さて、令和6年度(第56回)以後に実施の社会保険労務士試験における「労働安全衛生法」において出題可能性が高いと思われるのは、化学物質管理者保護具着用管理責任者だけではありません。

 

令和6年4月1日から、「労働安全衛生規則第34条の2の10(改善の指示等)」という規定が新設施行され、化学物質を製造し、又は取り扱う事業場の事業者に対する労働基準監督署長の権限が拡大されます。今回も、当該条文を1項ずつばらして解説していきます。

 

⑴ 労働基準監督署長は、化学物質による労働災害が発生した、又はそのおそれがある事業場の事業者に対し、当該事業場において化学物質の管理が適切に行われていない疑いがあると認めるときは、当該事業場における化学物質の管理の状況について改善すべき旨を指示することができる。

 

≪解説≫

労働基準監督署長による改善の指示は、「化学物質による労働災害が発生した事業場の事業者」に対してのみならず、「化学物質による労働災害が発生するおそれがある事業場の事業者」に対しても行うことができます。


この「化学物質による労働災害が発生するおそれがある事業場」との場合は、おそらく事前に臨検等を受けていることが多いのではないかと思われます。


というのは、労働基準監督署長が改善の指示を行うことができる要件として、「化学物質の管理が適切に行われていない疑いがあると認めるときが付加されており、化学物質の不適切な管理の疑いがあると認めるためには、事業場への実地調査等があったはずだからです。


●社労士試験においては、「助言」、「指導」、「勧告」、「勧奨」などの語句の違いに十分気をつけなければなりませんが、この条項においては「改善の指示」となっており、この「指示」とは「命令」に近いものです。

 

▶️関連学習のヒント

改善⇒指示」という結び付きは、労働安全衛生法第78条の規定による「特別安全衛生改善計画」の作成・提出の指示を行うのが「厚生労働大臣」、また、同法第79条の規定による「安全衛生改善計画」の作成の指示を行うのが「都道府県労働局長」というところにも見られます。

 

⑵ 前項の指示を受けた事業者は、遅滞なく、事業場における化学物質の管理について必要な知識及び技能を有する者として厚生労働大臣が定めるもの(以下この条において「化学物質管理専門家」という。)から、当該事業場における化学物質の管理の状況についての確認及び当該事業場が実施し得る望ましい改善措置に関する助言を受けなければならない。

 

≪解説≫

ここでは、「化学物質管理専門家」という用語に要注意です。「化学物質管理者」と混同しないように気をつけてください。

化学物質管理者は、その事業場内の労働者から選任されるものなので、事業者が労働者から「助言」を受けなければならないとしたら、おかしな話ですよね。

 

●化学物質管理専門家から助言を受けるのは、「当該事業場が実施し得る望ましい改善措置」についてです。

 

⑶ 前項の確認及び助言を求められた化学物質管理専門家は、同項の事業者に対し、当該事業場における化学物質の管理の状況についての確認結果及び当該事業場が実施し得る望ましい改善措置に関する助言について、速やかに書面により通知しなければならない。

 

≪解説≫

確認及び助言を求められた化学物質管理専門家は、速やかに、確認結果と改善措置に関する助言を「書面」により通知しなければなりませんが、この「書面」が重要な意味を持つことになります。

化学物質管理専門家は、処罰の対象となる事業者等ではないのですから、「速やかに」という訓示的な用語を用いるのが適当でしょう。

 

⑷ 事業者は、前項の通知を受けた後、1月以内に、当該通知の内容を踏まえた改善措置を実施するための計画を作成するとともに、当該計画作成後、速やかに、当該計画に従い必要な改善措置を実施しなければならない。

 

≪解説≫

化学物質管理専門家から書面での通知を受けた事業者は、「1か月以内に」、改善措置計画を作成し、それを実施しなければなりません。

ここで、改善措置計画の作成から実施に移行するまでの時間的間隔を「速やかに」としているのは、そもそも「1か月以内」という縛りがあるので、「遅滞なく」という厳しい用語を使うまでもないと考えてのことかもしれません。

 

⑸ 事業者は、前項の計画を作成後、遅滞なく、当該計画の内容について、第3項の通知及び前項の計画の写しを添えて、改善計画報告書(様式第4号)により、所轄労働基準監督署長に報告しなければならない。

 

≪解説≫

「改善計画報告書」による報告義務を怠ることは違法性を帯びることになりますので、ここでは「遅滞なく」という厳しい用語を使用しています。

 

⑹ 事業者は、第4項の規定に基づき実施した改善措置の記録を作成し、当該記録について、第3項の通知及び第4項の計画とともに3年間保存しなければならない。

 

≪解説≫

ここで「3年間保存」しなければならないのは…

①改善措置の記録

②化学物質管理専門家から受けた通知

③改善措置計画

となります。

化学物質管理専門家から受けた通知」も3年間保存の対象となるのは、改善措置計画が当該通知の内容に従って作成されているかどうかを比較する必要があるためです。


【労働安全衛生規則第34条の2の10】


とにかく、第56回(令和6年度)社会保険労務士試験に向けては、労働基準法と労働安全衛生法の改正が非常に大きいので、全科目を一通り学習し終えたら、必ず労働基準法に戻ってしっかり再確認する時間的余裕を作っておくことが大切です。