看護師さんと一緒に私達は産科病棟の向かいにある病棟へと来ました
渡り廊下の窓から外を見ると辺りはすっかり暗くなっていました。
ある部屋の前で看護師さんがインターフォンを押し「連れて来ましたよ。」と中の看護師さんに連絡しました。
暫くするとドアが空き、やたら明るい看護師さんが出て来ました。
部屋に入るとそこには下駄箱があり靴を脱ぎ、手をキレイに洗い、アルコールで消毒してからやっと病室の中に入ることが出来ました。手を洗っているときに看護師さんが「ここはNICUと言って、乳幼児専門の集中治療室です。病室の中にはとてもデリケートな赤ちゃん達が入院しています。外からの菌等、通常なら何ともないことでも、ここの赤ちゃん達には命に関わる病気に繋がる事もあるんで、大変面倒かとは思うんですけど、毎回ここに来るときはさっきみたいにインターフォンで声かけと手洗いを宜しくお願いしますね」
そう言うと私達を病室の中に案内してくれました。
病室の中には幾つもあのアクリルケースが壁際に並んでいました。
そして看護師さんが私達の赤ちゃんのベットに案内してくれました。
一番端の隅の方にあるケースが彼のベットでした。
私達は彼の顔を見ました。
彼の顔には鼻と口からチューブを入れられそのチューブを固定するテープでよく分からない状態でした。
体はとても小さくうつ伏せで足を開いて寝て、大きさはティッシュ箱にスッポリ入ってしまいそうな大きさで、背中には産毛がびっしり生え、本当に赤ちゃんと言うより子猿に近い感じがしました。
私達が彼を見つめていると一人の女性が声をかけて来ました。
「可愛いでしょう‼お待たせしてすみませんでしたね。私が赤ちゃんの担当医の内村です。これから宜しくお願いします‼」
そういうと先生はどうぞ赤ちゃんに触ってあげて下さいね‼と言ってケースに開いている2つの穴に手を入れて赤ちゃんを触ってくれました。
最初は妻が触りました。妻は私の方を見て可愛いと笑っていたと思います。
次に私の番ですが、どうしたらいいのか?本当に触っても大丈夫か私は心配で恐々と彼を触りました。
彼の手はとても小さく、指は爪楊枝程の細さしか有りませんでした。
胸にはサキュレーションを
測る電極がキティちゃんのテープで貼られていました。
小さな小さな赤ちゃんの何処を触っていいのか?私は戸惑いながら彼を見つめていました。
先生と看護師さん達はとても優しく私達に色々話してくれました。そして、これこら一緒に頑張って行きましょう‼と応援してくれました。
暫くすると、先生から明日は面会にこれますか?今日はもう遅いので、また明日これこらの事をお話したいので宜しいですか?
と聞かれたので私はハイと返事をし病室を出ました。
妻もかなり疲れているので病室に戻って妻を休ませよう思いました。
NICUを出る前に先生が「ここには面会時間は有りません。お父さん達が逢いたくなったら夜中でも、早朝でもいつでも結構何でいつでも会いに来て下さいね‼」
そう言ってくれました。
私はハイと返事をしました。
病室に妻を連れていき赤ちゃんの話をしました。名前の話、小さかったって話、色々話ました。
そして妻との面会時間が終わりなったので私は子供たちが待っている義父の家に帰ろうとエレベーターの前まで来ました。
エレベーターのボタンを押そうとしますが、彼の事が気になって私の足はNICUに向かっていました。
インターフォンに呼び掛け、手洗い消毒を済ませ彼のところへ行きました。
看護師さんが「ゆっくりしていって下さいね‼」と椅子を持ってきてくれました。
私はその椅子に座り彼をじっと見つめていました。
両手をアルコールで消毒して穴に手を入れ彼の手を触りました。
私は何でこうなるんだろ?何で私達がこんな目に遭うんだろ?そんなに私達が悪いのか?そんな事を思いながら彼の手を触っていました。
その時です。
彼の小さな手が私の指をギュっと握り返して来ました。
まるで私に頑張って‼と言わんばかりに私の指をギュッ、ギュッと握っていました。
私は涙が出ました。
私はこんなに小さな息子から何とも言えない力強さを感じました。
この子は生きている。必死で生きようとしている‼
ゴメンね。お父さんが頑張るから‼もう諦めたり、悲しんだりしないから‼
お前が生きようと頑張っているのに私が弱気になってはお前が困ってしまうよな‼
大丈夫‼大丈夫‼きっと私が何とかするからね‼
私はケースの中の息子に約束しました。
そうさ‼生きていれば上等だ‼
何とでもなる‼障害があっても一緒に居れば何とでもなる‼
そうさ‼生きていれば上等なんだ!
私はそう感じました。
少し私の心から何か吹っ切れた様な気がしました。
そして私はNICUを出て妻の実家に向かいました。

続く