健康保険及び厚生年金保険における法人の役員(代表者を含む。以下同じ。)である個人事業主等に係る被保険者資格の取扱いについては、社会保険労務士試験でも重要な論点となるものですので、ここで通知の内容をしっかり確認しておきましょう。

 

■法人の役員である個人事業主等に係る被保険者資格の取扱いについて(令和8年3月18日付け保保発0318第1号・年管管発0318第1号)

https://www.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T260319S0080.pdf 

 

【1】法人の役員の被保険者資格の取扱いの原則

健康保険法第3条第1項及び厚生年金保険法第9条の規定により、適用事業所に常態的に使用されている者は、その者が法人の役員であっても、健康保険及び厚生年金保険の被保険者となるのが原則です。

 

別に言えば、たとえ法人の役員であっても、当該法人から労務の対償として報酬を受けている者は、当該法人に使用される者とみなして(※)、健康保険及び厚生年金保険の被保険者資格を取得します。

 

🔷健康保険法第1条は「この法律は、労働者又はその被扶養者の・・・」と始まり、厚生年金保険法第1条は「この法律は、労働者の老齢、障害又は死亡について・・・」と始まりますが、ここでいう「労働者」とは、労働基準法にいう「使用者・労働者」とは少し異なります。一般的にいって、法人の役員は、労働基準法では「使用者」に該当し、「労働者」に含まれないのが普通ですが、社会保険の世界では「法人に使用される者」とみなし、「労働者(擬制労働者)」として扱います(社会保険法上の労働者)。

 

【2】法人の役員の被保険者資格に係る原則的判断要素

法人の役員の被保険者資格を判断するに当たっては、 原則として、次の2つの判断要素を基準として実態を踏まえ総合的に判断します。

 

① その業務が実態において法人の経営に対する参画を内容とする経常的な労務の提供であるか〔法人の役員として法人の経営に参画して就労しているのかどうか〕

 

② その報酬が当該業務の対価として当該法人より経常的に支払いを受けるものであるか〔法人の役員に支払われる報酬がその業務の対価として支払われるものであるのかどうか〕

 

【3】法人の役員の被保険者資格に係る具体的判断要素

原則的判断要素に加えて、最終的には個別具体的な実態を勘案して適用の有無を判断することとしつつ、基本的に、以下のいずれかに該当する場合は(※)健康保険及び厚生年金保険の適用はないと判断することとしています

 

※ ここで、厚生労働省の通知は、健康保険及び厚生年金保険の被保険者資格を取得できない具体的な事例を挙げていますので、社労士受験生としては特に注意すべきです。

 

⑴ その業務が経営参画を内容とする経常的な労務の提供に該当しないと考えられるもの

① 当該法人の役員会等に出席しているが、当該法人の役員への連絡調整や職員に対する指揮監督に従事していない場合

② 当該法人において求めに応じて意見を述べる立場にとどまっている場合

 

⑵ その報酬が業務の対価としての経常的な支払いに該当しないと考えられるもの

① 役員会等への出席について支払われる報酬等

② 旅費など実費弁償的な支払い  [H30択]

③ 退職手当(※) 

※ 退職手当という名目であっても、毎月の給与や賞与に上乗せして前払いされる場合には報酬等に該当する(いわゆる「前払い退職金」)。 [R元択]

 

🔷いわゆる退職金の前払いに係る社会保険料の取扱いについて(平成15年10月1日付け保保発第1001002号・庁保険発第1001001号)

被保険者の在職時に、退職金相当額の全部又は一部を給与や賞与に上乗せするなど前払いされる場合は、労働の対償としての性格が明確であり、被保険者の通常の生計にあてられる経常的な収入としての意義を有することから、原則として、健康保険法第3条第5項又は第6項に規定する報酬又は賞与に該当するものであること。

支給時期が不定期である場合についても賞与として取り扱い、これが年間4回以上支払われているものであれば、報酬として通常の報酬月額に加算して取り扱うこと

また、退職を事由に支払われる退職金であって、退職時に支払われるもの又は事業主の都合等により退職前に一時金として支払われるものについては、従来どおり、健康保険法第3条第5項又は第6項に規定される報酬又は賞与には該当しないものと取り扱うこと。

 

【4】法人の役員である個人事業主等に係る被保険者資格の取扱い

法人の役員である個人事業主等に係る被保険者資格の確認に当たっては、上記に述べた判断要素に加えて、次のような実態を総合的に判断した上で、適用の有無を判断するものとしています。

※ 日本維新の会における実例に触れながら、健康保険及び厚生年金保険の被保険者資格が認められない具体例を指摘しています。

 

⑴ 役員としての報酬が業務の対価としての経常的な支払いとは認められない場合

① 個人事業主等が法人の役員として当該法人に使用される者に当たると認められるためには、役員としての報酬が業務の対価として経常的に支払いを受けるものであることが必要であること

 

② したがって、個人事業主等が法人に対して、役員としての報酬を上回る額の会費等を支払っている場合には、実質的に業務の対価に見合った報酬を受けているものとは言えず、原則として業務の対価としての経常的な支払いがあるものとは認められないこと。

 

③ なお、個人事業主等から当該法人の関連法人等へ会費等を支払わせている場合であっても、その関連法人への会費等の支払が当該法人の役員となる上での実質的な条件となっている等その会費等の支払いが当該法人の役員となる上での実質的な条件となっており、当該法人とその関連法人の間で単に資金を移動させているにすぎないことが想定されるなど、実質的にこれらを同一の法人として取り扱うべきと認められる場合は、同様に「法人に使用される者」とは認められず、被保険者資格を有さないこととなることに留意されたい

 

⑵ 役員としての業務が法人の経営に対する参画を内容とする経常的な労務の提供と認められない場合 

① 役員としての業務の実態が、以下の「具体例」のいずれかに該当するものである場合には、 原則として、当該業務が法人の経営に対する参画を内容とする経常的な労務の提供に当たるものとは認められないこと

ただし、実際の被保険者資格の確認に当たっては、個別具体的な実態を勘案してその適用の有無を判断すること。 

 

(具体例その1)

知識向上のためのアンケートへの回答や勉強会への参加等、その業務の実態が単なる自己研さんに過ぎないもの

 

(具体例その2)

単なる活動報告や情報共有等、役員としての具体的な指揮監督や権限の行使に当たらず、それ自体が直接的に法人の経営に参画しているとは認められないもの

 

(具体例その3)

当該法人の事業の紹介等についての単なる協力やお願いにとどまっており、労務を提供する義務を負っているとは認められないもの

 

※ 役員としての業務が法人の経営に対する参画を内容とする経常的な労務の提供に当たるか否かを判断するに当たっては、例えば、以下の「事実」を 踏まえ総合的に判断すること。 

 

(事実その1)

指揮命令権を有する職員の有無(具体的な業務について指揮監督をする(部下たる)従業員や他の役員がいるか) 

 

(事実その2)

決裁権を有する所管業務の有無(担当する業務について決裁権があるか) 

 

(事実その3)

役員間の取りまとめや、代表者への報告業務の有無(役員会等に出席し、役員への連絡調整などを行っているか) 

 

(事実その4)

定期的な会議への出席頻度、それ以外の業務の有無と出勤頻度(会議に参加し求めに応じて意見を述べるにとどまっていないか、会議に参加する以外の業務は他にあるか、その業務のためにどのくらい出勤しているか)

 

【5】資格喪失の手続きを忘れないこと

①「法人に使用されている実態がない者」については、健康保険及び厚生年金保険の被保険者資格を有さず、事実と異なる資格取得の届出は健康保険法第48条及び厚生年金保険法第27条の規定に反することとなること

② したがって、法人の役員である個人事業主等について法人に使用されている実態がないことが確認された場合は、当該個人事業主等の資格喪失の届出を提出させ、その被保険者資格を喪失させること

 

■健康保険法第48条(届出)

適用事業所の事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、被保険者の資格の取得及び喪失並びに報酬月額及び賞与額に関する事項を保険者等に届け出なければならない。

 

■厚生年金保険法第27条(届出)

適用事業所の事業主又は第10条第2項の同意をした事業主(第100条第1項及び第4項、第102条第2項並びに第103条を除き、以下単に「事業主」という。)は、厚生労働省令で定めるところにより、被保険者(被保険者であつた70歳以上の者であつて当該適用事業所に使用されるものとして厚生労働省令で定める要件に該当するもの(以下「70歳以上の使用される者」という。)を含む。)の資格の取得及び喪失(70歳以上の使用される者にあつては、厚生労働省令で定める要件に該当するに至つた日及び当該要件に該当しなくなつた日)並びに報酬月額及び賞与額に関する事項を厚生労働大臣に届け出なければならない。

 

各地で桜の開花も始まり、春分の日、いよいよ春本番です。

花粉症の人にとってはつらい季節ですが、気温の上昇とともに、社労士試験の受験勉強の密度も濃いものにしていきましょう!!