労働基準法の前身である、明治44年制定の「工場法」については、社労士試験の講義でも触れることがあります。
しかし、工場法を前身にしている法律という意味では、大正11年制定の「健康保険法」も同じです。

健康保険法は、後に内務大臣、東京市長、初代鉄道院総裁などを歴任した後藤新平が、ドイツ留学中に、ビスマルクによる疾病保険法が制定されたことを知り、帰国後、時の内閣総理大臣であった伊藤博文に進言したことから立法作業が検討されるようになりました。

※日本の医療保険制度がドイツの制度に倣ったものだということは、平成28年度の社労士試験に出題されましたが、私が社労士試験の勉強をまったく知らない人に直接尋ねてみても、概ね一般平均正解率70%くらいのまさに一般常識問題でしたから、試験委員からすれば、社労士受験生ならほぼ100%正解できるだろうと思っていたサービス問題だったのでしょう。
社労士受験生が難解だと思われる選択式問題に関しては、社労士プロパーの知識が逆に邪魔をしているのかもしれません。私が社労士プロパーの受験勉強を始める前に、薄い社会保障関連の書物を読んでいてもらいたいと言うのは、社労士受験専門に作られた予備校テキストには記載されていない事項が、特に一般常識科目では頻出されるからです。

さて、この健康保険法案は、帝国議会に提出されてわずか10日余で、ほとんど議論もされることなく成立しています。

1つの理由は、当時の社会保険(労働保険)先進国のドイツによる制度に倣ったものであり、日本で最初の社会保険立法である健康保険法を作るのに、国会議員たちがその内容を理解できなかったことがあります。

もう1つの理由は、工場法時代、業務上の事由による負傷、疾病、障害、死亡に関しては、事業主が災害扶助責任を有していたところ、健康保険法では、業務上外の事由に関係なく、労使折半の保険料で保険給付をしてくれるということで、事業主側の反対がほとんどなかったからです。

ただし逆に、業務上傷病に関する保険給付に対して労使折半の保険料で賄うのはおかしいとして、労働者側は「健康保険法反対ストライキ」を実施しています。とは言っても、富裕層でない労働者にとっては、医者にかからずに何の治療もされないまま亡くなっていくか、所有する自己の田畑を売り払ってそのお金で医者にかかるか、という時代でしたので、労働者側でも大きな反対はありませんでした。

★さて、社労士試験の話になります。
平成27年10月には被用者年金制度一元化という悲願の大改正がありました。
そして、平成28年10月と平成29年4月には、短時間労働者の社会保険適用拡大という、これまた悲願の制度改正が行われました。もちろん、平成28年8月、平成29年1月、平成29年4月と、雇用保険法の大改正もありました。
さらに、平成29年8月からは、老齢年金給付の受給資格期間が「25年以上」から「10年以上」になります。平成30年1月からは再び雇用保険法の改正が待っています。
そして、いよいよ平成30年4月からは、国民健康保険法の「都道府県単位化」(都道府県・市町村共同運営化)が実施され、国民健康保険法における保険者が「都道府県及び市町村」になります。
さらにさらに、早ければ平成31年度中には労働基準法の大改正が予定されています(元号はどうなるでしょうか)。

教える側にしても、以上のような大改正に加えて、従来の細かな改正事項を一つ一つ拾っていかなければなりません。さらに、施行期日直前にならないと、厚生労働省令や施行通達など、社労士試験にとって出題必須の事項が発出されませんから、法改正講座の時間を長くしなければなりません。また、受験生にしても、短期で合格しないと、毎年毎年の法令改正で頭の中が混乱してしまい、受験期間がどんどん長くなってしまいます。

※社労士試験の難しさは、ここにもあります。つまり、本来なら、他の国家試験のように、本試験と同じ5肢択一形式の過去問でアウトプット演習をしたいところなのですが、改正事項があまりにも多いため、5肢択一形式の過去問が成立しなくなってしまうのです。5肢択一形式の答練はもちろんありますが、それは試験委員が作成した過去問とは、出題意図も引っ掛け方もまったく異なるものです。ですから、社労士試験では、どうしても1問1答肢別問題集が重要になってきます。最近は個数問題も出題されていますからね。

社労士試験は法令改正が命」とは言われますが、従来のような細かな改正が数多くなるばかりでなく、法律の幹の部分が変わってしまうような大改正も続きます。
「社労士試験受難時代」と言えるかもしれませんが、法令改正が著しい国家試験であるからこそ、社会保険労務士の存在意義が大きくなると考えてはいかがでしょうか