いつもそこにあるものがなくなると、とても不安になってしまう。
いつもの棚にハンカチがないとか、
鍵をかけておくフックに、今日はかかっていないとか。
この日。営業最終日を迎えた「名代・後楽そば」へ。
たまたま前日くらいにブロガーさんの投稿で「この日が最終日だよ」と教えてもらっていて。
そしてたまたまその日に、隣駅で用事があったので。
向かうといつも通りの「後楽そば」。
ちょっと人の出入りや店頭のテレビカメラが慌ただしいけどね。
それでもお店自体は何も変わらず、そこにあってそのままだった。
つい厨房やその奥の棚に目が行ってしまいます。
祖父が鮨屋を、その隣で祖母が和食屋、少し離れたところで叔母がお好み焼き屋を営んでいたので、厨房の風景は身近でとっても懐かしい思い出に包まれるもの。
スーツ姿のお父さんたちと並んで食べるのも、いつも通りの光景です。
常連さんの「30年通ったよ! 寂しくなるなぁ~」の声に、厨房のお父さんたちの顔も緩む。
でも「またいらしてくださいよ」はないんだなあ、もう。
私も帰り際に小さい声で「お疲れ様でした」とだけ。
いつも小学校に行く朝、「行ってきます」と向かう一本道を進んで振り返ったときに見えた母親の小さなシルエット。
表情は見えないまでもいつものエプロンのその色合い。
そういったふと思い出す、今はもう見えない風景。
何かが足りない。
そんな気持ちになるのだろう。
有楽町駅の赤いレンガ造りの改札を出るたびに。
「名代・後楽そば」
閉店