私は、Twitterにおいて、今年(平成31年)8月の社労士試験では、平成29年版以前のものも含めて、『厚生労働白書』からの出題はしない旨、社労士試験センターには明確に公表していただきたいとの見解を述べました。

 

しかし、私は『厚生労働白書』を否定しているのではありません。

厚生労働白書』は、『防衛白書』に次いで発行部数が多く、3万部を超えています。

社会保障研究者などが論文等に引用するのも『厚生労働白書』が多いのです。


ただ、『厚生労働白書』は執筆者によって名著であったり駄作であったりが著しいことが難点なのです


私が今まで名著だと思い感激したのは、旧厚生省時代の『平成11年版厚生白書』です。

 

【1】年金白書を知っていますか?

平成10年2月と平成11年10月に、『平成9年度版年金白書』と『平成11年版年金白書』が刊行されていたことを知っていますか?

当時は、社会保障、特に公的年金制度を真剣に考えていた時期です。

 

しかし、それらが刊行された直後に、当時の政権が「物価スライド特例措置」を講じたことが味噌をつけたのではないかと思っています。


物価スライド特例措置」とは、本来、物価変動率に合わせて年金額を改定するところ、当時の政権が、全国消費者物価指数が下落したにもかかわらず(年金額を引き下げなければならないにもかかわらず)、特例法を国会で可決させ、年金額を据え置きにしてしまったことをいいます。

 

【2】これからの社会保障は首相官邸と経済産業省が担う?

『厚生労働白書』の創刊号は、『昭和31年度版厚生白書』です。

当時、経済企画庁による『昭和31年度版経済白書』の有名なキャッチフレーズである「もはや戦後ではない」に対して、『昭和31年度版厚生白書』は真っ向から反論し、「果して『戦後』は終わったか」と問題提起をしています。

 

★現在、首相官邸と経済産業省が中心となって、これからの社会保障制度を構築していこうと議論しているのを知っていますか

社会保障行政の中心であるべき厚生労働省は、ほとんど蚊帳の外です。

 

経済産業省といえば、「働き方改革関連法」を推進した影の功労者と言われています。

もし経済産業省がこれからの社会保障を担っていくとすれば、経済界の意向が強く反映される社会保障制度になるでしょう。

 

★社会保障をかじったことのある50代くらいの人たちであれば、公的年金の「賦課方式(世代間扶養)」によって、老親を扶養するための経済的負担が少ないことに感謝している人が多いはずです。

実をいうと、私自身も、年老いた母親を扶養するための経済的負担が非常に少なくて大いに感謝しています(親不孝とも言えますが…)。

 

これが「積立方式」になれば、自分自身の掛金拠出に加え、さらに老親を扶養するための経済的負担を覚悟しなければなりません。

これを『二重の負担』といいます。

私の世代は、一知半解の経済学者のおかげで、『二重の負担』に怯えていたものです。


しかも、一知半解の経済学者は、経済学者でありながら、公的年金を「積立方式」にしても少子高齢化の影響を受けることすら理解していないことを社会保障法学者に論破され、さっさと本来の経済学に逃げてしまいました。

さらに罪深いのは、「保険」の本質を知らない一知半解の経済学者のおかげで、現在でも公的年金の世代間格差を愚痴る(批判する)一般の国民を増やしてしまったことです。

 

★社会保険労務士は、公的年金制度(社会保障制度)の正しい在り方をしっかり勉強し、一般国民に正しく伝えなければなりません。

①エリザベス救貧法

②ドイツ・ビスマルク社会保険三部作

③ベヴァリッジ報告

④ロバート・オーウェン、ウェッブ夫妻

⑤財政検証→課題のチェック→必要な改革案→改革の実施→財政検証のPDCAサイクル

⑥老齢年金給付だけでなく、障害年金給付、遺族年金給付、医療保険、介護保険、生活保護、社会福祉等を総合的に見ることのできる視野の広さ

⑦ジニ係数、ローレンツ曲線、相対的貧困率


このくらいの知識は、最低でも必要ではないかと思います。

今では、FP(ファイナンシャルプランナー)のほうがよく知っているケースに出会います。

 

さて、世界トップクラスの少子高齢化の進展により公的年金の給付水準が下がり、さらに厚生年金基金が次々と「代行返上」する状況の中、平成13年10月に「確定拠出年金法」を施行することによって、老親を扶養する経済的負担を少なくし、自己責任ではありながら、「積立方式」により、自己の将来の年金を確保する途を築いていったのです。


確定拠出年金法は、厚生労働省所管の公的年金の一種として国民年金法や厚生年金保険法を補完するものですから、金融庁所管のいわゆる貯金類とはまったく性質が異なるものです。

 

★さて、経済界と最も関係の深い経済産業省が「社会保障」制度を仮に担っていくとしたら、経営者団体の意向による経済効率ばかりを優先し、国民に厳しい社会保険制度になることは容易に予想され、私は大いに危惧しています。


後日、Twitter のほうで実物を紹介するつもりですが、あからさまに厚生労働省外しをしているような気がします。

 

【3】白書に欠号はあるか?

昭和31年度に『厚生白書』が創刊されてから、2年分だけ、欠号があります。

それは、旧厚生省時代の『昭和42年版厚生白書』と『平成6年版厚生白書』です。

厚生労働省による『厚生労働白書』になってからは、平成29年版まで欠号はありません。

今回、もし『平成30年版厚生労働白書』が欠号になったとすれば、「厚生労働省」としては初の失態です。

 

【追記】

今年の社労士試験は、正直に言いますと、まったく読めません。労働統計の不正問題、国や地方公共団体における障害者雇用不正問題、例年の法改正に加えて働き方改革関連法、そして、厚生労働白書問題…。

ですから、今年(平成31年)8月の社労士試験においては、

①労働統計問題は出題しないこと。

②白書関係の問題も出題しないこと(数年前の白書から出題されることもあるので要注意なのです)。

③法令問題(特に労一)をより多く出題して、法令問題の実力が報われるようにすること。


以上を心から希望します。