2016年4月10(日)に大森にあるユダヤ教正統派シナゴーグで過越祭(ぺサハ)の為のマッツ焼き講習会が行われました。今年の過越祭は4月22日の日没から始まります。今回は子供たちが手作りのコックさんの帽子を被ってマッツォ作りに挑戦しました。私たち女性は婦人会として勉強会に参加しました。

聖書ではマッツォ(Matzo)のことを「種無しパン」と呼んでいますが、英語では発酵させてイースト種の入っているパン(放置してねかせたパン)を「leavened bread」と言い、発酵させていないイースト種の入っていないパン(放置してねかしていないパン)を「unleavened bread」と言います。日本語から直訳すれば「発酵した」という単語「fermented」はパンに対しては使わないようなのです。・・・というのは、旧約聖書の時代に作られていたパンは麦がもつ天然酵母で生地を発酵させていたからだそうです。主に小麦、スペルト小麦(spelt)、大麦、ライ麦二条大麦の5種類の穀物からできたパン生地は水分を含み始めてから18分経つと自然に膨らみ始めるらしいのです。だから、市販のドライイーストを入れる必要もないし、昨日手作りしたパンの一部を発酵種として入れてねかす必要もないというのです。それを考えるとドイツのライ麦パンを作る際に使うサワー種(サワータイク、sauerteig)もそうですよね。この天然酵母を用いたパンを作る方法は神さまから与えられた生活の知恵の1つなのですね。

<ドイツ式パン種の作り方>http://www.geocities.jp/deutschebaeckerin/

<サワータイク通販>http://www.cuoca.com/item/017351.html
        


私が2011年4月14日に書いた記事「サワータイクを入手しました」をお読み頂ければお分かりかと思いますが、大岡山にあるドイツパン店「ショーマッカー」さんでサワータイク(サワー種)をお分けして頂いた際にマイスターの清水氏がお教えして下さったのは「パン店のように毎日パンを焼いていて厨房内の空気にイースト菌が混ざっている環境であれば失敗なく一晩で簡単にサワー種を使って発酵させることができるが、家庭で毎日パンを焼く環境でいない場合は空気中にイースト菌が混ざっていない為失敗する可能性が高い」とのことでした。

そう言われてみれば確かにユダヤ教の除酵祭(これはBedikat Chametz(ベデイカト・ハメズ)と同じものなのか定かではありませんが、Feast of Unleavened Bread)の儀式の際に大森にあるユダヤ教正統派シナゴーグでは厨房にあるテーブルにもイースト菌がついているという理由からテーブルも外に片付けてしまいます。このことからも分かるように小麦粉を水と混ぜてその毎回パン作りに使用しているテーブルの上で練り上げた瞬間に18分以内に自動的に発酵が始まるといっても良いのだと思います。そして、彼らの厨房はいつもオーブンに火が入っていて室内の温度も比較的に高いですから条件はそろいます。

だから結局のところ、中東諸国の気候であれば少々湿気があり雪も降らず比較的に暖かい気候の場所であれば簡単にパン作りに適した環境を作り出すことができるし、毎日パンを焼いている環境であれば「小麦、スペルト小麦(spelt)、大麦、ライ麦、二条大麦の5種類の穀物からできたパン生地は水分を含み始めてから18分経つと膨らみ始める」といったようにたったの18分で発酵し始めるのではないでしょうか。実験したことはありませんが、日本の一般家庭では条件はそろっていない場合が多いし、生地を練って放置したところでたった18分で発酵し始めることはないような気がします。りんごの皮を水に漬けて天然酵母を起こす際にも18分では無理ですもんね。パンは中東諸国の郷土料理と言ってしまうと少々ヘンかも知れませんが、大昔からピタパンなどのパンを主食にする食生活が中東諸国で定着した訳として気候や風土が関係してくることが分かります。そうでなければ日本の縄文時代にも米粉でパンを作り始めていたことでしょうから・・・。



大森にあるユダヤ教正統派シナゴーグの主任司祭であるラビ・ビンヨミンの奥さまであるエフラットさんがしきりに何度も「18分が勝負だぞ!」と言ってましたが、結局のところそういうことだったのですね。エジプトを脱出するまでのタイムリミットが18分しかないから急げということではなく、小麦、スペルト小麦(spelt)、大麦、ライ麦、二条大麦の5種類の穀物からできたパン生地が発酵し始める前にオーブンに入れて焼かなければならないという意味だったのです。マッツォ作りとは言ってものんびりゆっくりと楽しんで手作りしていたら、そのマッツォはもはやマッツォではなくなってしまっているからです。マッツォ作りでは生地を練って焼くまでの時間が18分以内でなければならないというルールが鉄則のようです。



クラッカーのようにフォークで穴を開けてオーブンで焼きます。基本的に生地を薄く伸ばすという点ではピザに似ていますが、イタリア人シェフのように生地を空中に投げながら薄く拡げるという技術は当時のパレスチナにはなかったのでしょうか。まあ~、18分以内に作業を進めなければならないので何度も空中に投げて拡げる時間はないですが。



こうして天板の上にのせてオーブンで焼きます。



子供たちが楽しみながら焼いたので少々インド風になってしまいました。



下のビデオはカトリック教会の修道院で焼かれている聖体拝領の際に使用される種無しパン(ホスチア)がどう作られているのかを紹介しています。生地を練って伸ばすという作業が省略されいますので焼き上がるまでの時間が3分くらいです。



カトリック教会で使用される種無しパン(ホスチア)はオーブンではなく鉄製のワッフル型に生地を挟んで焼き上げる為、このビデオではたったの14秒で出来上がるとシスターが話しています。大型のホスチアは司祭用、小型のホスチアは信徒用です。


(画像提供元:http://www.geocities.jp/tomochingko/passover.html

カトリック教会での過越祭のミサでの司祭が唱える台詞、「神よ、あなたは万物の造り主、ここに供えるパン(ぶどう酒)はあなたからいただいたもの、大地のめぐみ、労働の実り、わたしたちのいのちのかてとなるものです。」・・・「まことにとうとくすべての聖性の源である父よ、いま聖霊によってこの供え物をとうといものにしてください。(パンとぶどう酒の上に十字のしるしをする)わたしたちのために主イエス・キリストの御からだと御血になりますように。 主イエスはすすんで受難に向かう前に、パンを取り、感謝をささげ割って弟子に与えて仰せになりました。『皆、これを取って食べなさい。これはあなたがたのために渡されるわたしのからだである。』食事の終わりに同じように杯を取り、感謝をささげ弟子に与えて仰せになりました。『皆、これを受けて飲みなさい。これはわたしの血の杯、あなたがたと多くの人のために流されて、罪のゆるしとなる新しい永遠の契約の血である。これをわたしの記念として行いなさい』」。このようにしてユダヤ教の人間の罪を贖う為に行われるコルバン(korbanot)と呼ばれる生贄の子羊がイエス・キリストの十字架での死にとってかわった為、キリスト教ではイエス・キリストのことを「神の子羊」と呼ぶようになりました。


(画像提供元:Repartiendo hostias.