皆さんは、生命保険に加入していますか?
最近は社会保険労務士(社労士)の認知度も上がってきましたが、昔は「社会保険労務士(社労士)って保険屋さんですよね」などと呼ばれていたものです。
わずか5~6年ほど前ですら、他士業の方からも、生命保険、火災保険、地震保険などの質問をよく受けていました。
今ではファイナンシャルプランナー(FP)の認知度が上がっているため、そのような質問を受けることはなくなりましたが、よくよく思い返してみると、昔の社労士試験においては、民間保険と社会保険との相違に関する問題など、税金関連の問題をも含めて頻出されていたものです。
【1】経営破綻した生命保険会社
バブル経済が崩壊した後、1997年の日産生命を皮切りに、経営破綻した生命保険会社は全8社あります。
日産生命が経営破綻するまでは「日本の生命保険会社のほうが安心で、外資系の生命保険会社は不安だ」と言われていましたが、経営破綻したのはすべて日本の生命保険会社であり、救済に乗り出し保険契約を承継したのはすべて外資系の生命保険会社です。
※ 日産生命の経営破綻により『生命保険契約者保護機構』が設立され、皆さんが保険契約を締結している生命保険会社が破綻しても、保険金等が一切支給されないことはありません。ただし、減額されることだけは覚悟しておいてください。
実をいいますと、私が保険契約を締結していた生命保険会社も経営破綻してしまったため、現在は外資系の生命保険会社に保険契約が承継されています。
私の場合は、よくあるように、大学卒業直後、保険の外交員をしていた伯母から無理やり生命保険に加入させられたものです。
でもね、生命保険は若いうちに加入しておけば、支払う保険料(掛金)は安くて済みます。
しかも、私が保険契約を結んでいた生命保険会社は、主に教職員を加入対象としていたので、「低負担・中福祉」又は「低負担・高福祉」とも言える契約内容でした。
例えば、もし私が30歳で亡くなっていたとしたら、死亡保険金は1億円を相当程度上回る水準だったのですよ!
まあ、国債の金利が平気で8%を超えていましたから、10年で元金が倍以上になるような古き良き時代でした。
ところが、2000年頃に経営破綻してしまったため、特に貯蓄性の高い保険(養老保険、終身保険、個人年金保険など)は、マクロ経済スライドのフル適用なんて甘っちょろいくらい、大幅に減額されてしまいました。
個人年金保険なんて、雀の涙ですよ😩
社会保障は「自助」を前提としつつ、自助では救われないリスク分散のため、所得再分配による「共助」を中核とするものです。
しかし、こんな経験があるため、やはり公的保険は欠かせないものだと再認識させられたわけです。
国が潰れるよりも、民間企業が潰れるほうが早いですからね。
でもって、もはや「確定拠出年金」にも加入困難な年齢になってしまいました~😢
※ 昭和25年の「社会保障制度審議会勧告」は、平成12年度の社労士試験に出題されています。これを知らずして、日本の社会保障制度を知ることはできません。
【2】大学生相手の講義なら・・・
合否を目的とする社労士試験ではなく、大学の講義として「社会保障論」を担当してもらえるのなら、「それじゃ、老齢厚生年金や老齢基礎年金の損益分岐点を計算してみよう!」なんてやっていたかもしれません。
そして、「老齢厚生年金も障害厚生年金も遺族厚生年金も、さらには障害手当金も、計算の基礎はすべて同じになっているね。年金保険に共通の原理があるからだ。それは何だろう?」なんて、学生に指名していたかもしれません。
将来の日本を背負って立つ若い人には、まず社会保障の中心となる「社会保険」に興味・関心をもってもらいたいですからね。
現在の公的年金システムは基本的に賦課方式ですから、私くらいの世代が受給する老齢年金給付は、少子化によって少なくなった今の若い人たちが支払う保険料によって賄われます。
私たちの世代の年金給付水準を維持しようとすることは、人口がますます減少していく若い世代の人たちの負担を大きくすることです。
もちろん、年金積立金の取り崩しや、国庫負担もありますが、租税による財源調達力は強くありません(財源調達論は、これはこれで重要な論点です)。
また、私たちの世代が支払ってきた年金保険料は、私たちの上の世代である年金受給者たちの年金給付として使われています。
おかげ様で、親世代を扶養するための経済的負担は軽減されています。
さらに、私たちの世代は、物価スライド特例措置のために、無駄な年金保険料を支払ってきた損な世代でもあります(公的年金制度を積立方式に転換するなら「二重の負担」を背負うという不安に怯えた世代でもあります)。
だからこそ、今の若い世代の人たちには、大きな負担を背負わせたくないのです。
※ アメリカで年金支給開始年齢につき65歳から67歳へ引き上げることを決定したのは、今から35年前の1983年のことですが、さらに69歳を支給開始年齢とすることも、ほぼ決まっているようです。そもそもアメリカは、医療でさえ民間保険を使う国です。そう、年金制度においても、米国内国歳入法401kという確定拠出個人年金制度が普及し始めていましたからね。
でも、裕福でなければ公的年金をあてにするしかありません。アメリカ人の労働時間が長いのも、年金支給開始年齢が引き上げられたことが一因だと言われています。
【3】老齢基礎年金の損益分岐点
国民年金の月額保険料は、毎年度改定されますし、平成10年度からの7年度間のように、ずっと13,300円のままで据え置かれていた時期もあります。また、年金額も物価スライドや賃金スライド等があります。厳密に計算していくと煩雑になりますから、すべて改定率等も無視した今年度の「法定額」で計算することにします。
①20歳から60歳までの40年間について、すべて保険料納付済期間だとすると・・・
16,900円×480月=8,112,000円
②年金として780,900円受給できるので・・・
8,112,000円÷780,900円=10.39年
65歳から11年、つまり76歳以上生きれば、元が取れることになります。
★厚生労働省「平成29年簡易生命表」によれば、65歳時の平均余命は、男19.57年(84.57歳)、女24.43年(89.43歳)となっています。平均的に生きるとすれば、軽く元が取れることになりますね。
しかも、受け取る年金額の2分の1(平成21年3月以前の期間分については、3分の1)は税金で賄われています。
【4】老齢厚生年金の損益分岐点
これも、標準報酬月額の改正や再評価率を無視して計算します。20歳から60歳まで、平成15年4月1日前は25年、平成15年4月1日以後は15年、合わせて40年間、平均標準報酬月額も平均標準報酬額も、現在の標準報酬月額等級第1級の88,000円とし、従前額保障や標準賞与額は考慮しないものとします。
①平成15年4月1日前の期間分は・・・
88,000円×7.125/1,000×300月=188,100円
②平成15年4月1日以後の期間分は・・・
88,000円×5.481/1,000×180月=86,819円
①と②の合算額が老齢厚生年金の額ですが、この者は老齢基礎年金をも受給できますので、すべてを合算すると、1,055,819円です(状況によって「加給年金額」が加算されることがあります)。
さて、この者が支払ってきた厚生年金保険料の総額は・・・
88,000円×183/1,000×1/2×480月=3,864,960円
→同じ額だけ、事業主も負担しています。
さて、損益分岐点は・・・
3,864,960円÷1,055,819円=3.66年
非常に粗い単純計算ですが、4年で元が取れてしまいます。こんな民間金融商品など、普通はあり得ません。
ただ、こうして単純計算をしてみただけでも、給料(報酬)が高くなればなるほど、元が取れるまでの期間が長くなることが分かります。
★昭和29年の厚生年金保険法改正の際は、老齢年金を、報酬比例一本でいくか、定額部分を入れるかで揉めたそうですが、報酬比例一本でいくと老後の年金格差が広がってしまい、公的社会保険としては相応しくないという理由で、定額部分と報酬比例部分との合算によって老齢年金を支給することに決めたと言われています。