想像力の父、と呼びたいアントニオ・ガウディ。
正直、スペインでその創造物に出会うまで、彼に関する私の興味は皆無でした。
森アーツセンターで開催されていた、ガウディ×井上雄彦展~シンクロする創造の源泉~に行ってきた感想所見。
入ってすぐにプロジェクションマッピング。
一瞬でそこはバルセロナの景色に包まれた。
常日頃から思うに、美術館、博物館、展覧会での柵、ポールは境界線を思わせる。
近づいてはいけない=遠くから眺めていなさい。
断絶、距離、対岸。
ガウディ×井上展で面白いのは、白い壁自体がモチーフというかカンバス。
井上先生が直筆で落書きのようにガウディのエピソードをつづる場面がちょこちょこ点在します。
ひとりごとのようなセリフ、鉛筆の力強い線、そして近づかない触れないことをお願いするかのような木製の小さいチップ片が、壁沿いの足許にびっしり敷き詰められている。
チップを敷き詰めることにより、そこから先へは観覧者は自然と足を踏み入れない。
ただ、そこに柵があったら。
ポールがあったら。
一瞬で気持ちは冷めてしまったような気がする。
作家の存在感をまもるチップは、秋の散歩道に続く美しい落ち葉のよう。
それさえもアートで私はにやりとした。
床から天井から壁から空間から作り出されるガウディ・ワールド。
美術館や博物館、展覧会でトータルな世界観を壊さずに展示することはかなり難易度が高いと思う。
作者側の思いもあるでしょう。
そして見る第三者側の外からの視点の受け取り方もあるでしょう。
開催する主宰側の興行的なペイがどうのの話もあるでしょう。
何を見て何を思って、何を受け取って帰るかは、それぞれの心の中の出来事です。
それを考えたうえで、私はこの展示会に足を運んでよかったなと今も思います。
スペインでもガイドレシーバーを借りて説明を聞きながら観光したので、展示会でも借りてみました。
(会場内は撮影禁止だったので、まったく画像なし)
音楽も流れるので、ただ自分で見て歩くより世界に浸れるかなと思ったんですね。
会期終了寸前で混んでいましたし、人ごみに揉まれて終わるだけだともったいなく思えましたから。
いつも朝のワイドショーで見る女子アナの方のガイダンスで聞きやすくはありましたが、結論としてはこのレンタル料が500円っていうのはちょっと高いという印象ですね・・・^^;
展示されていたものは、現地のガウディ研究機関からの約100件の貴重な作品の貸与など。
「どれが複製ですか?」という私の質問に、
案内係の方の回答は「複製という概念が、ガウディ作品にはまず存在しません」でした。
世界遺産のドアをはったぐって持ち込んだのか、そっくりに複製したならかなり苦労しましたねという乱暴な意味で尋ねたのですが、応えはとってもシンプルでした。
「この空間を楽しむことに集中しましょうよ。」というメッセージ。
うーん、自分の単純な脳を恥じました><
ここは確かに東京で六本木だけど、時空がカサ・バトリョの天井の渦巻きのようにぐにゃーんと湾曲につながっていて、カサ・バトリョに、カサ・ミラにつながっているような錯覚。
意識が体を抜け出て、遠くスペインのガルシア通りに飛んでゆく。
「変わってるよね」と昔は思っていたぐにゃぐにゃのラインは、人の動線にもとづいて考えられ、手のぬくもりをもとに作られたこと。
「面白いよね」と思っていたカラフルな装飾は、自然界の森羅万象に対する尊敬のデザインと、高い技術をもってエコロジカルな面からも優れていたこと。
会場の足許にはスペインの太陽と海、海洋生物の泳ぐ六角形のタイルが同じように敷かれている。
レプリカって概念はもうふっとんだ。
私は空を飛んで、あの街燈の下にいる。
完成に向けて成長し続けるサグラダ・ファミリアの背門の扉には、世界の言語でのメッセージ彫刻が彫られるそうだ。(現在制作中)
今回の話が持ち上がるよりかなり前、バルセロナを旅した井上先生がひょんなきっかけからサグラダ・ファミリアに刻まれる日本語の原本を書いたというくだりはまさに壮大な物語。
どこでつながり奇跡は起こるか、聞いて鳥肌が立ちました。
こうしてガウディやスペインと縁深きこととなった井上先生は、この展示会の出品作に向けて、なんとカサ・ミラの中にアトリエを構え、そこで作品を制作したのだそうだ。
ガウディの息を感じる場所での制作は、まさに想像の渦中。自分とガウディの一体化するような時間があったに違いない。
"生きている"、ではなく"生かされている"と思える瞬間がときにはある。
そういった運命の悪戯のような神様のプレゼントのような経験があって、自分は無駄に生きているわけではないのかもしれないと生きることに期待してしまったりもする。
私が森アーツセンターで握ったのは、レプリカのドアノブ?
それとも本物のガウディのドアノブ?
もう どれでもかまわない。
さぁ、妄想の扉を開けて、妄想の旅に出ましょう。
<つづくんだなこれがwww>