しかし今回全く争点化もされてないし政府も言及しないが。
 今回の安保法制の動機、財界からのリクエストが下支えしていることは俎上に乗せられているが、もう一つ、外務省サイドからの「日本の安保理常任理事国入り」への悲願というのが、政府の動きを強く下支えしてきたのではないか。
 官僚グループの中でも、自衛隊は退職者含めて賛否両論で、半分腰が引けていると見ることも出来るのに。外務省は現役官僚が発言することがないので分かりにくいが、退職してコメンテーターとかやっている面々は、軒並み賛成、というか強く推進している。常任理事国入りは外務省の悲願だが、集団的自衛権を行使しない国で常任理事国入りは難しい。ゆえに、どんなに限定をつけられても良いから集団的自衛権を、ということで、推進のシナリオを書いているのは外務省なのでは。
 法案の立法理由説明で、中東・東シナ海・南シナ海の具体的事例を聞いても、どれも抽象的で本気度が感じられないのは、実は政府にとってその辺の事はダシというかどうでもよく、常任理事国入りが強烈な裏テーマだったのではないかと思えてきた。本来は、無理筋を押してまで、そういったものを目指すべきなのかというのは、国民的議論の俎上に乗せるべきだったのではないのかと、ふと思う。ただ、関連性が見えにくいので、争点化は難しいのかもしれないが。


 実際、日本がアメリカに対して無用とも思える譲歩を行う際には、必ず常任理事国入りの話がセットになっているし。4月に安倍首相がアメリカに行って安保法案成立を「公約」してきたが、やはりその時、大統領から常任理事国入り支持の発言を引き出している。
 また、中国の方でも反日デモが活発化したのは、05年に日本が常任理事国入りしようとしたのを、中国側が阻止しようとしたことが発端だ。アジアで唯一の常任理事国としての立場が揺るいでしまうことは、中国にとっては、日本人が考えるよりも重大事。

 日中の間に浮いている紛争の島は、尖閣諸島だけでなく、それよりももっと大きな難物は、「常任理事国入り」という島なのでは。

 外務省がこれに躍起となることによって生じる軋轢・デメリットは、思った以上に大きい。こういったデメリットを踏まえた上で、現在の対米政策(今回の安保法案などその一例かもしれない)が、国民にとって引き合うものなのか、考えるべきだと思う。

 個人的には、現在の5ヶ国による過剰な特権を軸にする秩序維持が、機能不全に陥っているという認識だが、常任理事国を増やすことによって解決するのではなく、拒否権そのものを無くし、安保理を十数カ国程度の非常任理事国で構成するように改革すべきではないかと思う。もちろんこれで国連の紛争解決能力が、劇的にアップするとは思えないが。