(民間企業)に関するものを取り上げます。

 

【一般事業主(民間企業)における障害者雇用率】

⑴令和6年4月1日から令和8年6月30日までの間は「100分の2.5(2.5%)

(障害者雇用促進法施行令附則第3条第1項)

※つまり、常時雇用される労働者の数が「40人以上」である一般事業主(民間企業)は、対象障害者を雇用する義務が生じるのです〔1人÷2.5%=40人〕。

 

⑵令和8年7月1日以後は「100分の2.7(2.7%)

(障害者雇用促進法施行令第9条)

※つまり、常時雇用される労働者の数が「37.5人以上」である一般事業主(民間企業)は、対象障害者を雇用する義務が生じるのです〔1人÷2.7%=37.037人〕。

 

≪解説≫

一般事業主に係る障害者雇用率は、「少なくとも5年ごとに」、実障害者雇用率の推移を勘案して「政令」で定めることとされています(障害者雇用促進法第43条第2項)。

 

〔最新統計〕

ちなみに、令和5年度の法定障害者雇用率は「2.3%」であったところ、令和5年12月22日に公表された「令和5年障害者雇用状況の集計結果」によると、一般事業主(民間企業)における実障害者雇用率は「2.33%」と、すでに法定障害者雇用率を超えており、また、法定障害者雇用率達成企業の割合も「50.1%」と、50%を突破しています(雇用障害者数は約64万人)。

 

さて、常時雇用される労働者の数が「40人以上」である一般事業主(及び特殊法人)には、次の①及び②の規定が適用されます。

①常時雇用する労働者の数が「40人以上」(特殊法人にあっては、36人以上)である一般事業主は、毎年、6月1日現在における対象障害者の雇用に関する状況を、翌月「7月15日」までに、管轄公共職業安定所の長を経由して厚生労働大臣に報告しなければならない

②常時雇用する労働者の数が「40人以上」(特殊法人にあっては36人以上)である一般事業主は、「障害者雇用推進者」を選任するように努めなければならない

 

≪参考≫

参考として、一般事業主(民間企業)以外の障害者雇用率を記しておきます(カッコ内は、令和8年7月1日以降の障害者雇用率)。

⑴国及び地方公共団体:

100分の2.8(100分の3)

⑵都道府県に置かれる教育委員会等:

100分の2.7(100分の2.9)

⑶特殊法人:

100分の2.8(100分の3)

※「特殊法人(独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構、独立行政法人労働者健康安全機構、年金積立金管理運用独立行政法人、日本私立学校振興・共済事業団など)」については、その資本金等の全部又は一部を国又は地方公共団体から受けていること及び税制上の優遇措置を受けていることから、「国及び地方公共団体」と同じ雇用率とされています。

 

引上げ幅は、すべて「0.2%」ずつですね🙂

 

【実雇用率の算定方法】

実雇用率の算定方法を以下に列挙しておきますので、1つずつよく確認しておいてください。

 

□⑴重度身体障害者又は重度知的障害者を、1週間の所定労働時間が「30時間以上」の正規労働者として「1人」雇用した場合には、「2人」雇用したものとみなして算定する(ダブルカウント制)。

 

□⑵重度身体障害者又は重度知的障害者を、1週間の所定労働時間が「20時間以上30時間未満」の短時間労働者として「1人」雇用した場合には、「1人」雇用したものとみなして算定する。

 

□⑶重度身体障害者又は重度知的障害者を、1週間の所定労働時間が「10時間以上20時間未満」の特定短時間労働者として「1人」雇用した場合には、「0.5人」雇用したものとみなして算定する(令和6年4月1日施行)。

※「特定短時間労働者」とは、短時間労働者のうち、1週間の所定労働時間が「10時間以上20時間未満」の労働者をいうが、事業主から障害者総合支援法第29条第1項の「指定障害福祉サービス(同法第5条第14項に規定する就労継続支援であって、厚生労働省令で定める便宜を供与するものに限る。)」を受けている者(就労継続支援A型の利用者)は、特定短時間労働者として算定されない。

 

□⑷身体障害者又は知的障害者を、1週間の所定労働時間が「30時間以上」の正規労働者として「1人」雇用した場合には、「1人」雇用したものとみなして算定する。

 

□⑸身体障害者又は知的障害者を、1週間の所定労働時間が「20時間以上30時間未満」の短時間労働者として「1人」雇用した場合には、「0.5人」雇用したものとみなして算定する(ハーフカウント制)。

 

□⑹身体障害者又は知的障害者を、1週間の所定労働時間が「10時間以上20時間未満」で雇用した場合には、特定短時間労働者として算定の対象とすることはない(仮に計算するとすれば「0.25人」となってしまうため)。

 

□⑺精神障害者を、1週間の所定労働時間が「30時間以上」の正規労働者として「1人」雇用した場合には、「1人」雇用したものとみなして算定する。

 

□⑻精神障害者を、1週間の所定労働時間が「20時間以上30時間未満」の短時間労働者として「1人」雇用した場合には、本来であれば「0.5人」雇用したとみなすところ、当分の間、「1人」雇用したものとみなして算定する(令和6年4月1日以降も継続させる精神障害者に係る特例措置)。

※精神障害者については、その特性から職場定着率が低いため、令和5年度以前からの特例措置を、当分の間、令和6年4月以降も継続させることとしています。

 

□⑼精神障害者を、1週間の所定労働時間が「10時間以上20時間未満」の特定短時間労働者として「1人」雇用した場合には、「0.5人」雇用したものとみなして算定する(令和6年4月1日施行)。

 

次の表で、頭を整理しておいてください!

 

【要注意】
従来あった「特例給付金」の制度は、令和6年4月1日をもって廃止されます
というのは、重度身体障害者・重度知的障害者・精神障害者であって、1週間の所定労働時間が「10時間以上20時間未満」である者は、特定短時間労働者として実障害者雇用率の算定(0.5人)に含まれることとなったからです。
 
ただし、重度でない身体障害者・重度でない知的障害者であって、1週間の所定労働時間が「10時間以上20時間未満」である者については、特定短時間労働者として実障害者雇用率の算定には含まれません。
 
そのため、重度でない身体障害者・重度でない知的障害者であって、1週間の所定労働時間が「10時間以上20時間未満」である者を令和6年3月31日以前に雇い入れている一般事業主に対しては、令和6年度の1年間に限り、「特例給付金」を支給することができるとの経過措置が設けられています。